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第5話 おじさんとその後の話

「ふう……」

『ブラッドオーガの反応は完全にロスト! お疲れ様、芝崎さん!』

「うん、ありがとう。舞華ちゃんのサポートのおかげだよ」

『そんなことより私今めっちゃトイレ行きたいから少し席外すね!』

「そんなことって……わかった、しばらくは救助者の対応するからその間に……」

『はい了解行ってきます!』


 相当限界だったのだろう、舞華ちゃんは俺の返事を聞くよりも前に席を立って行ってしまった。嵐のような子だなまったく。遠慮が無いのはいいことだけど。


「君、大丈夫? 名前……じゃなくて、自分の探索者ネーム言える?」


 脅威が完全に去ったことを確認し、目の前で座っている少女に改めて手を差し伸べる。その少女はようやく緊張が解けてきたのか、ぎこちなく俺の手を握り立ち上がる。


 ふと彼女の顔を見ると、顔の近くに謎の文字が浮かんでいるのがわかる。頭に着けてる機械が投影してるのだろう。最新のヘッドギアかな? そういうの疎いんだよなー。よくわからないから無視しよう。


 少女は強張った顔のまま恐る恐る口を開いた。


「えっと、ネゴみんです」

「ネゴみんさんね。……?」

「どうかされました?」

「いや……」


 なんか最近聞いたことのある名前な気がするけど、いつ聞いたんだっけ……。まあいいか今は。


「あの、助けていただいてありがとうございます」

「いいのいいの仕事だから!ネゴみんさんは大丈夫? 怪我とかしてない?」

「あ、大丈夫です。……痛っ」


 彼女は腕を痛がる素振りを見せる。俺が来る前に一発貰っていたのか、それか回避に失敗して地面に打ち付けたのか。戦闘が終わって気が抜けたのだろう、今頃になってようやく痛みが戻ってきたんだな。


「あー見る感じ軽い打撲だね。ごめん、おじさん回復魔法は使えないからさ。湿布はあるからこれ貼りな」


 俺はズボンの後ろポケットに常備している湿布を数枚ネゴみんさんに渡す。が、彼女はそれを中々受け取ろうとしない。


「そんな大丈夫ですって。回復師さんに診てもらえればすぐですから」

「ダメだよ、回復魔法は万能じゃない。こういうちょっとした応急処置一つやっておくことで予後が全然変わってくるから。ほら、腕出して」

「あ、りがとうございます」


 俺は半ば無理やりネゴみんさんの腕に湿布を張った。そして、貼った後に気づく。


 これもしかしてセクハラに当たるんじゃ……? やばい、昨今は色々厳しいから年下の女性への対応は気を付けるようにと日ごろから舞華ちゃんに言われてるのに……!


「? どうかしました?」

「と、とにかく! この後はすぐに帰るんだよ。体の方の傷は浅いかもしれないけど、精神は結構疲弊してるからさ」

「……わかりました、すぐ帰ります」


 ネゴみんさんは俺の言うことを聞いて素直に腰につけていたバッグから命の紐(ライフウィップ)を取り出した。さっきの俺の行為はあんまり気にしていないみたいだ。よかった……。


「じゃあ、俺はもう行くから。あ、あと今回のは結構レアなことだから、もしよかったら懲りずにまたダンジョンに潜ってよ」

「あの、その前にお名前を……!」

「名前? うーん、おじさんはただのしがない掃除屋だから、名乗るほどの名なんてないよ。じゃ、頑張ってねネゴみんさん」


 そう言って俺はその場を離れた。


 俺はこういう時、できるだけ記憶に残らない去り方を意識している。危機的状況における救援という特別は毎回起こるわけじゃない。故に、一度救われた人がまた同じ目にあった時、俺のことを覚えていたがために幸運に頼ろうとしては救った意味が無い。

 人の要素で最も記憶に残るのは名前だと、昔ある人に言われた。だから、極力名乗らないことにしているのだ。


 それに、今の俺には早急に去らなければならない理由があった。


「うん、よし。まだいけるな」


 俺は走りながら腕時計で現在時刻を確認する。


 そう、俺にはまだ今日中に終わらせる必要のある仕事がまだ残っている。

 今は17時丁度、これから全速力でやれば19時、いや18時には終わるはず!


 なんて考えながら走っていると、舞華ちゃんが戻ってきたのか、インカムの向こうからガタガタと椅子を動かす音が聞こえてくる。


『ただいまー芝崎さん。管理局から追加の依頼が来たよー』

「……はい」



――――――――――――



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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