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大迷宮のあとしまつ ~ ダンジョンの掃除屋おじさん、うっかり有名配信者の配信に映り強すぎてバズってしまう~  作者: 仁香荷カニ


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第16話 箱の中の星空

 30階層の天蓋部。「星空の箱庭」と呼ばれるここは、壁一面が異なる3種類の魔石で構成されている。闇を内包するブラックストラリウムと濃い青の光を放つブルースカライト、そして金色に輝くリトルプラネットの3つが絶妙に混じりあい、さながら天然のプラネタリウムだ。


 27階層にも似たような場所があるが、あっちは一部分に対してここは全面が魔石で覆われている。また、空間としての広さも天蓋部だけで一つの山を閉じ込めらるほど大きい。


 また、階層の形がドーム状になっているため、星空に囲まれているようだと言って本物の夜空より好む人もいる。


 新宿ダンジョンにおけるお気に入りスポットの一つだ。ここであれば仕事のバリエーションも増えるし、舞華ちゃんとネゴみんさんも納得するだろう。


「ここのモンスターの死体も、そのデッキブラシですりつぶすんですか?」


 さっきまでグロッキーだったネゴみんさんもだいぶ良くなったようで、星空を十分堪能するとそんなことを聞いて来る。よく見るとボサボサになっていた髪も綺麗に整えられていた。別に俺以外に見られるわけじゃないのに、丁寧な人だなあ。


「まあそうですね。ですが、中層下部では処理をする前にやることがあるんです」

「やること、ですか」


 と、ネゴみんさんは興味深そうに返事をする。


 ネゴみんさんは俺の話をちゃんと興味を持って聞いてくれるからありがたい。人に話を聞いてもらうこの感覚はいつぶりだろうか……舞華ちゃんは仕事のことはしっかり聞いてくれるけど、俺が趣味の話をするとき死ぬほど興味なさそうに相槌するんだよな。

 真田さんは仕事以外であんまり口きいてくれないし。


 俺は今朝見た報告書に書かれていたモンスターの位置を思い出しながら進む。


「あった、こっちです。こいつを見てください」


 そこにあるモンスター、マスクシープの死体をネゴみんさんに見せる。


「……あれ、下の階層のやつみたいに骨がむき出しになってない」


 いいとこに気が付く。やっぱりネゴみんさんは目がいいな。


「そうなんです中層下部になるとこういった削ぎ残しが多くなるんです」

「それは……何でですか?」

「この残りを欲しいって思う人がいないからですよ」

「……?」


 俺の言ったことを聞いて、ネゴみんさんはぽかんとした表情を浮かべる。これじゃ流石に説明不足すぎるか。


「ああごめんなさい、言葉が少なすぎましたね。普段ネゴみんさんは倒したモンスターの素材をどこまで剥ぎ取ってます?」

「えっと、売れそうな重要部位取って、食べ物が減ってきたらお肉を切るくらいですかね。……あれ?」

「お気づきかと思いますが、基本的には探索者は倒したモンスターの素材を全部剥ぎ取るなんて行為は滅多にしません。常に必要な素材だけを選別して取っているんです」

「言われてみれば確かに……でも、それじゃあ何で11階層のモンスターはあんなだったんですか?」

「他人が残したモンスターの死体を狙う探索者が取っていったんでしょうね」


 中層下部以降はB級以上でなければ入れない。つまり、上層や中層上部にいる探索者は、B級に上がれない、もしくはB級でも戦闘能力が足りなくて中層下部に挑めない人が多いのである。

 そんな人たちの中には、他人が倒したモンスターの残りを狙う人もいるという話だ。


「中層下部ってそういった人たちにとって割に合わない場所なんでしょうね。だから、こうして素材が残る死体も多い。30階層になると特に」

「それっていわゆるハイエナじゃ……」

「ハイエナ行為は嫌う人もいますけど、別にダンジョンで禁止されているわけではありませんから。解体途中の探索者を襲うのはご法度ですけど。さて……」


 俺はデッキブラシを握りしめ、目の前の死体に対峙する。


「今から始めますね」

「これ、そのまま処理しちゃうんですか? なんかもったいないような……」

「同業の中には処理する前に自分で剥いでお小遣い稼ぎする人もいるけど、自分はやったことないですね」 

「それも何か理由が?」

「仕事量を増やしたくないので」

「切実……」


 一番重要だからね。


「それで、処理をする前にやることがあるんでしたよね」

「はい。と言っても内容自体はほとんど同じなんですけどね。砕くだけだと色々残ってしまうので、その前に熱処理とかします」

「熱処理」

「見ててください、こんな感じです。《ボーンファイア》」

「ひぃ!」

「あ、はい。火です」


 俺は詠唱して炎を発生させた。マスクシープは見る見るうちに燃え上がり、瞬く間に骨を残して灰になる。


「残った骨をこうして砕けば……これでお仕舞いです」

「……わ、すごい。本当に跡形もなく綺麗になった」

「さて、処理も終わったので次のところに行きますか」

「はい!」


 ピピッと、不意にインカムからマイクの電源を入れた音がする。


『芝崎さーん』

「大丈夫、気づいてる。報告ありがとう舞華ちゃん」

『はーい』

「あの、何かありました?」

「ネゴみんさん、武器を構えてください」

「え?」


 周囲から、ガサガサと複数の足音が聞こえる。もうそろそろだと思ってたけど、ちょっと多いな。


「敵です、囲まれちゃいましたね」



――――――――――――



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。こっち側の視点がすごい久々な気がします。


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