43話 圧倒的な差
こんにちは!作者です!ザーパトウェスト編15話目です!
今回は…圧倒的な差、ですか。一体誰との差なのでしょうか。
──それでは皆様に、少しでもワクワクできる時間を。
ダイヤモンド城城内に建てられている教会。そこにはマントを翻し、剣を高らかに掲げる男の銅像が飾られている。
そんなの男の像の前で今、父親のアルバーノと娘のエアルが向き合っていた。
「状況はハーグから聞いています。シャイン達が私を助けに来たんですよね。」
「ああ、そうらしいな。ザーパトウェスト史に残る前代未聞の事態だ。たった1人の友の為に国を相手取るなんてな。」
「そういうところが、シャイン達の最高なとこです。」
エアルがフフンと誇らしげに告げる。
「何が最高だ。子供特有の無鉄砲さとしても度が過ぎているぞ。」
アルバーノは呆れた顔をした。
「それで私に何用だ?その様子だと私を探していたのだろう。」
「そうでした。──私はどんな形であろうと最終的にシャイン達の元に戻ります。ですので、その前に私を突然連れ戻した理由をお聞かせ下さい。」
エアルが探していた理由を告げる。
「助けられる前提か。──まぁ良い、丁度私もお前に話そうと考えていたところだ。」
アルバーノは少し移動し、視線を美しく光るステンドグラスに移す。
「前提として伝えておく。今の私の体は、不治の病に冒されている。」
「えっ…!?」
軽く告げられた衝撃的な事実に、エアルは目を丸くして驚いた。
「心臓病だ。発症したのは2年前。あらゆる治癒魔法や薬を試したが、成果は寿命を少し伸ばす程度だ。」
「えっ…ちょっ…!ちょっと待って下さい!そんな急に言われても…!」
エアルはアルバーノの事を好いてはいない。しかし、突然身内から余命宣告を言われ、動揺しないわけがなかった。
「事前に知らせようとも、お前は国外に家出していたではないか。」
正論を告げられ、エアルは何も言い返せなかった。
「私の寿命は長くて残り数年だ。それまでに後継者を決めなければならない。そしてザーパトウェストは、我らダイヤモンド一族が代々統治している国だ。」
ここでアルバーノがエアルの方を向く。
「これが本題だ。エアル、お前に王の座を継がせる。」
「………えっ?ええええええええええええええ!?」
エアルが心の底から叫んだ。
「お前を連れ戻した理由も、王の座を継がせるためだ。」
「あ、あの…!ど、どうして私なのですか!?」
動揺が隠しきれない状態でエアルが理由を尋ねる。
「先程言っただろ。ザーパトウェストは代々ダイヤモンド家の血統者が統治していると。故に該当する継承者はお前以外いないのだ。」
「それだけの理由で──!!」
「これが、ダイヤモンド一族に生まれた者の運命だ。受け入れよ、エアル。」
エアルが反論する前に、食い気味に遮るアルバーノ。
「拒むのであれば今すぐに子を孕み、産んだ子に継がせるのだな。」
あまりにも冷酷で理不尽な言葉。しかし、これもまた事実であるため、エアルは反論が出来なかった。
「エアルよ。ザーパトウェストの王──いや、女王になるにあたり、『ある物』を継いでもらう。」
「ある物、ですか?」
「ああ。それは───」
アルバーノがある物の名を言おうとした瞬間、教会の扉が吹き飛んだ。突然の出来事に、エアルとアルバーノは反射的に扉の方に視線を向けた。
扉を破壊して現れたのは、外見年齢30代後半、身長180cm、焦茶色の長い髪で左目が隠れており、藤色の瞳をもち、黒を基調とした軍服を身に纏う男であった。
「誰だね、君は?」
見たことがない男の出現に警戒心を高めるアルバーノに対し、エアルは予想外の人物の登場に仰天していた。
「お前は確か…『革命軍のボス』!」
エアルが指を差しながら男の正体を暴く。
「革命軍?聞いたことのない組織だな。」
エアルが口にした組織名を知らないアルバーノが更に警戒心を高める。
「俺の名は『フォーグ・ジュエール』。俺達のことは知らなくて当然だ。これまで水面下で動いていたからな。」
フォーグは名乗りながらエアル達に近付いていく。
「お父様!彼は世界のその〜…色々を変えようとしているすっごい悪い奴です!」
エアルがなんとも曖昧でフワフワした説明をする。
「世界を変える…成る程、それで『革命』というわけか。──で、そんな革命軍のボスが何の用だね?」
