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9.「異性としてどう思う?」


トーゴーが、中央の貴族を連れてきた時、学園中が騒然となった。木っ端役人や下級貴族でも滅多にお目にかかれない雲上人である。


そんなトーゴーはと言えば、姉にしがみつかれ、妹たちに腰を掴まれ、その状態でハイド博士と向き合っているというありさまだった。


「ふむ……どうして怯えられているんだろう?」

「普通、平民が貴族にじっと見られていたら、落ち着きませんよ……」


そもそもものすごい勢いで迫ってきたと思ったら、トーゴーとの関係について鼻息荒く聞いてくるのだから、そりゃ怖いだろ、と思う。


「トーゴー……」

「「おにいちゃぁん……」」

「……博士。御覧の通りです」


ため息交じりに言うと、ハイド博士は肩を落として、ゆっくりと身を引いた。


「……そうだね。残念ながら、君の才能はあくまで、君自身にだけ発現しているものらしい……うん。君のきょうだいは確かに、普通の子だよ」

「納得していただけたのなら、何よりです」

「しかし、となると……やはり突然変異ということなのかな、君のその才能は。うーん、どのようにしたら君のような子供が生まれるか、是非とも知りたいっ」

「俺に聞かれましても」


では、と博士の目がきらり、と輝く。


「ご家族に教えてもらおう。かな?」



弟をどう思うか。


シンプルで、掴みどころのない質問だった。


「弟というか……もっと大きな存在です。時に父親のようでもあって……私には、わかりません」


中央から来た貴族は、なんと弟のトーゴーを目当てに遠路はるばるやってきたらしい。


弟がそれだけ偉大な才能の持ち主だと思うと同時に、遠い、とも感じてしまう。


「ふむ……異性としては、どう思う?」

「異性?」


思わす声が裏返りそうになる。そんな風に見たことはない。そもそも、そういうことが最もありえないのがきょうだいというものではないのか。


「異性だからか、ではありませんが……私は昔から、表情が顔に出ないらしくて、人に誤解を与えたり、あるいは、やめてほしいのにそれがうまく伝わってなかった、ということがよくあります」


ついこの間も、軟派で有名な男子生徒に、長々と捕まったことがあった。相手は一方的に喋りまくり、こちらは恐縮して口を挟めない。


そんな中、割って入ってくれるのが、トーゴーだった。


「そういう、細かなところに気づいてくれるのが、トーゴーです。自慢、というには大きすぎる。それでも、大事な弟です」


ハイド博士はふむふむと頷き、今度は妹のアリスとアリアの方に、目線を合わせて尋ねる。


「君たちは、お兄さんのことは好きかな?」

「うん!大好き!」

「いつか結婚してあげるの!約束もしたんだから!」

「アリアの嘘つき!お兄ちゃんはアリスと結婚するの!」

「嘘つきなのはアリスの方!」


「うーん、ここまでストレートだと聞いてみたこっちのほうがなんだか初々しさを弄ぶようで申し訳なくなるなぁ」


ポリポリと髪を掻き、次の質問を続ける。


「もし君たちが、どちらとも、お兄さんと結婚できるとしたらどうだい?もしくは、トーゴーくんから、3人で結婚しようと、そう提案されたら。君たちの答えは?」


アリスとアリアは、そっくりな顔を見合わせる。少しだけ、唇が尖っている。


「おにーちゃんを独り占めできないのは、イヤだけど……」

「アリアとなら」

「アリスとなら!」


「「あ、あと!エルザおねーちゃんもお嫁さんにしてあげる!」」


子供らしい、空想的な提案。なんと言っていいかわからなくて、すみません、と博士に謝るエルザだったが、中央の貴族はひらひらと手を振った。


「いやいや。なかなか愛らしい意見だ……それに、僕の研究にも、進歩が見られそうな答えだったしねぇ」

「と、言いますと……?」

「あー、そこからは秘密。まだまだ、軌道に乗せるのは難しそうだからねぇ」


とはいえ、と博士はひとり呟く。


「折角滅多にない好例があるっていうのに、サンプルの数を取れないっていうのは辛いな……うーん、いっそ色々と手を回してみようかな」

「あの……?」

「ああ、コレは失敬!とりあえず用は済んだよ。ありがとね」


下町では滅多にお目にかかれない、白衣をなびかせて、博士は去っていった。姉妹は顔を見合わせて、首をひねった。




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