38話 クリスマスの奪還
こんにちは!作者です!ザーパトウェスト編11話目です!
そしてそして……皆様!メリークリスマス!!皆様の枕元にはプレゼントがありましたか?私には仕事という現実が置いてありました…。
さて!今回で連続投稿の最終日となります!つまり17話の前書きで言っていた『とある日』とは、今日のことでございます!
なぜ今日が連続投稿の最終日になったのか。その辺りの理由は後書きで。まずは本編をどうぞ!
──それでは皆様に、少しでもワクワクできる時間を。
時刻は23時45分。自室の窓から夜空を見上げているのは、純白なフィッシュテールのドレスを身に纏い、オレンジ色のショートヘアーに赤色の瞳をもつ少女──エアル・フィン・ダイヤモンドであった。
「ねぇハーグ。今年は開催宣言しなくていいの?」
夜空を見上げたまま、扉付近で待機している70代前半の燕尾服を着こなすメイド長──ハーグに問いかける。
「はい。エアル様がヨロパに戻られていることは国民達には極秘となっておりますので。」
ハーグが答えると、クルッとエアルがハーグの方を向いた。
「そう!そこなんだよ!何で私を連れ戻したことをお父様は国民に教えないの?お陰で連れ戻されてからずっと城の中で軟禁状態なんですけど!」
腕を組んでプンプンと怒るエアル。
「そもそも私を連れ戻した理由も全然教えてくれないし。ハーグ、私は何のために連れ戻されたと思う?」
ムスッとした顔で尋ねるエアル。
「娘を大事にしたいという親心ですかね。」
ハーグの返答に、エアルは更にムスッとする。
「ハーグからはそんなお世辞な返答求めてない。」
ハーグはやれやれと思いつつも、本当の意見を述べる。
「残念ながら私の耳にも確かな情報は入ってきていません。ですのであくまで私の憶測ですが、そろそろ跡取りの事などをお考えなのかも知れません。」
「私を誰かと結婚させて、子供を産まそうとしているってこと?」
「ザーパトウェストは代々ダイヤモンド一族の血統が治めている国ですので、血が途切れることは何よりも避けなければならない事案です。故に、次期国王という存在を早くほしいのかもしれません。」
「私が次期女王になるって可能性はないってこと?」
「可能性はゼロでありません。しかしザーパトウェストの歴史上、女王が君臨した例は1回もありません。」
「つまり私に早く跡取り用の男の子を産んでほしいってこと?」
「私の憶測の結論はそうなります。」
「そっか…。どんな理由であれ、やっぱりお父様は私を一族の道具にしか思ってないのかな。」
エアルがうつむく。
「真意を知るにはアルバーノ様に直接訊くしかございません。なので憶測の話で落ち込んでいたら気持ちが保ちませんよ。今は遠くからですがクリスマスパーティの雰囲気を楽しんで気分を変えましょう。後でケーキも持ってきます。」
ハーグが優しく慰めると、エアルは素直にうんと頷き、窓から見えるヨロパの賑わいを見下ろすのであった。
時刻は23時59分。開催宣言が行われる貴族エリアの噴水広場には大勢の人々が集まっていた。0時に近付くにつれ、人々のテンションがどんどんと上がっていく。
──そしてテンカウントが始まり、遂に時計の針が真上で重なった。
夜空には大きな花火が上がり、クリスマスパーティが開催された。ヨロパ中が一斉に盛り上がりを見せる。
そんな浮かれた空気の中、スーツを来た少年少女7人が人々に紛れ、ダイヤモンド城の城門へと向かっていた。城門前には2人の騎士が警備をしている。
「はぁ…何でクリスマスパーティの日に俺は門番してるだ俺は…」
左の騎士が露骨に落ち込む。
「お前、どうせ非番でもパーティを一緒に回る相手なんていないだろ。」
