42話 魔の憑依
こんにちは!作者です!ザーパトウェスト編14話目です!
今回はシャイン対パランディアがメインです!
──それでは皆様に、少しでもワクワクできる時間を。
時は少し遡り。ダンスホールにて。互いに能力解放状態のシャインとパランディアが睨み合う。
「さぁ、とっとと始めようぜ。」
風砕牙をチャキチャキと動かし、落ち着きのないシャイン。パランディアはシャインを動きを警戒しつつ、慎重に攻撃のタイミングを伺う。
「こねぇのか?ならこっちから行くぞ!」
シャインは風砕牙を構え、床を蹴る。
「[疾風斬]!!」
疾風の如く素早い技で先制の一撃を放つ。しかし、パランディアの巨大な盾により防がれた。
「[閃風乱波]!!」
パランディアの背後に回り込んだシャインは、三日月型の斬撃を連続で放った。
「[ジャスティスウォール]!!」
パランディアはすぐに振り返り、巨大な盾を構える。すると盾より巨大な光の盾が出現し、斬撃を全て防御した。
「[ジャスティスインパクト]!!」
パランディアが盾を突き出す動作をすると、光の盾が発射され、シャインを吹き飛ばした。
シャインは空中で一回転して体勢を立て直し、着地と同時に反撃に転じようとしたが、鎧を装備しているとは思えない速さで距離を詰めてきたパランディアに先手を取られた。
「[ジャスティススピア]!!」
パランディアが光を纏った槍による高速の突き攻撃を放つ。
「[守護風陣]!!」
シャインが風砕牙で防御態勢をとると、球体型の輝く風がシャインを包み込み、突き攻撃を防御した。球体型にしたことにより、槍が滑って軌道が逸れ、パランディアの姿勢が少し崩れる。その一瞬の隙を逃さず、シャインが攻撃に転じる。
「[風爪斬]!!」
シャインが斬り上げると、刃の両端に発生した風の斬撃も同じ動きをし、3つの斬撃がパランディアに襲いかかる。直撃を受けたパランディアだが、硬い鎧に守られて斬撃のダメージは負わなかった。
2人の攻防は更に激しくなっていき、互いの渾身の一撃がぶつかり合った瞬間、刀と槍が同時に弾かれた。そして2人とも素手の状態になると、全く同じタイミングで拳を構えた。
「[ジャスティスパンチ]!!」
「[嵐纏拳]!!」
神々しく輝く拳と、激しい風を纏う拳が真正面から衝突する。
軍配は──神々しく輝く拳に上がった。
激しく吹き飛ばされたシャインは、ダンスホールの隅に置いていたグランドピアノを豪快に破壊してから壁に衝突した。
発生した砂塵によりシャインの姿が視認出来なくなったため、パランディアはすぐさま槍を拾い、油断なく構えた。
その時、落ちている風砕牙付近で風が発生し、独りでに砂塵のほうへ飛んでいった。そして砂塵の中から現れたシャインの手に掴まれた。
「これが能力解放の力か。やっぱ自分で使うより、実際に戦ったほうがその強さを実感するな。」
アドレナリンによる興奮状態のシャインは、額や口から血を流しているが一切気にもせず、純粋に戦闘を楽しんでいるようだ。
そんな様子のシャインを見たパランディアは、とある事を危惧して交渉を持ちかける。
「少年、降伏をしないか?このままでは君は──」
「降伏だと?ふざけるな。こんな滾る戦闘をみすみす捨てるかよ。」
シャインが食い気味に拒否をする。
「しかしこのままでは、『君が君でなくなってしまう』ぞ。」
「あぁ?意味が分からねぇこと言いやがって。俺は俺だ。俺でなくなるわけねぇだろ。」
「そういう事ではない。君の魔法は絶滅魔法だろ?絶滅魔法は無理に使い過ぎると──」
「ごちゃごちゃとうるせぇな!口を動かす暇があるならかかってこい!」
シャインが更に魔力を高めた。その時、シャインの体に異変が起きる。
金色の瞳が真っ赤に充血し、ツーっと血が頬を流れる。髪の色は黄緑色から深紫色へと変化していく。
(いけない…!既に危険域に入っていたか…!)
パランディアが即座に槍と盾を構えるが、既に眼前にシャインがいた。
「[閃ノ風]。」
光の速さで風が吹いた瞬間、パランディアの右肩から左脇腹にかけて強力な一太刀を浴びせた。
鎧の硬さと、咄嗟に盾で防御したことにより、肉体に届いた刃は僅かだが、鎧と盾がたった一撃で一刀両断された事実に、パランディアは恐怖を感じざるを得なかった。
「くっ…!!」
パランディアは恐怖を抑え込みながらバックステップを踏み、シャインとの距離を空けると足下に魔法陣を展開した。
「少年!君を止めるにはもう殺すしかない!恨まないでくれよ!」
次の瞬間、シャインの頭上にも魔法陣が出現した。
「[ホーリーロウ]!!」
パランディアが詠唱した瞬間、シャインの頭上に出現した魔法陣から強力な光属性の光線が放たれた。
シャインは迫る光線を見上げてつつ刀を構えた。
「[無光刃]。」
そして直撃する寸前に刀を光線に向けてスッと撫でるように振るうと、光線はピタッと止まった。1秒後、光線はガラスの如くバラバラに砕け散り、光の塵となってシャインに降りかかると、幻想的な光景を作り出した。
しかし、今のパランディアの心境で幻想的な光景に魅了している余裕はなかった。
パランディアが固まっている隙をつき、シャインは強力な飛び蹴りをパランディアの顔面に喰らわせた。
パランディアは吹き飛び、地面に転がる。何とか立ち上がろうするが、ふらっとバランスを崩し、片膝をついてしまう。
(くっ…これほどか…!これが…!『魔に憑依されし者』の力か…!)
