72話 長い夜の始まり
こんにちは!作者です!
面白いゲームが最近いっぱい発売され、なかなか執筆に手が回りません!
なるべく早く投稿するように心掛けますので、これからも気長に待ってほしいです!
──それでは皆様に、少しでもワクワクできる時間を。
──時は遡り、エアルがシャイン達の部屋に来る前。
浴衣姿のレビィとエアルは購買でアイスを購入し、サナがいる部屋へと戻ってきた。しかし、部屋にサナの姿はなく、カーテンが夜風によって揺れているだけであった。
「あれ?サナは?」
エアルはアイスを冷蔵庫に入れると、部屋の中を捜索する。しかし風呂場やトイレ、押し入れの中にさえサナの姿はなかった。
エアルがバタバタと部屋中を探す中、レビィは冷静に思考を巡らせていた。そして風で揺れるカーテンと、昼間のルナルと会話をするサナを思い出し、1つの考察に辿り着いた。
「──!?まさかサナ…!」
レビィは開いた窓から体を出し、周囲を見渡す。
「もしかしてサナ…脱走した?」
状況を察したエアルが、恐る恐るレビィに尋ねる。
「ルナルさんから資料が見れないと言われた時、返事に変な間があったの。頭の良いサナならあの瞬間で考えたはず。自然国歴史博物館に潜り込む方法を…。」
レビィもエアルのほうに振り返り、引き攣った笑顔を見せる。
「はぁ〜〜…あの研究バカ…」
エアルが呆れから大きく項垂れる。
「とにかくこのままだと先生に怒られるから、シャイン達にも相談してくる。」
レビィがシャイン達に協力を求めるため、部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
──(我が器になり得る人間よ…我が元に来い!)
レビィの脳内に声が響いた。その瞬間、レビィの体はピタッと止まり、動かなくなった。
「──?レビィ?」
不思議に思ったエアルが声をかけるが、全く反応を見せない。流石に変だと感じ、背後からレビィの肩に触れようとした時、突然レビィがぐるっと振り返ったので、エアルは反射的に後ろに下がった。向けられる青い瞳には光がなく、虚空を見ているようだった。
「レビィ…大丈夫?」
恐る恐るエアルが声をかけると、レビィはゆらりとした動きで歩き始めた。そしてエアルの真横を通り過ぎると、開いた窓に身を乗り出した。
「えっ!?ちょっ!?」
エアルが慌てて止めようと手を伸ばしたが、レビィは何も躊躇もなく窓から飛び出し、夜の暗闇に姿を消した。
「…………」
怒涛に様々な事が起こり、エアルは暫く放心状態になった。そして数秒後、ハッと我に返ると、真っ先にシャイン達の元へ助けを求めに走り出した。
時は戻り、エアルは早口でここまでの経緯をスノウ達に話し終えた。
「──ってことが今起きたの!ど、どうしたら良いかな!?」
落ち着きがないエアルに対し、部屋の奥から出てきたアレンが冷静に声をかける。
「落ち着いてエアル。慌てていても現状を混乱させるだけだよ。冷静に1つずつ対応していこう。」
流石は『ORDER GUARDIAN第三戦闘部隊隊長』の肩書きを背負うアレン。緊急事態での動き方を熟知している。
「悪いけどサナは後回しだ。捜索する目星が付いているからね。問題はレビィだ。エアルの証言から推測するに、恐らく何者かに操られている可能性が高い。誰がいつどのような方法でレビィに術をかけたのかは一旦保留として、まずはレビィ本人の発見を優先しよう。──シャイン、君は何か事情を知っているかい?」
アレンが部屋の中にいるシャインに問いかける。しかし返事はなく、代わりにヒューズが答えた。
「シャインなら行ってしまいましたよ。レビィがいなくなったと聞いた瞬間から。」
ヒューズが夜風が入っていくる開いた窓に視線を向ける。
「……飛び出すのは百歩譲っていいだが、情報共有はしてほしかったな。」
アレンが小さく溜め息をついた。
「姿が見えなくなるまで見ていましたが、迷いなく千年桜方面へと向かっていました。」
ヒューズが追加情報を告げる。
「なら、僕達も千年桜に向かおう。」
アレンが目的地を定める。
「分かった!取り敢えず浴衣じゃ外出れないから着替えてくるね!」
エアルは着替えるためにドタドタと部屋へと戻っていった。
「さて、そろそろ騒ぎを聞きつけた先生がここに来るだろう。だから誰か1人は事情説明役が必要だ。」
