24.エンチャント
おさぼりみかんが、ギリギリで投稿(^◇^;)
チャンドラの屋敷_地下にある薄暗い廊下の先に、重厚な扉が静かに開かれると、そこには広々とした大広間が広がっていた。壁には古びた紋章や魔法陣の跡が刻まれ、優雅なシャンデリアがかすかに揺れて、柔らかな光を部屋全体に広げていた。
アスクは少し緊張した面持ちで、チャンドラの横に立っている。チャンドラは長い指を優雅に動かしながら、部屋の中央にある古びた木製のテーブルを指し示す。その上には、スキルの書やいくつかの魔石、そして奇妙な形の魔道具が無造作に置かれていた。チャンドラはテーブルから一冊の古びた書を取り出し、アスクに差し出した。
「これはスキルの書だ。エンチャントに関する知識を深めるためのものだ。」
「エンチャントって、具体的にはどんなことをするんですか?」と尋ねると、チャンドラは微笑みながら説明を始めた。
「エンチャントは、アイテムに魔法の力を宿らせる技術だ。これによって、武器の攻撃力を高めたり、防具の耐久性を増したりできる。もちろん、属性付与や仕様も調整可能だ」
アスクは興味津々で、さらに質問を投げかけた。
「攻撃力や耐久性、属性付与……それぞれの武器や防具にエンチャントできるんですね?」
「そうだ」とチャンドラは頷いた。
「攻撃力は敵に与えるダメージを増やし、耐久性はアイテムの壊れにくさを高める。仕様は持ち運びやすさや動きやすさに影響する。これらをバランスよく調整するのが、エンチャントの醍醐味だ。」
しかし、チャンドラの表情は少し困った様子だった。
「実は、エンチャントのスキルを持つ者は少なくてな。みんな攻撃系のスキルを好むから、生産職のエンチャントスキルはあまり人気がないんだ。」
アスクはそれを聞いて、少し考え込む。
「そうですね……みんな実用的な攻撃スキルを優先したいですよね。でも、生産職のエンチャントも大事ですね。」
チャンドラは微笑みながら頷いた。
「その通りだ。エンチャントされた装備は、戦いを長く続けるために不可欠だ。そこで…アスクの出番というわけだ。このエンチャントスキルを利用して是非とも頼むぞ。」
アスクは新たな使命感を胸に、書に記された知識をじっくりと読み解き始めた。すると、目の前に光が広がり、彼の中に何かが流れ込んでくる感覚があった。数瞬の後、彼はスキルを習得したことを実感した。
この書は初級レベルであるものの、わずかばかりの経験値が刻まれている。その経験値の痕跡は、かつてこの書物を手にし、新たな力を手にした先人の想いを静かに物語っているようだった。だが、エンチャントスキルを習得しても、それを継続して利用したいと思う者が少なかったということをそのささやかな経験値が示しているようだった。
「エンチャントとは、物に魔法の力を宿すことだ」とチャンドラは静かに語り始めた。その声は重厚でありながらも、どこか温かみを帯びている。「ただ単に魔法を唱えるだけではない。対象に適した魔法を選び、それを正確に施す技術だ。例えば、このナイフには特定のエンチャントを施すことで、攻撃力、耐久力、速度を改善させることもできる。」
チャンドラは手に取ったナイフをクルクルと回しながら、「エンチャントは魔法の言葉と儀式の組み合わせだ。その魔法の意図を正確に伝えることが、成功の鍵となる。そして、その力の源は、アスク自身のマナだ。」と続けた。
チャンドラは手に取ったナイフをアスクへ手渡した。
「ここなら、落ち着いた空間で儀式を行うことができる。モノは試しだ。アスク、やってみるといい。」
アスクは手渡されたナイフを興味深そうに目を輝かせ、深呼吸をした。部屋の静寂の中、魔法の知識が静かに息づいている。彼は瞑想して、呪文を静かに唱え始める。
「エンチャンテッド!」
呪文を唱えると、ナイフが淡く光を放ち始める。空中に三角形のアングルが浮かび上がってきた。アスクは右側の角(攻撃力ゲージ)を伸ばしそうと試みるが、その瞬間、左側の角(速度ゲージ)が縮んでいくようなきしむ音が聞こえる。ナイフは、まるで熱を持っているかのように暑い感覚を伝えてくる。アスクは、左側の角をできるだけ縮めないように注意しながら、右側の角を伸ばすことに集中する。時間が経つにつれて、魔力は次第に消耗し、精神的な疲労も蓄積していく。
「もう限界です。」
アスクがエンチャントを終えると、ナイフを包んでいた淡い光がすっと消え、その刃は元の鈍い輝きに戻った。しかし、見た目は変わらなくとも、その手に伝わる感覚と、そこに宿る不思議な力が、明らかに違うものだと告げていた。
「できた……」
思わずつぶやき、アスクは興奮に胸を躍らせながら鑑定のスキルを発動する。すると、ナイフの情報の横に新たな文字が浮かび上がった。
【ナイフ】
* 攻撃力補正: +10%
* 速度補正: -5%
* 耐久力補正: 0%
数字を読み上げると、チャンドラが感心したように頷く。
「ほう、初めてのエンチャントにしては上出来じゃないか。」
その言葉に、アスクは少しだけ肩を落とした。攻撃力は上がったものの、速度が下がってしまったからだ。しかし、チャンドラはそんなアスクの様子を見て、にやりと笑う。
「何、不満そうな顔をしている。エンチャントというのは、完璧な結果ばかりが出るわけじゃない。ましてや、攻撃力を上げれば、そのぶん何かが犠牲になることだってよくある。アスクはたった一度で、攻撃力を10%も上げることができたんだ。これはすごいことだぞ。」
チャンドラの言葉に、アスクの表情が少しずつ晴れていく。
「それに、この速度のマイナスは、冒険者の腕でいくらでもカバーできる。いいか、エンチャントはあくまで補助だ。大切なのは、それを扱う冒険者自身の力だからな。」
そう言って、チャンドラはアスクの肩をぽんと叩いた。その温かい手の感触に、アスクは深く頷いた。
チャンドラも、満足そうに頷くと、するりと部屋を出ていった。アスクが彼の次の言葉を待っていると、再び扉が開く。しかし、そこに立っていたチャンドラは、先ほどとは打って変わり、両手に十本ほどの武器を抱えていた。ナイフ、ソード、そして細身のレイピアまで、多種多様な武器が彼の腕の中に収まっている。
「これも頼むぞー。まだまだあるからな。」
そう言って、チャンドラは山積みの武器を床にドサリと置いた。武器がぶつかり合う鈍い音が部屋に響く。アスクが呆然とそれを見つめていると、チャンドラは楽しげに笑いながら言葉を続けた。
「マナポーションも用意するから待ってろ。今日は一日、特訓だ。」
そう言い残すと、彼は再び部屋を出ていった。残されたアスクは、目の前の武器の山と、手のひらからまだ熱が冷めないエンチャントナイフを交互に見つめ、小さなため息をつくのだった。
この光景は、チャンドラという男の恐るべき資金力を物語っていた。一般的に、一つや二つのエンチャントを行うだけでも、その費用は馬鹿にならない。ましてや、これだけの武器と、マナの回復を促す高価なポーションを惜しみなく用意できる者は、そう多くはない。
しかし、この圧倒的なまでの"恵まれた環境"がどれほど異質なものであるか、アスクが知るのはまだ先の話。彼はただ、目の前に積まれた武器の山に、これから始まる過酷な修行の日々を思いながら、静かに息をのむのだった。