パランディアはこちらにゆっくり近付いてくるシャインを睨み付ける。
「まだ倒れるなよ。もっともっと…潰してやるからよぉ!」
シャインはパランディアを見下ろしながら悪魔のような笑みを浮かべると、動けないパランディアをまた蹴り飛ばし、そのまま連続で攻撃を仕掛ける。
パランディアはなす術なくただシャインの攻撃を受け続け、遂にうつ伏せで倒れてしまい、能力解放も解けてしまった。
「んだよ、騎士団長っつうのもこの程度か。」
シャインが刃先をパランディアの心臓へと向ける。
「じゃあな、死ね。」
シャインがパランディアの心臓目掛けて突きを放った。
──瞬間。
「止まって!!シャイン!!」
迫真の呼び声がダンスホールに響き渡る。シャインは反射的に刀をピタリと止めると、声がした出入口の方向に顔を向けた。
そこには叫んだ少女──レビィと、サナ、ヒューズ、アレン、ソノの5人が立っていた。
「レビィ……」
シャインはレビィと目が合った瞬間、激しい頭痛に襲われた。
「シャイン!!」
もがき苦しむシャインにレビィが駆け寄ろうとしたが、サナがそれを止めた。
「ダメよレビィ。今のシャインは危険過ぎる。」
「どうして!?あんなに苦しんでいるのに…!」
「恐らく今のシャインは、シャインじゃない。」
「えっ…?」
サナの言葉の意味が分からずレビィが困惑していると、シャインが更に苦しみだす。
「やっぱりダメ!放っておけないよ!」
レビィはサナの制止を押し切り、シャインの元へ駆け寄る。
「シャイン!だいじょう──っ!!」
レビィが声をかけた瞬間、シャインが充血した瞳でギロリと睨み付け、風砕牙で斬りかかってきた。紙一重で反応したレビィは夜桜で防ぎ、鍔迫り合いとなった。
「シャイン…!どうしたの…!?私、レビィだよ…!目を覚まして…!」
レビィが必死に呼びかけると、シャインの瞳が充血状態から元に戻る。そしてまた頭痛に襲われ、苦しみながら後退りしていると、髪の色も深紫色から元に戻り、最後に能力解放も解除された。
シャインは瞳から光を失うと、力なく仰向けに倒れた。
「シャイン…?シャイン!!」
レビィは納刀してシャインに駆け寄ると、シャインの頭を自身の膝に乗せて声をかける。
「死んだのですか?」
シャインの暴走が止まったため、ヒューズが近付きながらサナに問う。
「死んじゃいないわよ。気を失っただけ。」
サナが答える。
「さっきまでのシャイン、様子が変でした。まるで別人…でした。」
ソノが先程までシャインを思い出す。
「さっきまでのシャイン、私の知識が間違いでなければ『絶魔憑依』になっていたわね。」
絶魔憑依という言葉に対して、ヒューズとアレンは反応し、レビィとソノは頭の上にハテナを浮かべた。
「絶魔憑依って?」
レビィがサナに説明を求める。
「悪いけど詳しい話をするには時間がないわ。簡単に言うと、絶滅魔法は激しい感情の変化や、急激な魔力の枯渇に反応すると『人に憑依する』、つまり『乗っ取る』ことがあるらしいの。」
「乗っ取る…!?」
衝撃的な事にソノは純粋に驚く。
「それは私の夜叉魔法やソノの青幽鬼魔法も該当するの?」
レビィは冷静に尋ねる。
「当然。全ての絶滅魔法に絶魔憑依の可能性があるわ。」
サナが答えると、レビィの中で1つの仮説が生まれた。
(魔法が人の体を乗っ取る。つまり、自我を持つ可能性があるってことよね。)
レビィが心の中で眠るもう1人の存在のことを考えていると、気を失っていたシャインが目を覚まし、ゆっくりと上半身を起こした。
「俺は…何を…?」
どうやら記憶が曖昧らしく、周囲を見渡すシャインの顔は困惑している。
「あんた、絶魔憑依って状態になっていたから、多分その間の記憶が飛んでいるのよ。」
サナがシャインの身に起きたことを簡潔に述べる。
「絶魔憑依?」
「簡単に言うと一時的に絶滅魔法、あんたで言うと閃風魔法に体を乗っ取られていたのよ。」
「魔法に体を……」
シャインは掌を見詰める。
「とにかく、今は詳細を話す時間もない。エアルを見つけて連れて帰ることを優先するわよ。あんたは動けんの?」
サナがシャインに動けるかどうか尋ねる。
「あ、ああ。」
まだ整理が出来ていない様子のシャインだが、とにかく動くしかないと判断してゆっくりと立ち上がる。そしてシャイン達は気を失っているパランディアを置いて、ダンスホールから移動した。
ダイヤモンド城の裏手。そこには立派な教会が建っており、中には綺麗にセットされた白髪に黄色の瞳、王族を体現したかような豪華な服を身に纏うアルバーノ・フィン・ダイヤモンドの姿があった。
アルバーノは教会の奥に飾られている、マントを翻し、剣を高らかに掲げる男の銅像を見上げながら物思いにふけていた。
「お部屋におられなかったので何処にいるかと探しましたよ、お父様。」
アルバーノの背後から話しかけたのは、純白なフィッシュテールのドレスを身に纏う少女──エアルであった。
「エアルか。」
アルバーノがエアルの方に体を向けた。
本日はお読み下さり誠にありがとうございます!
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ザーパトウェスト編も残り3話となりました!このまま一気に駆け抜けますので、次回もお楽しみに!




