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大迷宮のあとしまつ ~ ダンジョンの掃除屋おじさん、うっかり有名配信者の配信に映り強すぎてバズってしまう~  作者: 仁香荷カニ


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第18話 迷宮姉妹《ダンジョンスール》

 唐突に表れた二人の少女、長い槍を背中に担いだ長身ツインテールの人とアイアンガントレットを手につけているくせ毛のちっちゃい子は、迷いなくネゴみんさんの名前を口にした。その瞬間、俺は緊張の度合いを高めた。


 この人たち、ネゴみんさんの名前を知っている。だが、反応的にネゴみんさんの知り合いでは無いようだ。

 友好的、というわけではなさそうだ。なら、考えられる目的は、ネゴみんさんを狙って……。


 俺が思い出すのは、今朝管理局からのメールにあった未報告探索者。モンスターの討伐報告をしないということは、つまるところ後ろめたい何かを孕んでいるということ。


 もしかしたら、この人たちが……。


「ショットガンラビットとの戦闘、見事だった! 陰から応援していたが楽しかったぜ!!」

「ほ、本物だ……すごいよお姉ちゃん」

「……?」


 いや、なんだこの感じ。雰囲気的には確かに怪しいんだけど、怪しさのベクトルが違う気がする。例えるなら影に潜む犯罪者ではなくて、中国物産展で買える謎の食品、みたいな。


 なんて、余計なことを考えているとネゴみんさんが一歩前に出る。


「あなたたち、誰なんですか」

「ふっふ、よくぞ聞いてくれました!」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、二人は何故か縦に並ぶ。


「私はマヨイ! そしてこっちが……」

「妹のキュウだよ」

「二人合わせて、ダンジョン配信者の『迷宮姉妹ダンジョンスール』!」


 バア~~~ン!


 二人が決めポーズを取ると、どこからか安っぽいSEが流れてくる。よく見ると妹のキョウさんの方が手に小さな機械を持っていたので、恐らく自分で流したのだろう。


 はいしんしゃといえば、確かネゴみんさんもそうだったはず。もしかしたら名前を聞いて何か思い出したりしてないかと、チラリと彼女の顔を見てみる。


「……? 『迷宮姉妹ダンジョンスール』……聞いたことないですけど」


 全然知らないようだ。なら、舞華ちゃんに聞いてみるか。


「舞華ちゃんってあの人たちのこと知ら『知らない』……ないかぁ」


 全然知らなかった。


「知らないだって? なら今日から知ってくれればいいよ!」

「チャンネル登録よろしくー」


 一方二人は俺たちが知らないことは大して気にしてないようだ。というか、本当に何なんだはいしんしゃって。まあここは同業者のネゴみんさんに任せよう。


 ネゴみんさんは怪訝な表情のまま口を開く。


「それで、どうやってここまで来たの」

「え?」

「私たちは最速で30階層へ来た……本当に速かった。でも、先回りしてここで潜んでいたってことは、それより速く来たってことでしょ」

「なんだそんなこと。よろしい! 教えてあげるから聞いて驚きな―――」


 マヨイさんは急にババッとポーズを取る。



「―――昨日から妹と二人、ずっとここでスタンバってたのだ!」



 …………?


「愛聴している貴様の昨日の配信を見てな、これだ!と思ったから昨日のうちに30階層まで登ったのだ!」

「そのあとずっと待ってました」


 何かよくわからないけどすごい行動力だってことは伝わる。


「……目的は何なの」

「当然、配信企画だ! 題して……」

「ネゴみんとおじさんを30階層で待ってみた、です」

「もちろんカメラもあるし、ずっと配信もつけてるぞ」

『うわ本当にあるじゃん。登録者数24人、配信時間16時間……』


 インカムの向こうで舞華ちゃんが絶句している。どうやら結構異常なことらしい。ネゴみんさんも難しそうに眉をひそめている。


「……なるほどね。それで、ここでショットガンラビットをけしかけて陰で潜んでいたってこと」

「ふっふっふ! 残念ながら潜んでいたのではない!」

「じゃあ何」

「普通に倒せないから隠れてました」

「……」


 この二人、何というか厄介な人たちだな。今までにない絡まれ方で少し関心してしまうが、このままだと面倒ごとが起きるのは間違いない。


「くっ、やばいですよ芝崎さん」

「ええ、結構やばいですね」

「……この人たち、ちょっと面白い……!」

「ええ……え? ネゴみんさん?」


 ん? 何だ? ネゴみんさんも変な雰囲気に飲まれてないか?