アルバーノが目的を問う。
「『ドリームカムトゥルーの魔導書』、どこにある?」
「ド、ドリーム…カム…?」
エアルが知らない単語に首を傾げる。
「なんのことだ?そんなもの私は知らぬ。」
アルバーノが淡々とした態度で否定する。すると、フォーグが近付く足を止め、意味深に指を動かした。次の瞬間、教会のステンドガラスが独りでに割れ、破片が規則的に並ぶと、一斉にエアルへと降り注いだ。
「えっ…?」
エアルは反応が遅れ、迫るガラスの破片を眺めている状態である。
その時、アルバーノがエアルの腕を咄嗟に引き、自身の背を盾にして破片からエアルを庇った。
「ぐっ…!」
大量のガラスの破片が突き刺さり、アルバーノは痛みに顔を歪ませる。
「お父様!?」
エアルは一瞬何が起きたか分からなかったが、状況を理解すると慌てて回復魔法をかける。
「止めろエアル。今治したところで、破片を抜かぬかぎり無意味だ。」
アルバーノはエアルの回復を止めると、ギロリとフォーグを睨み付けた。
「下劣な恐喝を…!」
「シラを切るからだ。調べが付いてないとでも思っているか?ドリームカムトゥルーの魔導書は、代々ダイヤモンド一族の中でも王になる者のみが継承する。故にアルバーノ王、お前が魔導書を所持していることはお見通しだ。」
アルバーノはフォーグは確信を持って話していると察すると、質問を変えた。
「……貴様はあの魔法で何を叶えるつもりだ?」
「それを答える義務の義理もない。」
フォーグはアルバーノの問いに即答すると、スッと指を構えて下げる動作をした。次の瞬間、アルバーノとエアルは突然頭上から見えない力で押さえつけられ、うつ伏せに倒れてしまった。
「貴様の魔法は…重力か…!」
アルバーノがフォーグの魔法を見抜く。
「早く魔導書を渡せ。さもなくば愛おしい娘も圧死するぞ。」
フォーグは更に重力を強める。アルバーノは隣で苦しむエアルの姿を見て、考えに考えた結果、覚悟を決めた顔となった。
「分かった。魔導書は───」
アルバーノが白状しようとした時だった。フォーグは殺気を感じ、反射的にアルバーノ達の重力を解いた。そして殺気を感じた方向を向くと、銀色のウルフカットされた髪を靡かせる少年──スノウ・シルバーが拳を構えて接近していた。
スノウの拳がフォーグの顔面に直撃する寸前、拳と顔の間に大気の壁が生成され、拳はフォーグに届かなかった。フォーグは大気による衝撃波を放ち、スノウを吹き飛ばした。
吹き飛んだスノウは無理矢理体勢を戻すと、教会の出入口近くの壁にダン!と着地するが、両足にビリビリと衝撃が走り、コメディみたないリアクションをしてから床に落ちた。
「失せろ。」
フォーグが掌をスノウに向け、重力による大気の波動を放つ。
足が痺れて動けないスノウ。万事休すのその時、颯爽と現れた紺色髪の少女──レビィ・サファイアによって大気の波動は真っ二つに斬られた。
「うわっ!?本当に斬れた!?」
斬った当人であるレビィが一番驚いた。
「あんたね…締まらないじゃない…」
出入口から入ってきた金髪の少女──サナが呆れる。
「だって龍空祭の時はナイトが戦っていたから、私は実際に斬った場面を見てないもん。」
レビィが言い訳をしていると、サナ以外にシャイン、ヒューズ、アレン、ソノも教会に入ってきた。
「皆…!」
エアルはシャイン達の顔を見て自然と瞳から涙を流す。
「ようエアル。迎えに来たぞ。」
シャイン達はスノウも加えて綺麗に横並びに立つ。
「……邪魔な。」
シャイン達の登場にフォーグは小さく舌打ちをする。
「フォーグ!お前達の目的は何だ!」
アレンが銃口をフォーグに向ける。
「察しが悪いな、アレン。わざわざ俺が高いリスクを冒してまでダイヤモンド城にピンポイントで侵入したのだぞ。」
フォーグからの意味深の返答に、アレンは思考を巡らせた。そして1つの答えに辿り着く。
「まさかお前…!『ドリームカムトゥルーの魔導書』を…!」
アレンは動揺により銃口がブレた。
───瞬間。
瞬き一回分の刹那。その時には既に、フォーグはアレンの眼前にいた。
フォーグは掌をアレンの顔を覆うかのように広げると、大気による衝撃波を放つ。シャイン達がフォーグの動きに反応した時には、アレンは教会の外へと吹き飛んでいた。
(速い…!いや、速いどころじゃねぇ!瞬間移動レベルだぞ!)
