7話 夜叉魔法
こんにちは!作者です!キスによって覚醒したレビィの力とは如何程に!
──それでは皆様に、少しでもワクワクできる時間を。
「待っていろ我が主。今から見事にあの獣を討伐してみせよう。」
レビィは唇についたシャインの血を指で拭った後、愛刀の夜桜を抜刀した。
ライティグレはヒューズとサナを雷で倒した後、最後に残ったレビィに向かっ威嚇の咆哮をする。しかしレビィは一切怯むことなく、ゆっくりと夜桜を構えた。
「ゆくぞ!」
レビィが地面を蹴り、ライティグレとの距離を詰める。するとライティグレは迫るレビィに向けて口を開き、雷の光線を放った。雷の光線は瞬く間にレビィを飲み込んだ。そして雷の光線が消えると、そこにはレビィの姿がなかった。
「嘘……だろ……」
シャインの頭の中に最悪なシナリオが過る。だがその時、ライティグレの背後に漆黒のオーラが発生し、その姿がレビィとなった。
「[如月]。──残念だったな、獣。」
煽るような笑みを浮かべ、レビィはライティグレの尻尾を一太刀で斬り落とした。
尻尾を失ったライティグレは更に凶暴化し、本能のままにレビィに攻撃を仕掛ける。レビィは舞うが如く美しい動きでライティグレの攻撃を全て回避していく。そして途中で高く跳び上がって回避すると、漆黒のオーラで円形の足場を形成し、その上に乗って空中に立つと、夜桜で円を描くように動かす。すると影で形成された刀が合計15本出現した。
雨が止み、鉛色の雲の間から降り注ぐ月光がレビィを照らし、幻想的な光景を作り出す。
「[十六夜ノ刃]。」
レビィが漆黒のオーラの足場を蹴り、空中からライティグレに突進する。同時に15本の影の刀を操り、連続で切り裂いていく。そして最後に夜桜による16本目の強烈な回転斬りによって、ライティグレの首を斬り落とした。
ライティグレはドスンと重く鈍い音を立てて倒れると、そのままその姿を消滅させた。
レビィは夜桜を鞘に納めるとシャインへと歩み寄る。
「……ちゃんと説明してもらうぞ。」
未だ状況に混乱しているシャインが説明を要求する。
「無論だ、我が主。」
レビィは妖艶な笑みを浮かべ承諾する。
ライティグレを討伐したシャイン達は洞窟内に戻り、エアルの回復魔法で治療を受けた。
「さて、何から説明しようか?」
片膝を立てて座る漆黒色の髪に赤色の瞳のレビィがう〜むと考えた後、
「そもそも『夜叉魔法』とはどういう魔法なのか。お主らはどこまで知っている?」
まずはシャイン達の事前知識を知ることを選択した。レビィの質問に対して答えたのはサナであった。
「夜叉魔法は大昔、『夜叉一族』と呼ばれた一族しか使えない魔法で、能力としては身体能力の強化。それだけを聞くとありふれた魔法だけど、夜叉魔法の唯一無二の強みは、『無属性』であること。この強みが、夜叉一族の名が歴史に刻むきっかけとなった。──私が知っているのはこれくらいね。」
「アハハ!流石はサナ!事前の知識として申し分ないな。」
サナの知識量を褒めるレビィ。ここでエアルが手を上げて質問する。
「ねーねー、その『無属性』ってそんなにすごいの?」
「あんたね…授業で習っている筈だけど。」
サナが呆れると、エアルがエヘヘと笑って誤魔化す。
「はぁ…。この世に存在する魔法は全て、地水火風の『創生属性』、氷と雷の『混合属性』、光と闇の『明暗属性』、計8種類の内、どれかしら属性に必ずカテゴリーされる。──これは基本知識だから流石に知っているわよね?」
サナの問いかけにエアルが頷く。
「そして属性には『相性』がある。例えば火属性は風属性に強いけど、水属性に弱い、みたいな感じ。だけど夜叉魔法の無属性にはその相性の概念が存在しないのよ。」
「相性の概念がねぇだけで、そんな強い魔法になるのか?」
スノウが質問すると、サナが説明を続ける。