「あの……」

「勘違いしないでください! ちょっと、ちょっとですから!」

「はぁ」


 ちょっとと言われても、それはどう違うのだろう。


「というか、二人とも私たちがもし来なかったらどうしてたんですか! 30階層に来たのだって偶然そうなっただけですよ!」

「はははは! それはマジでやばかったぜ! 本当に助かりました!」

「ぐぅ!」


 ネゴみんさんがなんかダメージ喰らってる。なんで?


「……ダンジョンとスールって英語とフランス語だし、名前もマヨイとキュウって、 普通メイとキュウかマヨイとミヤのどっちかでしょ! 統一しようよ!そのコンセプト思いついたら! くそっ、どれもこれも天然なのか判断しづらいライン!」


 ネゴみんさんは一体何と戦ってるんだろう。……とりあえず話を進めよう。


「あのー、マヨイさんにキュウさん。俺たちに何の用ですか」

「え、用?」

「……え?」


 マヨイさんとキュウさんはお互いの顔を見合わせる。え、何、用が無いのに声かけたのか?


「……お姉ちゃん何も考えてないの?」

「いや、まさか本当に会えると思わなくて……」


 二人は後ろを向いてこそこそと話し出すが、声が大きくて普通にこっちに聞こえる。なんだろう、気まずい……。


 俺がいたたまれない空気に苦しんでいると、ネゴみんさんがザッと彼女たちの前に立つ。


「『迷宮姉妹ダンジョンスール』、あなたたちに質問があります」

「は、はい! 何ですか!」

「我々を待ってる間、何をしてました?」

「いや、特には……」

「お姉ちゃんと一緒にずっと黙って体育座りしてました」


 二人の答えを聞くと、ネゴみんさんははぁ……と大きくため息を吐く。


「……あなたたちに言いたいことがあります」


 ああそうか、やっぱりネゴみんさん的にも迷惑だったんだな。うんうん、こういう時はちゃんとガツンと言った方が絶対にいい。


 構うことは無い! さあ言ってやれネゴみんさん!




「――企画が弱い!」




「うん……うん?」


 企画……? 急に何を言い出すんだこの人。


 だが、俺の困惑をよそにネゴみんさんは堰を切ったように話し出す。


「私たちが来るまで耐久配信、一見面白そうに見えるこの企画には大きな穴がある!」

「あなぁ?」

「穴なんて、無いとおもいます、けど」

「はぁ……これだから初心者は。会えて面白いのは当たり前! 会えない時間、待っている間あなたたちは何をしていたのですか? 無言のままずっと体育座り? そんなの見て喜ぶ人がいると思いますか!? その本来無駄な時間こそ有効活用するのが配信者として重要な仕事でしょ!」

「た……確かに!」


 なんかキュウさんが深く感心して頷いている。俺は理解できないけど、彼らには通じ合うものがあるのだろう。


「そして! 会えるかどうか私たちに依存しすぎ!」

「依存、ですか」

「会えたからよかったけど、もし会えなかったら何も残らなかった! その時のことは考えていましたか?」

「か、考えてませんでした!」

「それに会ってからの対応が雑! 一番面白い時間こそ何するか切り詰めて考えないと! 会って終わりじゃあ上げた視聴者の期待を裏切るだけです!」

「なるほど……!」

「わかった?!」

「すごい……勉強になります」


 ネゴみんさんが一気に言い終わると、キュウさんはパチパチパチと喝采のような拍手を送る。一方姉のマヨイさんは、何故か固まっており……


「そ……」

「?」

「そんな一気に言わないでよ! わかんないじゃん! うわあああああああん!!」


 叫んだかと思うと急に走り出してどこかへ行ってしまったのだった。


「どうしたのあの子……」

「姉は容量をオーバーするとああやって逃げる癖があるんです」

「た、大変だね……」


 ……生きづらそうだ。


 遠くなっていくマヨイさんの背、キュウさんがふいに俺とネゴみんさんの袖を掴む。


「何やってるんですか、追いますよ!」

「え?」


 そして、そんなことをいきなり言い出すから、俺は思わず素で返事してしまう。


「……それは、なんで」

「なんでって、えっと……」

「俺たちが追いかける理由無くない?」

「……確かに! それでは!」


 俺の言葉に結構簡単に納得したキュウさんは、パッと袖を離してマヨイさんの方へ走っていく。


「なんだったんですか、あの人たち」

「俺に言われても……」


 てかネゴみんさんはかなり意気投合してたでしょ。


 なんて二人で話していると、キュウさんがなんでか歩いて戻って来た。


 それも、涙を目に浮かべながら。


「うわああああん、お姉ちゃん見つかりませえん。ぐすっ、お願いします、探すの手伝って下さい……」

「「……」」


 確かに面白いなこの子。



――――――――――――



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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