「では私が残りましょう。レビィのことは任せましたよ。」
アレンが決める前に、ヒューズが自ら居残り役を名乗り出た。
指示を出しながらも準備をし終えたアレン。既に準備が終えていたスノウが叫ぶ。
「先に行くぞ!」
スノウは躊躇いなく窓から飛び降りる。続けてアレンも窓から飛び降りた。
「あれ!?スノウとアレンは!?」
制服姿になったエアルが少し息を切らしながら戻ってきた。
「2人はもう行きましたよ。」
居残り役のヒューズが窓を指差す。
「ええ!?無茶するなぁもう!──ヒューズは行かないの?」
「私は居残り兼先生達への説明役です。」
「成る程。じゃ、任せたよ!」
流石に窓から飛ぶ勇気は出なかったエアルは、走ってホテルの外へ向かうのであった。
アレン達が千年桜に向かって数分後アレンの予想通り、騒ぎを聞きつけたシャイン達の担当教師であるナナリーがシャイン達の部屋に到着した。
「ヒューズ君、一体何の騒ぎ?他の皆はどこにいるのですか?」
ナナリーが椅子に座り、優雅にお茶を嗜むヒューズに現状の説明を求める。
「現在、サナとレビィが行方不明となっております。サナは行先に目星あり。レビィも目星はありますが確定ではないです。シャイン、アレン、スノウ、エアルはレビィを探すためにホテルを出ています。」
ヒューズが箇条書きのように起きた出来事を淡々と報告すると、ナナリーは天井を仰ぎながら、とんでもない現状をなんとか理解しようとしている。
「……シャイン君達はどこに向かったの?」
今にもストレスで倒れそうな顔のナナリーが質問する。
「レビィが向かったと予想し、千年桜の方へ向かっています。サナは別件で自然国歴史博物館に単独で向かっている筈です。」
「分かりました。取り敢えず他の先生方と話し合いをしてますので、ヒューズ君は動かないで下さいね。」
「かしこまりました。」
ヒューズはニコッと微笑んでナナリーを見送ると、窓から見える千年桜に視線を向ける。
「さて、今宵の桜はどのような一面を見せてくれるのでしょうか。」
どこか現状を楽しんでいるヒューズが、クスッと笑うのであった。
夜の自然国歴史博物館。館内には警備員しかおらず、昼間の賑わいとは反対で、今は静寂が流れている。
史料の本がズラリと並ぶ展示コーナー。ここは実際に読める本から、ショーケースに入れられ、厳重に保管されている本まで展示されている。
現在1人の男性警備員が懐中電灯で周囲を照らしながら定期巡回をしていた。特別何かが起きることもないいつものルーティン作業に、男性警備員は大あくびをしていると、突然目の前の床に魔法陣が展開され、そこから金髪金色の瞳の少女が現れたのだ。
「なっ!?誰だ君は!?」
突然の緊急事態に焦りながらも制圧用のテーザー銃の銃口を現れた少女に向けた。
「[スリープシープ]。」
金髪の少女──サナ・クリスタルが魔法を唱えると、男性警備員の顔の前にデフォルメされた小さな羊が出現した。そしていかにもフワフワしている毛で男性警備員の顔を包み込むと、瞬く間に夢の世界へ誘うのであった。
「悪いけどちょっと寝てて。」
サナは眠る男性警備員をその場に残し、展示コーナーから千年桜に関する史料本をピックアップし、とてもつない速読で読破していく。
(やっぱり、一般人が読める程度の史料じゃ大した事は書いてないわね。)
ものの数分で何十冊と読み漁ったサナが目をつけたのは、ショーケース内に保管されているより貴重な史料本であった。
(下手に触れれば、当然警報が鳴って終わりよね。──なら、こっちの魔法の出番か。)
サナの金色の瞳に幾何学的模様の魔法陣が浮かび上がる。
「[レコードスナッチ]。」
サナがショーケースに手をかざすと掌からレーザーが放たれ、ショーケース内の史料本をスキャンした。そして一度掌を閉じ、上に向けてから再度開くと、デジタルの球体が出現し、中にフワフワと無数の文字が浮かんでいる。どうやら史料の記録を抜き取る魔法だったようだ。
(予想通り、その辺の見れる本には載っていない記録がいっぱいだわ。)
サナは新たな知識を得ていることに高揚しながら読みふける。だが、とある文章を読んだ瞬間、ピタッと読むのを止めた。
(これが本当なら…あの桜の木、マジでヤバいんじゃ…!)