右の騎士がケラケラと笑う。
「なんだと!ま、そう通りだけどな!」
油断しきって笑い合う2人の騎士。その前方からスーツを着た7つの影がゆっくりと近寄ってきていた。
「──!!おい、誰だお前達!?」
影の存在に気付いた左の騎士が剣を抜いて問いかける。しかし、7つの影は止まる気配がない。
「止まれ!これ以上の接近は問答無用で処罰するぞ!」
右の騎士が脅しをかけるが、やはり止まる気配はない。むしろ2つの影が戦闘態勢に入った。
そして次の瞬間、2つの影が動き出し、2人の騎士に接近した。
「こいつ等…!!」
2人の騎士も応戦するが、左の騎士は刀に、右の騎士は拳によって倒された。
「殺してないよね?」
紺色の髪の少女──レビィが、騎士を倒した2つの影の正体──シャインとスノウに尋ねる。
「当たり前だ。殺戮が目的じゃないからな。」
「いってぇ〜!やっぱ素手のまま鎧を殴るもんじゃねぇな。」
スノウは手をブンブンと振って痛みを誤魔化す。
「さて、目の前までは来ましたが、この城門をどうするのですか?」
ヒューズが目の前に聳え立つ20メートル越えの城門を見上げる。
「決まってんだろ。こじ開ける。」
シャインは答えると、1人だけで城門の前に立った。そして魔力を一気に高め、能力解放となると同時に風砕牙を構えた。
「[龍昇天風]!!」
刃を下から上に振り上げると、城門の中央を天に昇る龍の如く斬撃が切り裂いた。
するとロックが外れたのか、城門がゴゴゴと重音を立てながら観音開きされていく。突如城門が開いたことにより、城内を警備していた騎士や仕事中のメイド達が戸惑っている。
「ひ、広いですね…」
ソノが城内の広さに驚きを隠せない。
「ヨロパの土地面積の約30パーセントは、ダイヤモンド城の敷地と言われていますからね。」
ヒューズが城内が広い理由を告げる。
「なら手分けして探すか。」
シャインが提案する。
「流石に単独は危険だ。2、2、3で別れた方がいい。」
アレンがシャインの提案に補足する。
「じゃ、エアルを見つけたら目立つ合図をして他の奴に知らせる。そして城からおさらばだ。」
シャインが手短に作戦を告げると、シャインとレビィ、スノウとヒューズ、サナとソノとアレンの3グループに分かれて城内の探索を始めた。
そしてこの時、シャイン達が起こした騒動に便乗し、とある組織が人知れず城に侵入していたのであった。
ダイヤモンド城内、王室。整えられた白髪に緑色の瞳をもつ現国王であり、エアルの実父でもある男──『アルバーノ・フィン・ダイヤモンド』が城内の騒ぎに気付き、読書を中断した。その時、部屋の扉が少し慌ただしくノックされた。
「アルバーノ様、至急お伝えしたいことが。」
「入れ。」
入室を許可すると、年齢40代前半、身長185cm、ブロンドのロングヘアーにロイヤルブルーの瞳をもつ鎧を纏った男が入ってきた。
「『パランディア』か。何の騒ぎだ?」
アルバーノが入ってきた男をパランディアと呼び、状況の説明を要求する。
「報告によりますと、未成年男女合わせて7名が、城門を無理矢理開門させて襲撃してきたとのことです。」
「子供程度にこの騒ぎか。さっさと捕らえよ。」
「それが全員めっぽう強く、並の騎士達では太刀打ち出来ない状況でして…」
「他人事のように言うが、騎士どもが子供すら止められないのは、『騎士団長』であるお前の教育不足なのではないか?」
「……返す言葉もありません。」
パランディアが謝罪した時、黒色の外套を身に纏い、フードを深く被り、不気味な笑みを浮かべた仮面を付けた男が2人の元に現れた。
「『ジェノ』、暗殺部隊の隊長が何用だ?」
露骨に嫌な顔をするパランディアが尋ねる。
