ミステリアスな美女の正体
惑星カインでは盛大な祭りが行われていた。
「うおー!」
「ファイトォ!」
雄叫びを上げながら全力疾走する隻翼一家の若い衆たち。
カインの神殿に到着した者が優勝だ。
「やったぜ!」
「お前が今年の福男だな」
ニシノミヤスフィア名物福男決定選が、十年ぶりに実施されたのだ。
若い青年は笑顔ではにかみながら、福男と書かれた黄色の法被をまとっている。三人までが服男だ。
「この屋台は凄いな!」
カインがはしまきとタコヤキをもって現れた。
ベルゼブブは屋台のなかに消えている。
「惑星カインからここまで人が集まるとは。感謝だ」
「食べ歩きとは。いやはやら楽しいな。なんだか色んなゲームもあるみたいだな?」
「射的に金魚すくい。風船釣り。スーパーボール。お面売り。伝統的な出店だよ」
「お前達、祭りに命を賭けていないか?」
「賭けているぞ。俺はその元締めだからな」
隻翼一家の親分なのだ。娯楽を提供することはホーカーという仕事よりも誇らしい。
子供達の笑い声が聞こえる。
「追放者惑星だ。辛い思いをさせてばかりだったからな」
「座標はわかったんだ。またそのうち来るさ」
「頼んだぞ。いったんやり残した仕事があるからな。仕上げたら戻ってくる」
「屋台は三日間。宵戎。本戎。残り戎だ。全部回れるさ」
「俺はアスモデウスみたいに死んだりはしないからな!」
「死んでないからな?」
全屋台のカロリーを考えるとアスモデウスのようになりかねない。カインは足早に去って行った。
ベルゼブブといい、義体をもっている超越知能は食を追求する傾向にある。
「さて、と」
隻翼は屋台のなかを歩いて目的の人物を見つけた。
「ナミ姉。そこにいたのか」
「……レイジ君?」
予想外の展開にナミも目を大きく見開いていた。
「せっかくの屋台だ。たまには二人で回ろうか」
隻翼にとってはこれぐらいの礼しかできない。
「……いく!」
さっそくいつものように腕にしがみついてきたが、今日ぐらいは気にしないことにした。
「一番手は私…… やった!」
「二番手はいないと思うぞ」
「……いるよ」
くすくす笑うナミ。こうしてみると儚げな美人そのものだ。
二人は昔話をしたり、食べ歩きをしながら屋台が並ぶ道を征く。
「……風船釣り。懐かしいね」
「久しぶりにやってみようか」
「いいの?」
和やかな時間だが、屋台全員が目を見張らしている。
この時間が長く続いて欲しいと、かつてのニシノミヤスフィアに住む者すべての願いだった。
「推しのノマカプが風船釣りしている…… 尊い」
「俺はあの光景がもう一度見た勝ったんだ!」
「あの二人、絵になるね」
隻翼一家全員が見守る光景だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
二人で二時間ほど歩いただろうか。
「……楽しかった。レイジ君……」
「俺もだよ。明日もあるぞ」
「優しいね君は。でもね。そろそろ本命の人が来るから……」
「本命?」
「あそこ」
隻翼は振り返ると驚愕した。
エイルとロズルが手を振っていたのだ。
「隻翼!」
「隻翼。夢のようですね!」
二人とも綺麗な着物をきている。
「その格好は?」
「チヒロちゃんたとが着せてくれた!」
「せっかくの機会だからと。ドヴァリンたちはもう酒盛りにいったようですね」
「……久しぶりの再会を楽しんで…… じゃあ私はここで……」
影のように消えいこうとするナミの手を取るエイル。
「何をいっているの。四人でお祭りを回るんですよ?」
「そうですよ。私たちはあなたとも積もる話があるのです」
「……いいの?」
「ナミがいないと嫌ですね!」
「私もです」
「そういうことらしいぞナミ姉。四人で回ろう」
「……うん」
ナミも心なしか嬉しそうに笑顔になる。
「推しが四人に増えたんだけど!」