「ええ。相性の概念がないということは、相手がどの属性であっても『有利不利の状況が発生しない』ってこと。つまり、常に『等倍状態の戦闘』を作り出すことが出来る。そうなれば勝敗に最も直結するものは、『魔法使用者の純粋な強さ』になる。つまり夜叉魔法というのは、使用者が鍛えれば鍛えるほど、魔法の力も無制限に強くなる魔法なのよ。」
サナの夜叉魔法講座が終わると、ヒューズは理解したような顔をしているが、シャイン、スノウ、エアルの3人は潔く理解していない顔をしていた。そんな3人を置いて、サナの代わりにレビィが説明を始める。
「だが、どんなものにも欠点はある。夜叉魔法の欠点は、本当の力を発揮する条件が厄介ということだ。」
「難しい、ということですかね?」
ヒューズが問うと、レビィが頷く。
「ああ。一番の難点は、自分1人では不可能という点だ。夜叉一族は太古より誰かに忠誠を誓い、仕えることによって力を発揮する。故にまず、自分の主になってもらう人物を探す必要がある。加えて、そこにも3つの条件がある。1つ目が『主になる者は魔法が使えること』。2つ目が『主は異性であること』。そして3つ目は…『その主に自身が好意を抱いていること』。」
「それってつまり……」
「レビィがシャインのことを…」
「好きってこと!?」
ヒューズ、スノウ、エアルの順に言っていき、最後のエアルにいたっては恋バナの予感がして目を輝かせている。
「この3つ目が難儀でな。故にそう簡単に本当の力を解放することは出来ない。だが、レビィは分かりやすかった。なんせ、シャインと居る時は無意識に心が高揚していたからな。すぐにお主が我が主になる男だと確信した。」
レビィがケラケラと笑っていると、エアルがとある疑問を抱いて尋ねる。
「ねぇちょっと気になったんだけどさ。さっきから自分のことをまるでレビィじゃないような話し方するけど、じゃあ今の貴女は誰なの?」
「そう言えば話していなかったか。我は夜叉魔法の化身のような存在だ。お主らが知っているいつものレビィは今、心の中で眠っておる。まぁ要するに、1つの体に2つの心があると思ってくれれば良い。」
「う〜ん…貴女はレビィじゃないって主張するなら、別の呼び方を考えなきゃややこしくない?だからさ、今から貴女に名前をつけよう!」
エアルが唐突に夜叉魔法の化身の名付け企画を提案する。
「確かに。同じ体でも心が違うなら、そりゃもう別人みたいなもんだからな。別の名前があった方が分かりやすい。」
スノウもエアルの企画に乗る。
「では、どういう名前にするのですか?」
ヒューズが訊くと、エアルはう〜んと腕組みをして考える。その時、シャインが代わりに応えた。
「『ナイト』、ってのはどうだ?」
「ナイト?騎士って意味の?」
サナが名前の由来を訊く。
「夜叉一族って謂わば主を守る騎士みてぇなものだろ?だからそっちの意味でもいけるし、単純に夜叉という文字から夜の字をとって夜って意味でもいける。」
シャインが名前の由来を説明すると、エアルがパチンと指を鳴らす。
「いいねそれ!じゃあ今から貴女の名前は『ナイト』よ!よろしくね!」
エアルがシャインの案を即採用し、夜叉魔法の化身の名前はナイトとなった。
「我は何でも良いのだがな。まぁ改めてよろしく頼む。」
ナイトはクスクスと笑ってたから、改めて挨拶をした。
「さて、話が少し脱線したが、夜叉魔法については理解出来たか?」
ナイトが尋ねると、シャインが代表でまとめる。
「夜叉魔法は無属性で、使用者が身体能力を鍛えれば鍛えるほど、魔法の力も無制限に強くなる。だが、本当の力を解放するには『魔法が使える好きな異性』と契りを交わし、自身の主となってもらう必要がある。そしてレビィの主は俺となった。って感じか?」
「理解はしてくれたようだな。──それにもう戸惑っていないようだ。」
「ここでゴネたりしたら、俺がレビィの主ではなくなるのか?」