「アルバーノ様、襲撃したガキ共はエアル様の仲間です。目的はエアル様の奪還かと思われます。」
ジェノはパランディアを無視し、アルバーノにシャイン達の目的を報告する。
「やはりそうであったか。まぁ目的なんざ最悪どうでもよい。子供だろうと襲撃犯には違いない。さっさと捕らえよ。」
「はっ!!」
パランディアは左胸にドン!と拳を当てて返事をすると、現場に向けて走り去っていった。
「アルバーノ様、捕らえる際の生死はどうされますか?」
ジェノが問う。
「抵抗が激しいのであれば、死も止むを得ない。」
アルバーノからの応えを聞いたジェノは、不気味な笑顔の仮面の下でニヤリと笑った。
「では、私も捕らえてきます。」
少し高揚感がある声量で告げると、ジェノは影の霧で己を包み、その場から消え去った。
「………」
1人となったアルバーノは、数秒間何か考え事をした後、何処に向かって歩き出すのであった。
「[グランドウエーブ]!!」
城内の広い十字路でスノウが床を殴ると、波紋の如く衝撃波が円形に広がり、周囲の騎士達を吹き飛ばした。
「はぁ…はぁ…キリがねぇな!」
予想以上に騎士の数が多く、スノウは少し息切れをしている。
「おやおや?もうバテているのですか?」
共に動いているヒューズが見え見えの煽りをする。
「はぁ!?バテてねぇし!まだまだ余裕だし!」
簡単に煽りに乗るスノウがその場でシャドーボクシングをして動けるアピールをする。ヒューズは脳内で単純と馬鹿にする。
「では早く移動しますよ。そろそろ相手も我々の目的を感付いている頃合いで──!」
ヒューズが移動を再開しようとした瞬間、殺気を感じ、反射的にバックステップを踏んだ。すると先程まで立っていた場所が突如爆発する。
「何だ!?地雷でもあったか!?」
「いえ…あいつの魔法ですね。」
ヒューズが睨む先、そこには年齢26歳、身長178cm、金色のツンツンヘアーにカラーコンタクトによって紫の瞳に髑髏が描かれていた瞳をもち、素肌に黒の革ジャンに黒のレザーパンツを着る男が立っていた。
「お前…!『パンロック』!!」
スノウが現れた男の名前を叫ぶ。
「ヒュー!久しぶりだなボーイ共!」
足でリズムを刻むパンロックがビシッとスノウとヒューズを指差す。
「革命三柱の1人が何故このような場所にいるのですか?」
ヒューズが冷静に問う。
「残念ながらそれは秘密だ!」
「そうですか。ま、あなたのような頭の悪い人間が単独でこのような場所に侵入するとは思えません。理由は共に侵入している他の三柱からか、あなた方のボスに訊くとしましょう。」
そう言ってヒューズは振り返し、反対の道から行こうとする。
「お、おい!あいつはいいのかよ?」
パンロックのことをスルーするヒューズに、スノウが慌てて尋ねる。
「私達の目的と革命軍の目的が違います。ここで戦う理由がありません。」
「そうだけどよ…」
「スノウ、今のあなたに革命軍に構っている余裕があるのですか?」
「それは……」
「目的がブレると、成し遂げられませんよ。」
「……分かった!」
ヒューズの説得により、スノウもパンロックを置いて去ろうとする。
しかし次の瞬間、2人の前方の壁が爆発によって破壊され、行く手を塞がれてしまった。
「ヘイヘイヘイ!勝手に話をまとめてグッドバイしてんじゃないよ!折角なんだ、エンジョイしようぜ〜!」
「やっぱやるしかねぇか…!」
スノウが覚悟を決めて拳を構えた時、ヒューズが一歩前に出た。
「スノウ、あなたは先に行って下さい。このふざけた野郎は私が相手をします。」
「1人でやんのか?こいつ、見た目の割に結構強いぞ。」
「ご心配なく。こう見えても私、結構強いのですよ。」
眼鏡をクイっと上げるヒューズが妙に頼もしかったので、