「え? あれが若のいっていた愛する人? レベル高過ぎ!」
「俺たちはあんな美人に守護られていたのか……」
「その表現はやめろ!」
隻翼一家にも別の意味で動揺が広がっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヘイジの屋台は大繁盛していたが、ようやく人の波も落ち着いてきたところだった。
「今日は大繁盛だったなぁ」
無縁煙草で一服しているセンノスケ。
「あと二日ありますからね。気合いをいれないと」
「そうだな。親分がこっちにいらっしゃるようだ」
隻翼が三人の女性を連れて歩いている。一人はナミだ。いつもと違い、華やかな感じとなっている。
銀髪で小柄な少女はりんごアメを美味しそうに頬張っていた。
背が高い、耳の尖ったミステリアスな美女は綿飴を手に持っている。
「ヘイジさん。お疲れ様です。もう今日はおしまいですか?」
「いえ。まだ作れますよ! ところでどうして俺の名前を知っているんで?」
「私ですよ。ロズルです。皆様が乗車しているアルフロズル」
自分を指差してロズルだと強調する。
「ロ、ロズルの姐さん! ではその隣のお嬢さんがエイルの姐さんですかい!」
「エイルです!」
「今すぐ作りますよ! 少しだけ待っていてくだせい!」
「落ち着けヘイジ」
「センノスケ! たこ焼きも食べたいです!」
「お任せを!」
「ダメですよエイル。わがままをいっては。センノスケさんのたこ焼きはソースがいいですね。食べたかったのです。明日来たときお願いしたいです」
お供えでセンノスケのたこ焼きをしっているエイル。
念願の実食でもある。
「待ってください。今すぐ作りますんで。それにソースとはお目が高い。ソースこそは伝統です。喜んで作らせてもらいますエイルの姐さん」
神速で屋台に戻っているセンノスケ。ソースはセンノスケ秘伝のソースだ。ロズルに食べて貰いたい一心で引き留めた。
「嬉しいです。お待ちしますね」
「慌てる必要はないからな」
隻翼が苦笑する。動きが二倍速のようになっている。
「……二人とも喜んでいる。お供えもいいけど、やっぱり食べたいよね……」
ナミがしみじみと呟いた。目の前にあるのに食べられないというのは酷な話だ。
「お供えはないよりいいんです。いいんですが! 分析するしかできないので実はかなりの飯テロ状態でして」
「だろうな…… すまないな二人とも。カインに感謝だ」
「ロズルの姐さんにようやく食べてもらえるんですよ! 気合いも入ります! なあヘイジ!」
「もちろんですぜ兄貴!」
隻翼が氷水に浸かった飲み物を数本選ぶ。
ホットもあるが、惑星カインはそこまで寒くない。
「あそこらで食べるか」
「ヘイジ。センノスケ。ありがとね!」
「ヘイジさんセンノスケさんありがとうございました」
袋にいれられたお好み焼きとたこ焼きの船皿をもって四人は立ち去る。
「……兄貴。俺はロズルの姐さんとエイルの姐さんに一生ついていきますぜ」
「……ありゃ美人だったなぁ。ますますエイルの姐さんに傷一つつけさせるわけにはいかねえ。俺の責任が重すぎる」
アルフロズルは戦車。車長はセンノスケ。
まさかロズルがあそこまでの美人とは思わず、呆然とするしかないセンノスケだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
カインは約束通り、エイルたちの疑体を製作していたのです。
エイトリ製生体よりは性能は低い(機械なので)ですが、五感は再現できますので、ないよりはよほどまし、という感じですね。
ただ限界があるので超カロリーオーバーするとアスモデウスのように行動不能になります。
ドゥリンとドヴァリンは祭り衆と飲み会中です!
リアルでも明日までが十日戎ですね。難波の屋台ゾーンはさぞ混むだろうなと思いつつ。
応援よろしく御願いします!




