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吸血地獄葬  作者: シキナ
第一章
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ふたつのアリス⑤

 目を開けたアリスが次に見たのはどこか懐かしさ残る天井だった。


「変な夢……」


 上体を起こし、辺りをすうっと見回すと、直ぐ隣から喜びいさむイヴが飛びついてきた。


「良かった〜! アリス生き返った〜!」

「じゃ、なかった……く、苦しいよ、イヴ……」


 加減を知らぬイヴに抱きしめられたアリスは、そのはっきりとした温もりや感触で現実であると確信する。


「起きたか」


 エイジは対照的に嬉しがる様子も見せず、冷静さを取り戻した現れか、ただただ大きく構えていた。


「心配かけちゃった……んだよね」


 興奮するイヴの銀の髪を優しく何度も撫でることで、なんとかなだめたアリスは会話する余地をつくった。


「魔力切れで倒れただけさ。それで医務室までイヴと運んで再度魔力供給を試みた。で、気分は?」

「まだ変な感じ。頭がまだ追いついてなくて」

「お前の中身と言えばいいのか。それがここにあることだけははっきりしてる。向こうで何があった?」

「飛行機の中にいたことまでは覚えてる。通路際の席。離陸からしばらくして凄い衝撃が来て。えっと、そこからは……」


 アリスが頭を捻るも、どうにもそれから先の記憶が曖昧であった。


「飛行機に乗ったってことは、墜落事故の報告も確かなんだな」

「墜落事故!?」


 それを聞いた途端、顔色が変わる。


「気付いてなかったのか。バードスターエアライン261便、成田空港行き。お前が乗ってた飛行機、視界不良で山岳地帯に突っ込んだんだ」

「嘘でしょ。それでどうなったの……私、死んだ、の?」


 訊かずともエイジの辛気臭しんきくさい口調や仕草から察しはついていたものの、アリスは恐る恐る訊いた。


「ついさっきまでは皆んなそう思ってた。でもどうやら予想もつかない何かが起きたらしい。アリス本来の肉体はまだロンドンにあるが、中身はここに、今俺達の目の前にいる」

「でも何でまたこのオートマトンなんかに」

「同調した……きっとそう!」


 イヴは顔を上げ、希望に満ちた声で言った。


「私とオートマトンがってこと?」

「学部長も言ってたんでしょ、自分じゃ起動に必要な同調のプロセスが分からないって。この子、名前がAliceなの! アリスとおんなじ名前だよ!」

「それだけの理由とは考えにくいけど……精神が入れ替わるなんてそんなことあり得るの?」


 様々な魔術に関する文献や論文を漁ってきたアリスも、そんな記述は目にしたことがなかった。


「現代の魔術を持ってしても、別の何かに生きた魂を移し変えたという成功例はないな。誰も彼もが容易に出来てしまったら、それこそ人は死ななくてもよくなるって話だ」

「じゃあ私のこれは」

「魔術的な施し……か、このオートマトンに何か仕掛けがあるかだな。俺達もさっき対面したばかりでよくは知らないんだ。このオートマトンについて」

「Aliceが助けてくれたんだよ!」


 未だ謎の多いオートマトンに、イヴだけは多大なる好感を寄せていた。


「さっきイヴが言ってた同調したってこと?」

「そうだよ! このオートマトンは特別。だってアリスと一緒でこんなに可愛いいんだもん」

「可愛いかどうかの基準と因果関係は置いておいて。でももしそうだとしたら、目に見えない何かがこのオートマトンの身体と私の魂を結び付けたってことになるけど」

「詳しい話をその学部長からは聞いてないのか?」

「そう言われてみれば……どうしてお兄ぃが魔力供給を? このオートマトン、パパ宛てだったはずだけど。パパはどこ?」

「え?」


 先から本来の受取人である父親の姿は見られず、アリスの疑問にエイジも思わず動揺してしまう。


「えっと、手違いで俺の所に届けられたんだよ。大事なものだってのに間抜けな話だよな、ははは」


 無断で開けたことを後悔するも時既に遅く。


「それならパパに引き渡せば済む話でしょ。お兄ぃ、何か怪しいよ」

「うっ……」


 笑ってやり過ごそうにもアリス相手には部が悪く、看破されてしまう。


「もしかして、パパはこのこと何も知らないとか?」


 さらに勘が鋭いうえ、痛い所を突いてくる。


「しょうがないだろ開けちまったものは。親父には後で弁解しとくよ。それより、葬式なんてしめっぽいのは取り止めだ。アリス帰還の報告をしなくちゃな。生きてたわけだし」

「はぐらかそうとしてる。お兄ぃ、分かりやす過ぎ」


 アリスが微笑ほほえみ混じりで返す。


「おちょくるなよ。まったく、これでも必死に平静を装ってんだからな! 訳分かんないのはこっちだって同じだ!」


 三年ぶりの他愛ない会話に変わらないものを見たアリスは帰国して初めて心から安堵した。


「でも本心で言えばどんな形であれ、お前にまた逢えて良かった。死んだものとばかり思ってたから余計に」


 さっきまではたじろいでいたのに一瞬で切り替わる真剣な表情のエイジを直視したアリスは頬をほんのり赤らめて。


「わ、私も……そう……」


 本人には聞こえるか聞こえないかくらいの声量で応えた。


「一番最初がお兄ぃで嬉しかった……まぁ、ずっと逢いたかったし」

「何だって? もう少しはっきり言えよ。これが魔力切れの前兆か?」


 いきなり近づいたエイジが耳をそば立てる。


「な、何でもない! あと、近いってば!」


 アリスは照れ臭さを誤魔化すように声のトーンを上げた。



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