「分かった。じゃあここは任せるぞ。」
スノウはヒューズにこの場を任し、エアルを探しに向かった。
「ヘイヘイ!だから俺様を無視して話を進めるな!そ、れ、に…俺様が見過ごすわけないだろ!」
パンロックが去っていくスノウに攻撃を仕掛ける寸前、鼻先をかすめるように一本の矢が通り過ぎていった。
「お前の相手は私がすると言っただろ。」
弓を構えるヒューズの声色が変わり、どこか冷酷さを感じる。
「へいyou、何かキャラチェンジしてない?」
パンロックがヒューズの雰囲気が変わったことに気付く。
「お前は革命軍に入る前、妙なカリスマ性と腕っぷしによって、アンダーグラウンドの世界で名を馳せていたチンピラだったな。その程度の奴が革命三柱の肩書きはさぞ重いだろう。」
ヒューズの纏う雰囲気がどんどんと冷酷さを帯びる。
「──!!そうか、youが例の……!」
パンロックは何かを思い出し、臨戦態勢となる。
「その肩書き、捨てさせてやるよ。命と一緒にな。」
ヒューズが冷酷な瞳でパンロックを睨み付けた。
アレン、ソノ、サナの3人は騎士を倒しつつ、エアルがいそうな部屋を片っ端に調べていた。
「次はここね。」
サナが次の部屋の扉を開ける。そこはサッカーコートくらいある広さがある図書室であった。規則的に並べられた本棚には無数の本が置かれている。
「………!!」
一瞬にして本へ興味を持っていかれたサナが物色を始めようとしたが、何かの気配を感じたアレンが止めに入った。
「待ってサナ、誰かいる。」
その時、図書室の奥の物陰からパタンと本を閉めた音が響いてきた。
3人が注目していると、年齢30歳、身長170cm、茶色のロングヘアーに黄色の瞳をもち、ピシッとしたワインレッドのスーツにノーフレームの眼鏡をかけた女性──『イルファ』が姿を現した。
「城の者が来たのかと思ったら、あなた達だったのね。」
イルファが異空間から魔導書を取り出す。
「イルファ…!?革命軍が何故ここに!?」
全く予想していなかった勢力の出現にアレンが身構える。
「端的に訊く。私達の邪魔をするの?しないの?」
サナが問う。サナの後ろにはソノが隠れている。
「あなた達の目的の邪魔をする気はないわ。──でも、その子がいるのなら個人的に用が出来てしまったわ。」
イルファの視線がソノに向けられる。
ソノはイルファと目が合った時、頭の中に白衣を着たイルファらしき女性の影が一瞬映った。次の瞬間、強烈な頭痛が起こり、呻き声を上げながら蹲ってしまった。
「ソノっ!?」
サナは突然苦しむソノに寄り添う。
「何をしたイルファ!」
アレンがハンドガンの銃口をイルファに向ける。
「何もしていないわ。──今はね。」
イルファは意味深な回答をする。
「アレン、あんたは先に行って。私も個人的にこの女に用が出来た。」
苦しむソノを安全な場所へと移動させたサナが、アレンにこの場を去るように告げる。
「……分かった。でもくれぐれも気を付けてくれ。彼女も革命三柱の1人、十分に強いよ。」
アレンはサナの強さを信じ、図書室を後にした。
「あんた、ソノに何をした?」
「…………」
サナからの問いに、イルファは口を閉ざしている。
「あんたがした事、ソノの記憶喪失と関係があるんじゃない?」
声に苛立ちが混じるソノが更に問う。しかしイルファの反応は変わらない。
「答えなさい!」
苛立ちが怒りに変わったサナが魔法を発動し、脅しでイルファの近くに雷を落とした。
「なら、私からの質問に答えてくれるかしら?」
イルファが逆にサナに尋ねる。
「あなたのその怒り、『仲間を傷付けられた』、という怒りとは毛色が違うように感じるわ。あなた、ソノに対して『特別な感情』があるんじゃない?」
