11.デートのお誘い
「ところで、ソノン姫様はどうしてこちらに?」
再びお茶を飲み始めたソノンに話しかけると、彼女はわざとらしく、可愛らしいため息をついた。
「基本的にお付き合いをする時は、殿方からプロポーズを待つのが淑女のたしなみとされています」
「まあ……そう聞いています」
「ですが、最近では、お付き合いの前段階とでも呼ぶべき、特別な二人だけの時間の過ごし方が発案されたそうなのです」
「つまり?」
「トーゴーお兄様。わたくしと、でーとしていただけないでしょうか?」
美しいカーテシーと共に爆弾を放り込まれた。
ここには男子は一人だけで、周りの女子のほとんどが肉食系ときている。
「「それっ、アリア(アリス)たちにもやって!!」」
双子の声がシンクロする。ずずいと顔を寄せてくる双子の妹と。
「……姉さん?」
服の裾をそっと握って、顔を赤らめている姉。
「トーゴーは、本当にみんなから好かれているのね」
嬉しそうに笑う、母親。
「……あまり男を勘違いさせるようなことを言ってはなりませんよ」
「どうして?わたくしはトーゴーだからこそ言えるのですよ?」
「一応言っておきますが、俺も年頃の男です。そして、身分差は区別されるべきです」
「もう、トーゴーお兄様はいつもそう。少しはお断りするパターンを増やしてくださいな」
ちらり、と横目でにらみつける視線は、冷たい。
「そうやって乙女心をいいように弄んでいると、いつか罰が当たりますよ」
「……肝に銘じておきます」
――ただ、本当に。異性と一緒になるということが、考えられない。まるで透明な壁があるかのように、踏み込めない。
――だが、一番信じられないものは、自分自身だと誰よりもよく知っている。
性欲に負け、孤独に振り回され、すっかり魅力を失った後になってから、誰かのスカートの裾を握って離さないような醜悪な振舞をしてしまうのだろうか。
それを考えたら、一緒にいて安心するような相手を見つけておくのは、悪いことではない。
「……デートだけでしたら、お引き受けします」
「あら」
目を見張り、それから優しく微笑む。
「楽しみにしておりますわ」
「ええ……まあ、姉さんと、アリアと、アリス。この三人とも、別々に行くことになりそうですが」
「それは仕方がありませんわね。だって、家族なのですから」
「むー!アリスはお兄ちゃんと結婚して、子供を産むんだから!」
「そうそう!アリアの子育てを、アリスにも手伝わせるもん!」
「家族と結婚して、子を生すというのは……なかなかハードルが高いはずなのですがね」
ソノンでさえ、兄のダレンと結婚し、子供を残すなど考えたこともないだろう。
とはいえ、近親婚が解禁されてから、財産を他家に奪われないようにと、過去の王族のような真似事は行われているらしい。
一代二代ならともかく、これが続いていけば……まぁ、ろくなことにならないのは目に見えている。
聖書によれば、血を残すことが何よりも大切だとされている。異民族から身を守るには、己の血筋を残すことが求められる。ゆえに、緊急時には、たとえ血がつながった相手とでも子をなして生きてゆけ、と説かれている。
緊急避難と、才能の遺伝を期待してのそれは、天と地ほどにも差がある。
しかしそもそも、そういったことに興味が持てない人間は、一体どうすれはいいのか。
ソノンを迎えた夕食は賑やかだった。
その後で俺は、ぶらりと外に出て、あてもなく歩き出した。




