2.双子のおんなじ将来の夢
「私の将来の夢はっ、トーゴーお兄ちゃんと結婚することですっ!」
アリスがそう作文を書いたと思ったら、ほとんど同じことをアリアも書いていて、喧嘩になった。
けれど、クラス中の女子のブーイングに、たった二人で立ち向かわなければならなかった。
たった一人の兄、トーゴーには、ファンが多い。学園に入る前からも、その後も、とにかく女の子を引き付ける。
どうしてそんなに恋敵が多いのか。それは単純に、兄が優しいからだった。
そのへんの男子よりも大人びていて、だと言うのに、父親のように怒鳴ることもなく、まして手を上げることもない。穏やかで、困っていたらすぐに飛んできて助けてくれる。そんな些細なことに、「落とされた」学園の女子は多い。
そう、些細なことなのだ。偉大な兄、トーゴーが家に、自分たちにもたらした事と比べれば。
トランプゲームで負け無しの連勝で、平民の一生分の財産を築き上げ、それを惜しげもなく自分たちに充ててくれた。いつも咳き込んでばかりだった大好きな母親が、穏やかに笑うようになった。
あばら家から引っ越して、きれいな白い漆喰の家に引っ越したときは、大はしゃぎしたものだ。
そして今、学園に通わせてくれて、家族のためだけにお弁当を作ってくれる。
「アリア、アリス。お前たち、また弁当を忘れただろ」
「お兄ちゃん!ありがと!」
「もー、アリスがいつもうっかりしてるから」
「うっかりしてるのはアリアの方でしょ!あたしちゃんと確かめたもん!」
「はいはい、どっちも忘れてたんだから、おあいこだ」
大好きな兄が作ってくれるお弁当を、忘れることなんてありえない。
見せつけたいのだ。自分たちに、どれだけカッコいい兄がいるのかということを。誰にも割って入れさせない、家族の絆がここにあると、他の女の子を牽制したいのだ。
「お、お兄さん!お弁当を作ってらっしゃるんですか!?」
まだ知らなかったらしい女子が、驚いた顔をする。
「へんなのー」
「男なのに、料理?」
何もわかっていない、同級生がからかう。へんかな、と照れながら笑う兄。
クラス中の女子が、余計なことを言うなと睨む。
変かと言われれば、たしかに変なのだ。男は外で仕事をして、その鬱憤をはらすのが家での義務とばかりに振る舞うのが、普通らしいから。女々しいと思われるような、女の仕事に手を出さないのが男らしさだと言われているから。
兄が、そんな平凡な男じゃなくてよかったと思う。優しくて、カッコいい、そんな存在で良かったと思う。
「じゃあ今日は、みんなで食べようか。エルザ姉さんも待っているはずだし」
「どこ?どこで食べるの?」
「中庭だよ」
「と、トーゴーさん、私達も……」
「「ダメッ!お兄ちゃんは、私のなんだから!」」
「アリスのじゃないでしょ!」
「アリアのものじゃないし!」
言い合いながら、足取りは軽い。だって、幸せなんだから。
無防備な兄の背中に、抱きつく。絶対に離さない。二人は大きな背中に腕を回しながら、いつもそう思うのだ。