立場が逆転し、次はサナが口を閉ざしてしまった。
「あなたも黙秘をするなら、私も答える義理はないわ。」
「……あっそ。なら、無理矢理吐かすしかないってわけね。」
サナは怒りの表情のままネクタイを解き、戦闘態勢となる。
「頭脳的な子だと思っていたけど、案外血の気が多いのね。」
イルファはクスッと笑って煽った後、応戦するため魔導書を構えるのであった。
単独となったスノウは廊下を突っ走りながら騎士達を薙ぎ倒していく。
「はぁ…!はぁ…!」
騎士を倒したスノウは猪突猛進で廊下を走り続ける。その時、前方に影の霧が発生した。
「この魔法…あいつか!」
目の前に現れた者の正体が分かったスノウが身構える。次の瞬間、影の霧から人が飛び出してきて、スノウに攻撃を仕掛けてきた。
不意打ちの一撃を咄嗟にガードしたスノウだが、そのまま防戦一方となってしまい、瞬く間に窓近くまで追い詰められた。そして相手に服を掴まれると、背負い投げで窓の外に放り投げられた。スノウはビルの4階にあたる高さから中庭の大理石の地面に落下した。
「いっってぇ〜…!!」
スーツの強度に助けられ、背中を痛めただけで留まったスノウが背中を擦りながら立ち上がる。
「久しいな、銀野良。」
前方に着地したのは、黒色の外套を身に纏い、フードを深く被り、不気味な笑みを浮かべた仮面を付けた男──暗殺部隊スマイリーマスクの隊長ジェノあった。
「やっぱてめぇかジェノ…!」
スノウが敵意剥き出しで拳を構える。
「今回の任務はお前達襲撃者の捕獲。しかし、激しい抵抗があった場合は死を厭わないことになっている。だから精々抗ってくれよ。でなければ殺せないからな。」
ジェノは不気味な笑顔の仮面の下でも不気味な笑みを浮かべる。
「うるせぇ!絶対にそのキモい仮面を粉砕してやるから覚悟しろよ!」
スノウは握る拳に力を込めるのであった。
城の中腹辺りの屋根の上。十分な広さはあるが少し斜面になっており、滑りやすい材質となっている。
そんな屋根の上で睨み合うのは、レビィから体を変わったナイトと、外見年齢30代前半、身長182cm、黒髪の無造作ヘアーに緑色の瞳をもち、山吹色を基調とした少し明るめの袴に下駄を身に纏い、手には二本の刀を所持する男──革命軍の革命三柱の1人である『ムサシ・ミヤモト』であった。
既に2人は戦闘した形跡があり、動き回りながら戦闘している内に屋根の上に辿り着いたようだ。
「いやぁ〜!やっぱお嬢ちゃんとの戦いは自然と滾るから楽しいわぁ〜!」
ムサシが楽しそうにニコニコと笑う。
「はぁ…はぁ…そろそろ満足したか?ならばこの無意味な戦いを止めようではないか。」
ナイトが息を整えながら交渉する。
「おいおい、それは生殺しやでお嬢ちゃん。ここまで戦ったんや。どっちかがくたばるまで戦り合おうや。」
しかし興奮状態のムサシが一切応じる気配はなかった。
「はぁ…戦闘狂が。ならばせめて訊かせろ。お主等は何故この城にいる?」
ナイトが尋ねる。
「そりゃあウチの大将の計画の為や。内容は……あ〜なんか言ってたような気がするけど、あんま興味ないさかい、憶えてないわ。」
「己が所属する組織の計画も憶えていないのか……」
ナイトが小さくため息をついて呆れる。
「拙者はただ滾る戦いがしたいだけや。革命軍にいればその機会が多いから所属しているだけ。まさに今みたいにな。」
「あくまで戦いに興じることが目的か。なら、この場をお開きにする気はなさそうだな。」
「そりゃそうさ。お嬢ちゃんみたいな強者との戦い、拙者がみすみす捨てるわけないやろ。」
ムサシは狂気を纏った笑みを浮かべつつ、二本の刀を構える。
「そうか。ならば…改めて相手になろう!」
