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大迷宮のあとしまつ ~ ダンジョンの掃除屋おじさん、うっかり有名配信者の配信に映り強すぎてバズってしまう~  作者: 仁香荷カニ


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第20話 迷宮姉妹 with ネゴみんとおじさん

「……! 《ボムブースト》!」


 俺は足元を爆発させ空中で加速すると、三人より早く天井に着地する。そして、下から落ちてくる三人をキャッチできる体勢を取る。


「きゃんっ」

「ぐえ!」

「あぼぉ!」


 よし、いい感じに受け止められたな。

 マヨイさん、ネゴみんさん、キュウさんの順でキャッチしたが、みんな中々個性的な悲鳴だ。


 だが……結構まずいことになったな。


 周囲を見るが、さっきまであった満天の星空は消え、簡素な土壁ばかりが目に入る。


「し、芝崎さん、ここって」

「はい、31階層……深層ですね」


 深層、31階層のデザートルインズ。人工物かと見紛う巨大な柱が何本も地と天を繋いでおり、継ぎはぎで作った絵画のように異質な光景だ。


 俺は下を見上げる。本来俺たちが立つべき地面には大穴が開いているが、そのほとんどが既にダンジョンの力で修復されていっている。

 今すぐ3人を連れて30階層に飛んで戻るのは無理そうだな。


 階層を隔てる地面は時折、何らかの要因で崩れることがあり、それを崩落と呼ぶ。


 新宿ダンジョンは塔型のダンジョンであり、上に行くほど階層が上がり強い敵や強力な魔法具が出現する。つまり、崩落によって下の階層に落ちることはあっても、上の階層に行ってしまうことは無い。


 しかし、深層の31階層には流れる魔力の乱れで発生する上昇落下ドロップフォールという現象が存在する。ただ単に発生した地点の重力が反転するだけなのだが、今回は運悪く崩落と重なって深層に落ちてしまったようだ。


 ネゴみんさんは心配そうに俺をじっと見ているが、迷宮姉妹の二人は深層だと聞いて慌てている。


「え、ここ深層なの!? やばいやばいやばいじゃん」

「お姉ちゃん、バッグ、命の紐(ライフウィップ)!」

「あ、そうだ、持って来てるんだった。さらばだ妹よ!」

「待ってください、ダメです!」


 俺の制止は一歩遅く、マヨイさんが命の紐(ライフウィップ)を取り出して結び目を解く。しかし、マヨイさんが目の前から消えることは無かった。


「あれ、お姉ちゃんここにいる」

「私ここにいるよ」

「……やはり不発になったか」

「え、芝崎さん、もしかして深層じゃ命の紐(ライフウィップ)って使えないんですか!?」


 驚いたネゴみんさんが俺に詰め寄ってくる。よく見るとその手には命の紐(ライフウィップ)が握られていた。無駄にならなくてよかった。


「使えないわけじゃないけど……命の紐(ライフウィップ)は結構繊細な魔法具だから、深層以降だと周囲の魔力の乱れによっては不発になることがあるんですよね」

「そっか、それで……」


 制作者曰く、これ以上性能を強めると使用者の身が持たないそうだ。上昇落下ドロップフォールが発生している以上、ここにいる限り使えないだろう。ということはつまり……。


 俺はインカムに向かって声をかける。


「舞華ちゃん、聞こえる?」

『…さん、いま……ノイ……』


 やっぱりか、通信機もダメになってる。耐性のある高いやつなのに……相互通信するタイプの道具はこれがあるからいまいち信用できない。


「じゃあ私、取り残されるのここで?! ずっとここで暮らす感じか?! キュウ~! 大丈夫、お姉ちゃんがいるから~!!」

「妹的にはいやかも」

「どうしましょう芝崎さん! B級って不意に深層に行ったらなんか罰則とかあるんですか?!」

「とりあえずみなさん、一旦落ち着きましょう。ほら、深呼吸」


 取り乱す三人を俺は宥める。深層では自分を見失うことが命取りだ、何が何でも落ち着かせることが先決。

 彼らは一回、二回と深呼吸をする。まだ取り乱しているようだったら殴ってでも落ち着かせようと思ったが、そこは3人とも探索者だ、すぐに心の平静を取り戻してくれる。


「落ち着きましたねみなさん。では、俺の話を聞いてください。まず一つは、深層だからといってすぐに死ぬわけではありません。言ってしまえば、中層の環境が悪いところの強化版なので、対策さえできれば大丈夫です」

