第14話 一方その頃他の探索者たちは 視点:とあるパーティ
☆事例1 とあるパーティの場合
10階層を進むとある3人組のパーティ。前方を進むスキンヘッドの男に、後ろには無精ひげを生やした男と眼帯をしたガラの悪い女が続く。
ふと、通知に気づいてスマホを取り出したひげの男が驚いて二人を止める。
「おいお頭、姉御! ネゴみんの配信始まってますぜ! あのおっさんもいる!」
「あんた本当かい?!」
「はあ? なに言ってんだお前、そんなのが本物なわけないだろ。昨日の今日だぞ」
「いや待ってください……こいつ本物だ!」
「あんたねえ、何を根拠に……」
「いいからこれ見てくださいって」
ひげの男はスマホの画面を二人に見せる。そこには作業服を着たおじさんがデッキブラシを持って骨の前に立っている姿が映っている。
スキンヘッドの男がそのおじさんの着ている作業服が昨日のものと違うことに気づき、別人じゃないかと指摘しようとすると、画面のおじさんはその骨へデッキブラシを振り下ろす。
三人は唖然とした。目の前にあった骨が一瞬で砂になったのをその目で見たからだ。
一転、こいつこそが本物だと確信したスキンヘッドの男は、興奮したまま叫ぶ。
「おい、ネゴみんとこのおっさんは今どこにいる!」
「11階層の……洞窟部でさあ!」
「オーホッホ! 配信するなんて馬鹿な奴だこと。今自分がどこにいるか逐一教えてくれるようなものじゃないか」
「洞窟部か……ちょうどいい、あそこは入り組んでいて出るのにも時間がかかることで有名だ」
「そして何より、ここは10階層。走ったらすぐですぜ」
「よし、あんたたち急行するわよ!」
「行くぞ! 我ら白狼鍵爪団、新たな戦力のために!」
大きな掛け声を一つ、彼らは11階層への道を素早く駆け抜けていく。途中現れるモンスターも慣れたように難なく倒し、無事11階層に辿り着く。
「他のやつらもちょくちょくいるな」
スキンヘッドの男が辺りを見回すと、彼らと同じような探索者が何人かいるのを見かける。だが、彼は焦らない。
「おい、やれるか」
「もちろんですって! 俺には『痕跡探索』のスキルがあるんですから!」
ひげの男は対象の残した痕跡を感じ取るスキルによって、おじさんがいたであろう場所を特定する。が、一向にネゴみんもおじさんも見つかる気配が無い。
「あんた、全然見つからないじゃない!」
「あれーおっかしいな……俺のサーチには少し前にいたってわかるんすけど」
「はあ……今あの女の配信はどうなってるんだ?」
「ちょっと待ってくだせえ、……え、はあ?!」
「何だ、早く言え」
ひげの男は画面を見て驚愕し、ゆっくりと顔を二人に向ける。
「今、17階層にいるって……」
「……17階層ですって?!」
「お、俺たちが一階層登るこの短時間で!?」
スキンヘッドの男と眼帯の女は彼が言った事実に同じように驚愕する。だが、眼帯の女は少しして納得したようにうんうんと頷く。
「なるほどねえ。中々やるわね、あのネゴみんって子」
「姉御、何かわかったんですかい」
「あの子、最初から17階層にいたのよ。それを11階層にいるって嘘を吐いて捜索者、私たちを欺いた」
「でも、配信に映ってた景色とかは11階層っぽかったっすよ」
「……それはあれよ、なんか魔法使ったのよ」
「そういうことだったのか……! っく、なんて奴だ、ネゴみん……!」
発覚した驚きの事実に打ちひしがれる三人。だが、それで終わらないのが探索者たる所以である。
スキンヘッドの男は11階層の捜索を諦め、目的地を変更することを決意する。
「おいお前ら……行くぞ、17階層へ」
「ですがお頭! 俺らはまだそんな上の階層に行ったことないですぜ……!」