全力で戦わなければ死にかねない。そう判断したナイトは覚悟を決めて夜桜を構えるのであった。
広々とした空間。高い天井には豪華なシャンデリアがいくつもぶら下がる。部屋の隅には高級なグランドピアノが設置さている。
ここはダンスホール。不定期に社交ダンスパーティが行われるこのホールの扉が今、勢いよく開いた。
同時に1人の少年──シャイン・エメラルドが吹き飛んできて、床に接触するギリギリで体勢を立て直し、滑りながらも着地する。
「クソが…!いきなりタックルしてきやがって…!」
口の中を切ったシャインがプッと血を吐きながら、自身を吹き飛ばした男を睨み付ける。
「見つけたぞ。大罪の子よ。」
ブロンドのロングヘアーにロイヤルブルーの瞳をもつ鎧を纏った男が、左手には巨大な盾、右手には槍を携えながらダンスホールに入ってきた。
「何者だお前?」
油断することなく風砕牙を構えながらシャインが尋ねる。
「私は騎士団長パランディア。アルバーノ様の命により、君達を捕える。」
パランディアがガシャリと盾と槍を構える。
「見るからに堅物って感じだな。今ここで俺がどんな言い訳をしても見逃してくれないだろ?」
「無論だ。」
「なら選択肢は1つ。全力でぶっ飛ばす。」
シャインは一気に魔力を高め、能力解放となる。それにより髪は黄緑一色、瞳は金色へと変色する。
「ほう。その若さで能力解放になれるのか。大した才能だ。」
パランディアがシャインの才能を目の当たりにして素直に感心する。
「悪いがすぐに終わらせてもらうぞ。」
「声が自信を感じる。能力解放の力に相当な信頼を置いているようだな。だが忘れるな少年。その力は、唯一無二のものではないということを。」
次の瞬間、パランディアも一気に魔力を高めた。すると髪、瞳共に純白へと変わり、体から白いオーラを放ち始めた。
「まさか…!能力解放か…!?」
シャインに動揺が走る。
「その反応、自分以外の能力解放を見るのは初めてのようだな。」
同じ力を持つ者の出現。さそがしシャインは絶望すると思ったパランディア。しかし、その予想は外れた。
最初は動揺していたシャインだが、今は何やら活き活きとした笑みを浮かべていた。
「何が可笑しい、少年よ。」
パランディアが笑みの意味を問う。
「あー悪い悪い。ちょっと今からの戦いが楽しみ過ぎてつい笑っちまっただけだ。」
「……成る程、君はそういう性格か。これは厄介な相手になりそうだ。」
パランディアはシャインの性格を見抜くと、少し億劫な気持ちになるのであった。
──忘れてはいないだろうか。シャインは生粋の戦闘馬鹿だということを。
本日はお読み下さり誠にありがとうございます!
少しでも先が気になった方、面白かった方はブックマーク、☆の評価などをお願いします!
さて、前書きでもお伝えしましたが、今回の38話で連続投稿がまた一旦終了となり、且つ2023年内の投稿も最後となります。
なぜ今日を最終日にしたのか。その理由は実にシンプルです。執筆中にふと気付いてしまったのです。『これ、調整して投稿していけば、現実と小説の季節がリンクするじゃん。』って。
本当はザーパトウェスト編が書き終えるまで投稿はしないつもりだったのですが、この『現実と季節リンク計画』を思い付いてしまったので、ならば実行するしかないとなり、投稿を再開したのです。
まぁどんな理由であれ、皆様がこのクリスマスの日まで読んでいただき、少しでも楽しんで下さったのであれば、執筆者側としてこの上ない幸せです。
では、次の投稿がいつになるかは私自身も分かりませんが、なるべく早く投稿出来るように頑張りますので、それまで気長に待っていただけると幸いです。
それでは皆様、またいつかお会いしましょう!次回をお楽しみに!




