”隠キャ”な俺と、学校の”ヒロイン”と、”友人の友人”女子生徒A
5月。
高校生活最初のビッグイベントーーそう、GW目前である。
『なあなあ? GWなにする?』
『無難に買い物とか?』『駅前にカフェができたらしいよ』
などという、クラスメイトの楽しそうな会話が耳に入る。
俺?
もちろん、”ぼっち”だ。
休み時間の全てを机に突っ伏して、空気を演じる。
けっして、虐められているわけでも、仲間外れにされているわけでもない。
ただただ、話し相手がいないのだ。
「おい。水無瀬、起きてるんだろぉ?」
そんなことを考えていると、頭の上から声がかけられた。
声の主はーー
「……なんだよ、柳」
目線をあげれば目の前に爽やかイケメンが、自分の椅子に後ろ向きで腰掛けて、こちらに話しかけている。
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!! 水無瀬はGW、何か予定とかないのかって聞いてんの」
「……なにもない」
そう答えると、柳はなにやら嬉しそうにニヤニヤしている。
「じゃあさ、俺と出掛けないか?」
「は?」
唐突な誘いに呆気にとられてしまう。
「水無瀬は最近こっちに引っ越してきたばかりだろ? よかったら街を案内してやろうと思ってさ」
「大きなお世話だ。散策くらい一人でできる」
「一人じゃ寂しいだろ?」
断っても断っても、柳の誘い文句は続いた。
そしてーー
「わかったよ……」
結局はこっちが折れてやる羽目になった。
まぁ、特に予定もなかったからいいのだけれど……。
◇◇◆◇◇
昼休み、なぜか柳が付きまとって来る。
「なぁ? 水無瀬は昼飯、学食か?」
「……うるさい」
「いつも一人で飯食ってるのか?」
どれだけ冷たくあしらっても、延々と柳は話しかけ続ける。
「柳……」
「ん?」
しびれを切らしてずっと疑問だったことを聞くことにした。
「なんで俺につきまとうんだよ」
「なんでって……俺たち"友達"だろ?」
前言撤回。
"こいつ"は良い奴なんかじゃない。
ただアホなだけだ……。
「あのな……いつから俺達が友達になったんだよ」
「いつからって。おかしなこと言うやつだな」
そして彼は続ける
「だっていつも楽しく話してるじゃんか」
一方的に話しかけられていると感じていたのに。
それでも、柳は俺の事を友達と思ってくれていたらしい。
そして、そんなことを"当たり前"だと言わんばかりの真っ直ぐな目で言われたら否定も出来やしない。
「なんだよ? そんなに俺の顔みて、なんか変か?」
「あぁ。お前は変な奴だよ、柳」
そんな皮肉混じりのあしらいの言葉に、それでも柳は嬉しそうに『そっか〜』と言うのだ。
結局、学食まで共に行く羽目になった。
「水無瀬の唐揚げ定食、美味そうだな」
「分けてやらんぞ……って、おい!」
「いいじゃん、いいじゃん。俺のとんかつ定食分けてやるから」
頼んでねぇよ……。
「そういえばさ〜。水無瀬はさぁ、宮本さんのこと、どう思ってる?」
「は!?」
人から奪った唐揚げを美味そうに頬張りながら、なんら悪気の無い様子で柳は喋る。
「やっぱりさ、俺達も高校生なわけじゃん? しかも、同じ学年に学校一の美少女がいるなんて……ん? どうした? 顔、赤いぞ?」
柳はアホだが、感は鋭いらしい……。
「はっはぁ〜ん。さては、水無瀬。宮本さんのこと狙ってるな?」
「そんなんじゃない……」
「じゃあ、どんなんだよ?」
脳裏に浮かぶのは、先日の夜の公園での出来事。
風呂上がりの甘い匂いと、普段とのギャップのありすぎる姿。
意識するなという方が難しいだろう。
しかしそれでも、きっとこの気になるっていう気持ちは、柳が言う恋愛とは違う。
そう、例えるならーー
「UMAを見つけた気分だよ」
「何言ってんだお前」
確かに、学校一を争う美少女をネッシーとかチュパカブラとかツチノコとか、そんな非現実的な物に例えたことを、自分でもどうかと思う。
「いや、なんでもないわ」
誤魔化そうと興味無さげに振る舞うが、内心はかなり動揺していた。
「あっ。宮本さんだ」
柳の言葉に反射的に後ろを振り返る。