「そんなこと言ってられねえだろ。これは探索者人生におけるまたとないチャンスなんだぞ! あのおっさん……あの人をパーティに入れられれば、俺たちは確実にランカー入りできる」
「そうよ、こんなところで引いちゃあ白狼の名が泣くわ」
「お頭、姉御……! 一生ついていきます……!」
二人の覚悟を見て、ひげの男は思わず感涙を流す。こんなに感動したのは自分がC級に昇格した時以来だと、ひげの男は思う。
「行くぜ新宿ダンジョン! その首洗って待ってな!」
「最初に仲間にするのは私たち白狼鍵爪団よ! オーホッホ!」
「はい! っと、その前にネゴみんの配信もう一回確認しないと……」
ひげの男は涙を拭き、ネゴみんの配信に再度目を落とす。ちょうどその時、画面のおじさんがネゴみんに向かって何かを言っていた。
「……あの、すみません」
「あ? どうした」
「何よ急に改まって」
「この人たち、今から30階層へ行くって言ってます……」
「……あ~」
「なるほどねえ~」
「っし、今日は帰るかー!」
「そうね、せっかくだし飲みにでも行く?」
「うーっす、じゃあいつものとこ三人で予約しときまーす」
*****
☆事例2 とある探索者の場合
「リーダー、ネゴみんが配信やってるよ。へえ、芝崎って名前なんだこの人」
「はあ? ……こいつ俺が話しかけたおっさんじゃね?」
俺は後輩が持つスマホその画面を見て深いため息を吐く。ネゴみんの横にいたのは、俺が今朝1階層で話しかけたあの白い作業服を着たしがないおっさんだった。
マジかよ、ネゴみんがこんなに馬鹿だとは思わなかった。
「リーダー、ネゴみんたち11階層にいるんだって。今から引き返す?」
「引き返す必要は無い……ネゴみんのやつ騙されてやがる。こんな弱そうなのが昨日のやつなわけがねえ、見てわかんねえかな」
「そうなんだ。そういうのわかるんだねリーダー」
「まあな」
俺は人を見る目だけは自信がある。俺に従うこいつも元はE級の時に俺が見出したやつであり、今ではB級にまで成長している。まだ俺には遠く及ばないがな。
「さてと、先を進むぞ」
「えーもう結構進みましたよー。一回休憩しましょうよー」
「バカ、俺たちは先を急がないといけないんだよ」
そう言って俺はごねる後輩を無視し先へ先へと進む。現在は15階層の中盤辺りだが、まだまだ気を抜けない。
俺があのバズったおじさんを探すのは、パーティ勧誘のためだ。俺は今こいつとの二人パーティを組んでるが、まともな方法じゃ上に行けない。だが、あの人の戦力があれば、有名パーティどころかそこらのクランを組んでる連中よりもずっと抜きん出ることができる。
当然俺のような考えのやつは多い。新宿ダンジョンは朝早くの時点で大量の人で溢れかえっていたが、あまりにも愚かだと俺はそいつらを見て思った。
先走るなんて愚策も愚策、むやみやたらに探したところで見つかるはずもなく、対外に自分たちが弱小パーティですって喧伝しているようなものだ。
俺は戦闘能力は低いが、交渉と策略なら負ける気がしない。あの人と会って交渉さえできれば必ず仲間に出来る自信がある。他の奴らとはここの出来が違うんだよ。
「せんぱーい」
「リーダーと呼べリーダーと」
「リーダー、私たちってどこに向かってるんでしたっけ」
「お前なあ……何回も言っただろ、20階層に行くんだって」
「えーまだあと5階層もあるのー? 休みたーい、歩き詰めですよさっきからー」
「うるさい、黙って歩け」
俺が先を急ぐのには理由がある。ダンジョン探索は必ず途中で休憩を挟む、それが探索者の常識だ。今もこうして後輩が駄々をこねてるようにな。
そして、動き回る標的の捕獲には停滞した瞬間を狙うべき。つまり、俺たちはあのおじさんが休む場所に先回りしていればいいということ。