「いいや。そう簡単に主を辞められない。」
ナイトが否定する。
「そういうことだ。だったら、腹を括るしかねぇだろ。」
シャインが覚悟を決めた顔で答える。
「本当はレビィとのキスがまんざらでもなかったんだろ?」
スノウがニヤニヤと茶化すと、シャインは少し赤面しつつ無言でスノウの頭をスパンと叩く。
「そろそろ魔力が限界だ。レビィにはこれまでの会話は聴こえていない。すまないが説明をしてやってくれ。」
そう言ってナイトはスッと目を閉じた。すると髪の色が漆黒から紺色に戻った。そしてゆっくりと開けれた瞼から覗いた瞳は、赤から青に戻っていた。
「あれ?えっと……どういう状況?」
レビィがぽかんとした顔をする。
「私が説明するわ。」
サナがレビィにこれまでの出来事や夜叉魔法のことを説明する。するとレビィは顔を真っ赤にしてアワアワする。
「わ、私とシャインがキ、キスをして…!あ、主と従者の関係で…!」
「落ち着けレビィ。」
シャインがアワアワするレビィを落ち着かせる。
「だ、だって…!」
「確かに俺とお前は特殊な関係にはなっちまったが、レビィはレビィ、俺は俺のまんまだ。だから今まで通りでいようぜ。」
シャインの言葉を聞き、レビィは大きく深呼吸をしてようやく落ち着きを取り戻した。
「そ、そうだね!今まで通りでいよう!」
レビィは自分に言い聞かせるように賛成する。
「──!おや、どうやら私達のサバイバル生活は終了みたいですよ。」
ヒューズが向く方向に、他の5人も視線を向ける。するとこちらに向かって救助隊が駆け寄ってきていた。
──こうして6人のサバイバル生活は終わりを告げた。
次の日。レビィは何事もなく龍空高校に登校していた。そしてシャインを除く4人と会話をしていた。
「遠足の途中、突然サナが変な質問してきたのってナイトの件に関することだったのね。あの時にナイトの話をしてくれれば良かったのに。」
レビィが遠足の道中に訊かれた質問を思い出し、サナにブーブーと文句を言う。
「あのタイミングで話していたら、あんた絶対意識するじゃない。そうなるとシャインとの関係がギクシャクして、シャインがあんたの力を解放する為の主にならない可能性があったから話さなかったのよ。」
「それよりもさ!実際のところシャインのどこが好きになったの?」
目を輝かせるエアルが話題を変える。
「べ、別に好きってわけじゃ……!」
レビィが赤面しながら目を泳がす。
「も〜今更そんな誤魔化しは通じないよ。だってシャインがレビィの主になってる時点で…そういうことでしょ?ねぇねぇ、どこが好きなの?」
エアルがズイズイとレビィに迫る。
「ほ、本当に好きとかじゃなくて……その、シャインは信頼できる人って感じかな。」
「え〜なにそれ〜!」
エアルが期待外れの回答にブーイングする。
「主の条件は『好意』を抱いている相手。『信頼』というのも好意の一つ、というですね。」
ヒューズが話をまとめたところで、シャインがあくびをしながら教室に入ってきた。
「あっ!おはよ〜シャイン!」
エアルが手を振って挨拶をすると、シャインがレビィ達に近寄ってきた。
「お、おはよう…シャイン。」
レビィの挨拶がどこかぎこちない。
「おう。」
シャインはいつも通りのテンションで返事をすると自分の席に座る。
「何だかんだ意識してんじゃん。」
エアルがレビィの背後から小声で茶化す。
「もう…!うるさーい!」
レビィが顔を赤らめて怒ると、エアル達がアハハと笑うのであった。
本日はお読み下さって本当にありがとうございます!
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結果的に説明回になってしまい申し訳ないです…。夜叉魔法や属性についての話は、ふんわりと理解していただいていたら大丈夫です。
次回は1話完結の箸休め回です。それではお楽しみに!