シャインは動揺しつつも戦闘態勢となる。他の面々も戦闘態勢をとるが、誰よりも早くフォーグが次の行動に移った
「[漆黒の穴]。」
フォーグが掌を床に向けて詠唱すると、シャイン達の足元に漆黒の大穴が開いた。
反応が遅れたシャイン達は、為す術もなく底無しの大穴へと落ちそうになる。その中でいち早く動いたのはレビィであった。
「──!![上弦回]!!」
レビィは漆黒のオーラを夜桜に纏い、柄を両手で持つと、大きく縦回転をして漆黒の大穴を真っ二つにした。それにより大穴は消滅し、シャイン達は床に倒れるだけで済んだ。
「無属性というのは…想像以上に厄介なものだな。」
フォーグが人差し指を下から上に振り上げた。次の瞬間、レビィの真下の床が円柱状に勢いよく隆起し、レビィの顎を捉えた。不意のアッパーカットを喰らったレビィは宙を飛んで床に倒れると、そのまま気を失ってしまった。
「レビィ!!!」
シャインは怒りを露わにして能力解放になると、フォーグへ斬りかかる。
「[闇鎧]。」
フォーグが魔法を唱えると、紫色のオーラで体を纏い、シャインの刃を受け止めた。
「闇属性の魔法…!?」
「俺の黒穴魔法は地と闇が混合した絶滅魔法だ。お前の閃風魔法が風と光の魔法を分けて使えるように、俺も地と闇の魔法を分けて使える。」
フォーグは闇のオーラでシャインを拘束すると、シャインを教会の外まで蹴り飛ばした。
(力に差があり過ぎる…これは一旦引いた方が…)
サナは状況を判断し、撤退の動きをしようとする。しかしフォーグがその動きを逃すわけがなかった。
フォーグは一瞬にしてサナの目前まで瞬間移動すると拳を構える。
「げっ……」
サナは目の前にフォーグが現れた時、防御も回避も反撃も間に合わないと察すると、ただ顔をしかめるのであった。
フォーグの拳がサナの鳩尾に直撃し、サナはその場に蹲った。
フォーグが蹲るサナに追撃しようとした時、何を感じ取り、上半身を後ろに反らした。すると先程まで頭があった位置を魔法の矢が通過した。
「迷わずヘッドショットか。殺しに躊躇がないな。」
魔法の矢を放った当人──ヒューズの方に視線を向けてフォーグが呟き、反撃に移ろうとした。しかし、回避をしたことによって少しバランスを崩しており、痛みで顔を歪ましながらも、ニヤッと笑うサナの攻撃への反応が遅れた。
「[サンダーショックハート]!!」
サナが掌から一本の雷を放ち、フォーグの心臓を貫いた。流石のフォーグも怯み、一瞬動きが止まった。
その隙に狙ってスノウが拳を構えた。
「[ジェットパンチ]!!」
肘からジェット機の如く風を噴射し、高速の拳がフォーグの鳩尾に直撃した。と、思われた。
(こいつ…!変な力で受け止めやがった…!)
スノウの拳は確かにフォーグの鳩尾に届いた。しかし威力は全て重力によって圧縮された大気のクッションによって吸収され、無情にも拳で鳩尾をただ触っただけになってしまった。
「残念だったな。」
フォーグは冷酷な視線を浴びせた後、素早くスノウの腕を掴むと、一本背負いを喰らわせた。そして空中に投げ飛ばすと、サナと共に重力によって吹き飛ばした。
「ここまで圧倒的な差があるとは……」
外に飛ばされ姿が見えないシャインとアレン。
気絶をしているレビィ。
吹き飛ばれ壁に衝突して苦しむスノウとサナ。
恐怖で動けないソノ。
目の前に広がる絶望的な現状に、ヒューズはただ唖然とするしかなかった。
本日はお読み下さり誠にありがとうございます!
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これが革命軍のボスの強さ…正に圧倒的でしたね。
そしてザーパトウェスト編は残り2話!次回もお楽しみにして下さい!