21.蜘蛛の糸
蜘蛛がチカへと距離を詰めていく。次の瞬間、蜘蛛が苦手で恐怖で固まるチカを見たアスクは、迷うことなく駆け出し、彼女を守るため、魔法の詠唱をする。
アスク「我が心に宿し水の精霊よ。汝の聖なる恵みを我に与えん。我が意思を乗せし水の壁よ。仲間を守れ…」
背後から忍び寄る気配に気づいたチカが振り返った瞬間、巨大な蜘蛛が牙をむき出しにして飛びかかってきた。悲鳴を上げる間もなく、蜘蛛の口から白い粘着質な糸が勢いよく噴射される。逃げられない、とチカが絶望に目を閉じたまさにその時だった。
アスク「水壁」
アスクの声が響き渡ると同時に、チカの目の前に突如として水壁が現れた。蜘蛛が放った糸は、その水壁に阻まれ、チカには届かなかった。水壁は蜘蛛の糸を受け止め、激しい音を立てて水しぶきが飛び散る。守られたチカは、信じられない光景に息をのんだ。水の向こうには、真剣な表情で蜘蛛に襲いかかるアスクの姿があった。
アスクは、ナイフを蜘蛛の顔面に深々と突き刺した。だが、巨体はびくともせず、返り討ちの爪がアスクの右腕を切り裂く。みるみるうちに麻痺毒が回っていく。それでも構わず追撃の一撃を放ち、ついに蜘蛛の息の根を止めた。
チカが、アスクに近寄り、震えた声で呼びかける。
「アスク、大丈夫!?」
彼女の視線の先には、毒蜘蛛の一撃をまともに受けたアスクの右腕があった。
通常の人間であれば、動くことすらままならないはず。チカは顔を青ざめていた。
しかし、アスクは眉一つ動かさない。それどころか、淡々とした声でチカを制した。
「大丈夫、問題ないよ。」
その言葉に、チカは半信半疑といった表情でアスクの顔を見上げる。痛みで歪むことも、苦悶に満ちることもなく、普段と変わらない平静な顔がそこにあった。
「でも、その腕…!」
チカは不安げに、相変わらず不気味な色を湛えているアスクの右腕を指差す。毒の進行は止まっているようには見えない。
アスクはそんなチカの心配をよそに、ゆっくりと右手を握りしめた。
指先までしっかりと力が入り、かすかに筋が浮き上がる。麻痺どころか、まるで何事もなかったかのように、その手はしっかりと機能していた。
「ボクには麻痺耐性があるんだ。」
アスクは軽く右腕を振ってみせる。まるで痺れなど微塵もないかのように、滑らかな動きだ。
「この程度で動けなくなるほど、ヤワじゃないよ。」
その言葉と、何よりもその毅然とした態度に、チカの顔から不安の色が消えていく。驚きと安堵が混じり合った表情で、彼女はただ、アスクの右腕を見つめていた。
アスクは少し困ったような、でもどこか優しい眼差しでチカを見つめている。そして、彼女の髪に絡みついた蜘蛛の巣に気づいた。
「これ、取ろうか」
そう言って、彼はゆっくりと手を伸ばした。彼の指先が彼女の髪に触れる。蜘蛛の巣は太く、金属線のように硬い。彼はそれを丁寧に、慎重に取り除いていく。時折、彼の指が彼女の耳にかすかに触れる。彼女の心臓は小さく跳ねた。
恐ろしい記憶を呼び起こすはずの蜘蛛が、今は全く別の、温かく優しい時間の一部になっていく。チカは目を閉じ、この瞬間を静かに受け入れた。アスクの指先から伝わる温もりが、恐怖で凍りついていた心をゆっくりと溶かしていくのを感じていた。
やがて、彼は満足したように手を離した。
「よし、もう大丈夫だ」
チカが目を開けると、アスクの優しい笑顔がそこにあった。蜘蛛の巣はもうどこにもない。しかし、彼の温かい指先の感触だけが、いつまでも彼女の頭の中に残っていた。
アスクが手を離すと、チカはほっと息をついた。
「ありがとう、アスク。助かったわ」
顔を上げると、アスクは少し照れたように笑った。
「大したことないよ。それより、他に怪我はない?」
彼の優しい言葉が、疲れた体に染み渡る。
激しいモンスターとの戦いの最中、いつもは頼りないアスクが、信じられないことにチカを救った。まるで蜘蛛の糸に導かれたかのような、胸の高鳴り。チカはその感情を、静かに胸の奥にしまい込んだ。
アスクのココロの中…
初めてのウォーターウォールだったけど、上手くできて良かった。チカの頭に蜘蛛の巣が付いてしまった。もっと、修練しないと。




