頼みの綱は幼馴染
GW初日。
といっても、今年のGWは四日連続で祝日の、一日空いてまた二日間の連休という感じだ。
「誰だよ……げぇっ!? 姉貴……」
朝っぱらから通知音の鳴るスマホの画面には、
【姉貴:用事がないなら実家に帰ってこい。以上】
のメッセージが届いていた。
「勘弁してくれ……俺はゆっくりしたいんだ」
ブブッーー
再度鳴るスマホ。
「くそっ。しつこいな、もうっ……ん?」
【柳:約束通り、買い物いこうぜ!】
「まじかよ……。【水無瀬:初日からは勘弁】ーー送信っと……」
GW初日からの呼び出しなんて勘弁だ。
もしここで誘いに乗ろうものなら、残りの休みすら誘われ続けるに違いない。
「俺は絶対に行かないぞ」
ーーピンポーン。ピンポーン。
「うそだろ……」
チャイムの音に嫌な予感を感じつつ、玄関を開けてみれば柳と姉貴が立っていた。
(こういう時の嫌な予感って、なんでこんなにも当たるんだろうか……)
内心で大きなため息を吐きつつも、「とりあえず、中にどうぞ」と二人を部屋に案内することに。
「で? 二人とも……いや、要件はわかるんだけどさ……? 今日のところはこのまま帰ったりしちゃったりなんてどう……?」
「「は?」」
(ですよね〜……)
「悠太、とりあえず家はまた今度でいいとして。友達とのお出かけがどうしてそんなに嫌なのよ」
「嫌ってわけじゃ……」
そう。別に嫌なわけではないのだ。
ただ、今日はなんか気分が乗らないというかなんというか……。
「いいから支度しな」
「え? 姉貴も一緒に来んの?」
「当然よ。ここまで来て、何もせずに一人で帰れって言うの?」
こうなったら姉貴は頑固だ。
なにを言っても聞かなくなる。
「はぁ〜……わかったよ……」
渋々だが準備をしよう。
ここでふとしたことに気づいた。
「友達と出掛ける時の服装って何着たらいいんだ……」
服が無い。
正確には、オシャレな服が無いのだ。
ファッションセンス? トレンド? そんなものとは無縁の生活を送ってきた反動が、高校生になって襲いかかってきた。
「仕方ないか……まぁ、俺の服装なんて特に気にも止め無いだろうし」
選んだのは、茶色のシャツに黒いチノパンという在り来たりな組み合わせだった。
「お待たせ……って、何やってるんだ?」
ようやく身支度を整えて、二人が待つリビングに戻ると、なにやら楽しそうに笑う声が廊下まで響いてきていた。
部屋の中では柳と姉貴が、TVゲームをしているようだった。
「あぁ、対戦してるのか。てか、柳のやつ案外上手いな……」
画面の中ではキャラクターが技を繰り出していた。
クマ型のキャラが柳のようで、鮭で姉貴の操作するキャラクターをボコボコにハメていた。
「ぐぬぬぬっ……」
姉貴の悪い癖其の二が始まりそうだなと直感し、もうしばらくはゆっくりできると確信が持てたので寝室に戻って読書でもしよう。
「……ん? 今なん時だ……?」
時計の針を読み驚いた。
気がつけばすでに二時間以上が経過していたのだ。
「姉貴たちは……まだやってそうだな……」
耳を澄ますとリビングから姉貴の『どりゃあぁぁ」とか柳の「うりゃぁぁぁ」とか、そんな声が聞こえてきたので、二人の戦いは白熱しているしているらしい。
「あの〜……そろそろ飯でも行きません?
あまりにも長引く2人の激戦に痺れを切らし、結局は俺の方が限界になって、誘う側になる羽目に……。
「いらっしゃいませ〜3名様でよろしいですか?こちらの席へどうぞ〜」
やって来た最寄りのファミレスで、小気味よいテンポ感の店員さんの案内で、店の奥側のテーブル席に案内された。
「それで、どっちが勝ったの?」
話題は一先ず、先程の白熱試合について。
「柳くんの勝ち……」
結果はやっぱりといったところだ。
「いや〜水無瀬のお姉さんも途中からコツ掴み始めてましたし。なかなか盛り上がったっすね」
柳のナチュラル煽りが、鎮火し始めた姉貴の闘志に油を注ぐ。
「帰ったらもう一戦ね」
柳が少し冷や汗をかいている。
姉貴の目が笑っていないのが原因だろう。まぁ、それも柳の自業自得だ。救い用は無い。
『勝つまで辞めない』……これが姉貴の必勝法なのだ。
「まぁ、再戦の約束は程々に、この後の予定なんだけど……」
店内を見回して壁がけ時計を探すが、どこにも見当たらない。
「時計なら無いと思うよ。客が時間を気にせずゆっくり食事を楽しませるための経営戦略だろうさ」
「お姉さん、物知りですね」
「まぁね。一応これでも経済学先行だからさ」
何だかんだ柳と姉貴の会話は弾んでいる。
俺だけが取り残されている気がしないでもないが、それはさておき仕方なくスマホで時刻を確認する。
「この時間からだと流石にモールに行ってもゆっくりは回れないな」
ここから当初計画していたショッピングモールまでは電車で小一時間はかかる。
「てか、姉貴は家までどうやって来たんだよ」
「車。裕太の家の近くのコインパーキングに停めてきた」
「なんで車出してくれなかったんだよ……」
「なんで私がアンタの足にならんといかんのよ」
いや、休日の朝っぱらから押し掛けてきておいて……と腹立たしいが、こんな事を口に出して喧嘩するには面倒くささの方が勝った。
「じゃあ、これからどこで何をするんだよ」
「柳くんはこの辺詳しい?」
「え? まぁ、一応地元ですし、それなりには」
「じゃあ柳くんセレクトでどこか行こっか。私、飲み物とりに行ってくるね」
「わっかりました! 任してください! ……で、水無瀬一つ聞くが……」
「姉貴の趣味なんて知らないぞ」
「まじかよお前……。それでも姉弟なのか?」
「知らねぇよ……」
「どうすっかな〜……。年上のお姉さんが喜ぶ所なんて正直思いつかんわ」
両の掌を上に向けてお手上げを表現するが、なんか微妙に鼻に付く……。
「普段は鈴原さんとどっか出掛けたりしないのか?」
「鈴原と? なんで?」
「なんでって……お前なぁ……。もういいわ。で、出掛けないのか?」
「まぁ、昔はよく一緒に遊んだりしたけど、中学に入ってからは全然だな。向こうは向こうで友達と仲良くやってるみたいだし、俺も男友達と過ごす時間が増えたな」
思春期特有の異性との距離感がわからなくなるってやつか……。
どうやら幼馴染って関係は難しいらしいな。ここは一つ、余計なお節介を焼いてやるとするか。
「参考程度にでも鈴原さんに聞いてみたらどうだ?」
「ん? そうだなぁ……そうするか。悪りぃ、ちょっと外で電話してくるわ。お姉さんには適当にごまかしておいてくれ」
「お、おぅ……」
そそくさと店外へと出て行ってしまった。
「柳くん、なんか急いで出て行ったけど……なんかあった?」
しかも姉貴にバレてるし……。
「あ〜……あれだ。トイレだ」
「ふ〜ん……店内にもあるのにね」
「急いでたんだろ……」
後で柳には謝る事にしよう……そう心の中で誓ったのだ。