「嘘ぴょ〜ん。宮本さんは居ませんでした〜。てか、やっぱり気になるんじゃないかよ」
ケラケラと楽しそうに笑う柳の姿に、初めて苛立ちを覚えた。
「もう絶交な……」
◇◇◆◇◇
昼食終わり、残りの休み時間を有効に有意義に活用するために図書室へと向かった。
「で、いつまでついて来るつもりだ?」
今だに柳は付いてきている。
「いやぁ〜俺も暇でさ。水無瀬と居たら楽しいかなぁ、なんて思ってよ」
「……俺にそんな趣味はないぞ……?」
「ちげぇよ!?」
よかった、と内心安堵した。
「柳くらい社交的なら、他にいくらでも連む奴くらいいるだろ。なんでまた俺なんだよ」
「う〜ん……」
「そんな悩むくらい理由が見つからないのかよ……」
「いやいや、そういうわけじゃなくてな?」
ルックスで言えば、柳は中の上。あるいは上の下といった具合だろうか。
少なくとも高校生活において、特に友人作りに困りそうにはない。
そんな彼が、なぜそこまでして自分と仲良くなろうとするのか理解できないのだ。
「水無瀬って、なんか何考えてるのかわかりやすいじゃん?」
「は?」
「そうそう、そういうとこだよ」
「……?」
「そうやって感情がすぐに態度や声色に出るところ……俺は結構いいなって思ってるんだぜ?」
「やっぱりそういう趣味なのか」
「ちげぇよ!?」
柳の叫びが廊下に木霊した。
「ちょ、お前!? うるさい!!」
周囲の好奇な視線がこちらに注がれてしまう。
そんなやりとりを続けていると、廊下の向こう側から、女子生徒二人が歩いてくるのが視界の端に入った。
周囲の視線が俺たちから逸れていくのが見て取れる。
「あれ? 柳くんじゃん! なにしてるの?」
女子生徒Aが、なにやら親しげに柳に話しかけてきた。
「なぁきいてくれよぉ〜……あっ、こいつ俺と同じクラスの『水無瀬悠太』。でさ、こいつが俺のこと、男が好きだって言うんだぜぇ」
「なにそれぇ〜」
友人の友人との会話ほど割り込みにくいものはないだろう。
なによりも、女子生徒Aと一緒にいるのがあの『宮本綾乃』ということもあり、俺は気配を消して空気を演じることにしようと密かに心の中に決意した。
しかし、残念なことに俺の決意は呆気なく打ち砕かれた。
「なんだ。水無瀬くんって、柳くんのお友達なんだね」
俺が今一番避けたかった相手ーー『宮本綾乃』が俺を空気にすることを許さなかったのだ。
脳裏に再度、先日の夜の公園での出来事が思い起こされた。
そしてこれ以上気まずくなるを避けるために、適当な返事でお茶を濁そうと口を開こうとする。
「ん? あやのん、知り合いなの?」
しかし、女子生徒Aはそれを見逃さなかった。
俺が返答するよりも早く、さらなる関係の追求に取り掛かる。
勘弁してくれ……。
内なる俺が悲痛に叫んでいるのが聞こえた。
「うぇ!? えっと……」
宮本さんも返答に困っている。
「いや! 知り合いってほどではないんだけどさ! あの……ほら!」
俺は終始しどろもどろになりながら、必死に脳みそがはち切れんばかりにフル回転させる。
「この前、図書室で少し話したくらいだよ!」
嘘は言っていないし、この場をやり過ごすには完璧な答えだろう。
我ながら、よくやったと褒めてやりたい。
「そっか〜。あっ!? 次移動教室じゃん! あやのん行こっ!?」
「あっ……うん! そうだね」
女子生徒Aが足早に去っていく。
それに続いて宮本さんが俺たちの隣を通り過ぎようとした瞬間。
「二人だけの秘密だね」
俺にしか聞こえないような小さな声で、そっと優しく呟くのだ。
パタパタという上履きが廊下を駆けていく音が薄っすらと聞こえた。
「ーーおい……。お〜いってば」
「ん……? あっ、悪い。少しぼーっとしてたわ」
「大丈夫か、お前?」
「あぁ……」
走り去っていく宮本綾乃の背中を、ただただ見入っていたようだ。
読んでいただき、誠にありがとうございます♪
引き続き、キュンキュンとするような物語にしていこうと思います!
できる限り毎日一話以上は投稿しようと頑張りますので、応援宜しくお願いします!
面白かった、続きがきになる、って方は是非是非、ブックマークと評価、リアクションをよろしくお願いします!
コメントもお待ちしております!