第三十話「逃走」
僕たちが歩き続ける中、この世界の狂気はさらに深まっていった。空は紫色から血のような赤へと変わり、地面からは奇怪な形をした植物が這い出してきた。それらは肉を食む花のようで、通り過ぎる虫を捕らえては、その生命をむさぼり食っている。
「ここは…生きているものすべてが狂っている…」ミカが呟いた。
僕たちの足元では、地面が波打ち、まるで呼吸しているかのようだった。そして、その波間からは、人の顔をした果実がにっこりと笑いながら僕たちを見上げていた。それは、どこか悲しげで、おぞましい光景だった。
突然、空からは黒い雨が降り始め、それは触れるものすべてを腐食させていった。僕たちは避難を余儀なくされ、近くの洞窟に身を隠した。洞窟の中は、まるで別の世界のように静かで、壁には不思議な光を放つ絵が描かれていた。
「この絵は…?」僕が尋ねると、ミカは静かに答えた。
「この世界の記憶よ。狂気が支配する前の、平和だった時の…」
僕はその絵を見つめながら、この世界にもかつては秩序があったのだと感じた。しかし、今はその痕跡を辿ることしかできない。僕たちはこの洞窟で一夜を過ごすことにした。
夜が更けていく中、洞窟の奥から奇妙な音が聞こえてきた。それは、まるで何かがゆっくりと這ってくるような音だった。僕たちは息を潜め、その音の正体を突き止めようとした。
そして、その正体が明らかになった時、僕たちは恐怖で凍りついた。それは、人間の体を持ちながら、頭部が逆さまの生き物だった。その目は、まるで無限の闇を映しているかのように黒く、口からは不気味な歌を奏でていた。
「ここから出なくては…」ミカが僕の手を引き、洞窟からの脱出を試みた。僕たちはそのおぞましい生き物から逃れるために、狂った世界を駆け抜けた。