サナが衝撃な真実を知った瞬間、先程まで暗かった館内がいきなりパッと明るくなった。思わぬ出来事に、サナは反射的にビクッと体を反応させた。
「見たことがない魔法を使うのだな。何属性に属するんだ?」
明るくなったと同時に声が聴こえてきた。サナは反射的に声がした方向に視線を向けると、そこには桜をイメージにした豪華な装飾で桃色の漢服を身に纏う女性──ルナル・ノインコーダが立っていた。
「あら、明日の満開祭の準備で忙しいんじゃなかったんですか?」
サナは予想外の人物の登場に少し焦りを見せるが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「すまないね。この博物館は『私の家』でもあるんだ。この館内には私が普段暮らしている一角がある。当然場所は非公開だがな。」
「まさか家主だったとは…流石に予想外ですよ。」
「それで、貴女は何を読んだ?」
ルナルの声に重みが増し、空気に緊張が走る。
誤魔化しはきかない状況と察したサナ。ならば、正面からぶつかるのみだ。
「何を読んだか?全部読ませてもらいましたよ。ちょっと特殊な魔法でね。」
サナはデジタル球体を見せながら続ける。
「この史料が真実ならば、千年桜は即刻切り倒すべきです。じゃなきゃこの国、滅びますよ。」
「だが、それが出来ない理由も、全てを読んだのなら理解出来るだろ?」
「それは理解出来ます。今のシュッドサウスの大自然は千年桜なしで保つことは不可能でしょう。ですが、あの『呪われた桜』に頼り続けるのは必ず限界が来ます。その限界がたまたま千年間来ていないだけで、明日には、いや次の瞬間には来るかもしれないんですよ。」
サナが臆することなく反論してくるので、ルナルは少しずつイライラしてきた。
「ならば私はどうしろと言うのだ?国民に真実を伝えるか?そんな事をすれば国中が大混乱になり、千年桜どころではない事件が大量に発生するぞ。」
「ですが、いきなり国家崩壊級の災害に遭うよりは、伝えた方が何かしらの対策が出来ると思いますけどね。」
一切引くことないサナに、遂にルナルの堪忍袋の緒が切れる。
「いい加減にしろ!国の1つも背負ったことがない生娘が、これ以上干渉してくるな!」
ルナルの声に怒りが混じる。
「はっ、国1つですって?こっちは『世界』を背負ってんですけど。」
咄嗟に口から漏れた意味深な呟き。流石のルナルも引っ掛かり、言葉の意味を尋ねようとしたが、サナが揉み消すかように先に問いかけた。
「そう言えば、国家秘密を知った私を、貴女はどうするつもりなんです?」
「……そうだな。最低限、『行方不明者』にはなってもらおうか。」
次の瞬間、ルナルの尾骶骨から美しい白色の狐の尾が『9本』生え、同時に人間の耳がなくなり、頭上から狐の耳も生えた。
「9本の尾の狐…『九尾』か。」
サナが頭の中の知識から、該当する獣の名を口にする。
「そうよ。、これが私の絶滅魔法──『九尾魔法』だ。」
九尾の狐の獣人化したルナルが、取り出した煙管を吸って煙を吐いた。
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