20階層と21階層の間、中層上部と中層下部の境には小休止するスポットがある。例のおじさんが登るにせよ下るにせよそこは通るだろう、その瞬間に立ち会えばこちらの勝利という訳だ。
「っは、偽物野郎とネゴみんはダラダラ11階層にでもいればいいんだよ」
「ねえリーダー」
「なんだ」
「その二人、もう11階層にいないよ」
「ははは! まだそんなもの見てたのか! そいつは偽物だって言ってるだろ」
ったく、いつまで見てるんだこいつは。そんなくだらないもの見てたって意味ないだろ。
そもそもダンジョン配信者というものが嫌いなんだ俺は。なんだよ配信って、ダンジョンは命を賭ける場だろうが。
それに、二人はもう11階層にいないって? それこそありえない。
さっき配信画面に映っていたのは11階層の入り口付近だった。どんなに強くても探索には時間がかかる、これはダンジョンの常識だ。例えかなり進めていたとしても、良くて11階層の中心部辺りが関の山だ。
だが、俺の考えを無視し、後輩はその配信を嬉々として見続けている。
「おーすごい。今猛烈な勢いで階層を上がって行ってるよ」
「はあ? お前何言って……やばい、モンスターだ!」
そんな折、地面からボコリと音を立ててモンスターが現れる。甲羅の中からサイのような顔を出すこいつは、見紛うことなく甲羅サイだ。
くそ、こんなとこで遭遇するとはな……甲羅サイは甲羅の硬さに特化していて、硬さだけで言えば中層下部に出現するモンスターにも匹敵するほどだ。
俺も後輩もどちらかというと一撃に重さの無いタイプだ。有効打を与えられるかどうか……。
ここで討伐に手こずっていたら20階層への到着が遅れてしまうが……やるしかない。
俺は腰の剣を抜き、甲羅サイに斬りかかる。そんな俺を後輩は黙って見ていた。
「おいお前、何突っ立ってんだ! 早く加勢しろ!」
「疲れてるんでパスでーす。そいつ固いし。それに多分、もう少ししたら大丈夫になると思うんで」
「大丈夫? お前何言って……」
俺が言い終わる前に、甲羅サイの後方から何かが猛烈なスピードで近づいてくる。
何だ、新手か?!
「先輩、こっちっす」
「うおっ!」
後輩が俺を後ろに引っ張る。その瞬間のことだ。
パカアアアアアアアン!
「……え?」
何か長いものを持った人が通り過ぎたと思うと、目の前にいた甲羅サイは弾けて消えた。少しして桃色の髪の少女が同じくらいのスピードで俺の前を駆け抜けていく。
「危なかったっすねー先輩。もうちょい前にいたら巻き込まれてましたよ」
「……なにいまの」
「すごーい、あのおじさんちゃんとデッキブラシを持ってた。感動です。後ろ付いてったのがネゴみんかなー」
「え、あれ配信に映ってたおじさんとネゴみんなの?」
「ですです」
「じゃあ、俺が偽物って断じたあの人は……」
「だから言ったじゃないですかー。いやー本物は違うなー」
さっき見た時、確かにあいつらは11階層にいたはずなのに……!
理解を拒もうとしても、どうしても目の前の事実から目を背けられない。猛スピードで走りながら、甲羅サイを一撃で粉砕したというその事実から。
「追いかけます? 多分無理だと思いますけど」
後輩の言葉はもう耳に入ってこない。俺は頭を抱えその場で崩れ落ちる。
「……そんな、馬鹿なああああああ! 俺の計算があああああああああ!」
「先輩の悲惨な顔やっぱいいっすねー。先輩についてきて正解だった」
こだまする俺の叫びをよそに、そばでボソッとそう呟いた後輩が意地悪くニヤリと笑っていることに、俺が気づくことは無かった。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。ちなみになんですが、こいつらが今後出てくる予定はありません。
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