「強いおじさん……」

「そして、B級が深層に進入不可なのは命を守るためのルールですので、意図して入ったわけではないのなら罰則はありませんから、ネゴみんさん」

「そう、ですよね。すみません芝崎さん、なんかテンパっちゃって」


 申し訳なさそうにネゴみんさんはそう言った。不慮の事故みたいなものだから全然気にしなくていいんだけどな。


 俺は一呼吸おいて説明を続ける。


「深層にも魔力が安定した場所があります。ひとまずはそこを目指し、たどり着けたら命の紐(ライフウィップ)で帰還しましょう。こういう時のために予備はたくさんもってあるので」

「ネゴみんの隣のおじさん……すごい、頼れる!」

「はは、どうもですキュウさん」


 説明を終えた俺は周囲を軽く確認する。見たところ小さな飛行系モンスターしかいなさそうだな。これなら襲われたとしても今の俺たちで勝てる。


「じゃあ早速向かいますか」

「行くぞー皆の衆! いや、『迷宮姉妹ダンジョンスール with(うぃず) ネゴみんとおじさん』!」

「はぁ、お姉ちゃんそれダサいよ。せっかくネゴみんいるんだし、『迷宮根後民ダンジョンネゴみん、おじさんを添えて』でしょ」

「あなたたち……流石にセンス無さすぎる。そういうのはもっとキャッチ―でシンプルじゃないと。『芝ネゴ迷宮ダンジョン隊』、これが正解」

「私たちの要素ほぼないじゃん!」

「なんでもいいので行きましょう」


 今インカムが切れていて良かった。舞華ちゃんだったら絶対この悪ノリに乗っちゃうから。だけど、恐らく初めての深層でここまでリラックスした状態で挑めるとは……三人とも探索者としてかなり素質があるな。


 俺は再度地面を見上げる。


「まずはこの上昇落下空間ドロップフォールエリア……えっと、重力反転してる場所を抜けましょう」

「と言っても、どうやってですか?」

「空間の境目に行けば自然と重力は戻ります。まっすぐ行けばすぐですよ」

「ねえ強いおじさん、それって実質的な飛び降りにならない?」

「はい、そうですよ」

「……地面まで結構ある」


 キュウさんが地面までの目測をして息を飲んでいる。何を恐れることがあるのだろう、死ぬまで死なないのがこの業界の常識だろうに。


「大丈夫ですよ、紐無しでバンジーやるようなもんですから。探索者の耐久であれば……B級くらいなら最悪でも両足骨折で済みますから」

「ヒュ……」

「なにも大丈夫じゃあないぜ! ネゴみん助けて」

「諦めて、生存と恐怖は等価交換だから」


 何故だろう、ネゴみんさんが遠い目をしていらっしゃる。気にしても仕方ないので先に進もう。


「お、境目を見つけました。ここを超えたら地面に戻れます。ほら、サクッと飛んじゃってください」

「いや……その……」

「妹よ、先に行く気はないか?」

「こういう時は年功序列だよっ、お姉ちゃん行ってよ」

「じゃあ俺が3人を抱えるので、全員で一斉に行きますか。多分その方が安全だし」

「「「え?」」」


 俺は3人が空中で離れないようにしっかりと掴み、背に抱える。


「飛びますよ、しっかりつかまってください!」

「「「いぎゃあああああああああああ!!!」」」



――――――――――――



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。二連続でラストが落ちる感じになってしまった。


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