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吸血地獄葬  作者: シキナ
第一章
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ふたつのアリス⑧

 連絡を受けた駅員がホームから誘導を開始し、イヴもまた土地勘がないなか、乗客らの後を追う形で、背後の護りに徹する。


「まだ追いついてきてません、慌てなくても大丈夫ですから!」


 一人一人に目を配りながらアリスと交わした使命を果たそうと息巻く最中。不審な行動を取る男性を雑踏の中に見つけた。

 裸足で上下白の格好。目は血走っており、ふらつきながらぼそぼそと独り何かを呟いていた。


「大丈夫ですか!?」


 イヴが近づこうとした時、泥のような血液を大量に吐瀉としゃし、頭を押さえながら悶え始める。


「ガァァァァッッ……!!」

「まさか、これって」


 男性の身体つきは大きく肥大し、腰を丸め、両腕両脚までもが異質な形に変化していった。まさしくイヴが想像した〝転化てんか〟そのものだった。


「プリミティヴ、ここにも……」


 一度転化した人間は既に手遅れであり、知性も失くす上、手当たり次第血肉を求めて跋扈ばっこするだけの怪物と化す。

 辺りはより一層のパニック状態に陥り、我先にと逃げ惑う人波の中で一人立ち向かうイヴは、ただ落ち着いて左袖を捲った。


「これだけは持って来てて良かった。私だって魔術師だもん」


 露出させた専用のブレスレットキーにイヴが右手を重ねたならば電子音声が一つ鳴った。


『掌紋認証解除、射出。到着まで後、15、14……座標確認、残り10秒、周囲の安全を確保してください。着地します』

「来る」


 やがて台場駅の天井をぶち抜き、イヴの前に一個のロッカーが落下してきた。

 イヴは格納されていたオートマトンの眠りを醒ます。

 銀色のフェイスシールドに腰から膝下まであるウィザードローブ。そこから垣間見える甲冑と、上腕から先端にかけては剣の如く鋭い直刀状の両腕が伸びていた。


「またよろしくね、シルバータスク」


 乗客がひいたのを見てイヴは自身の魔術神経炉を露出させ、魔力線を作り出す。


「いくよ!」


 魔力線は赤い光を発しながらイヴとオートマトン・シルバータスクを繋いだ。

 操作方法は人形劇のマリオネットとほぼ同様。加えてオートマタにはそれぞれ錬成した者の特性や属性が付与されている。シルバータスクも然り。目にもとまらぬ速度でプリミティヴへ接近したシルバータスクは、続けざまに斬り込んでいった。


「隙なんて与えないんだから!」


 一つ一つのダメージは小さくとも、着実に後退させ、隙を生じさせる。

 プリミティヴもまた、連続で繰り出される剣戟に、防戦を強いられる一方であった。

 当然ながら、シルバータスクには意思などなく、あらゆる挙動がイヴの操作であり、判断である。


「アリスの信頼に応えたい! 絶対ここで食い止めてみせる!」


 すれ違いざま、シルバータスクの一刀がプリミティヴの左半身を斬り裂いた。


「グゥアァァァァッッッッ!」


 悶絶し、真っ二つに裂けた切り口から血を流すプリミティヴ。しかし食欲といった本能に支配されているためか、身体の再生が途中にも関わらずイヴの元へ突進していく。


「昔、アリスが言ってた。魔術は持つ者が持たざる者を守護する手段の一つだって。自分の努力が人を救う結果に繋がるならそれが私の夢だって。イヴはお母さんとお父さんの跡を継ぐだけで自分自身、夢や目標なんてなかった。でも今はアリスの夢を護ることがイヴの夢なの! だから……シルバータスク!」


 イヴはすぐさまシルバータスクを自分の方へ引き寄せ、そのまま跳び上がらせた。

 眉間目掛け、片腕の切先を突き入れる。


「不老不死とは言っても脳組織を破壊されれば、再生が追いつかなくなる。散々学校で習ってきたんだから!」


 もがき苦しむプリミティヴは必死に邪魔するそれを引き抜こうとするが。


「これで、お終い!」


 切先は伸縮し、プリミティヴの頭蓋を貫通した。

 脳天からまたしても泥に似た自血を噴き出したプリミティヴは、いよいよ膝を折り、断末魔を上げる暇すら与えられず、肉塊にくかいと成り果てた。



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