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始まりは魔法科高校から  作者: 眼鏡 純
5章:西の国
30/71

30話 王女と野良

こんにちは!作者です!祝30話でございます!そしてエアル&スノウ編3話目です!

今回から数話にかけてエアルとスノウの過去のお話をしていきます。



──それでは皆様に、少しでもワクワクできる時間を。

───4年前。

───季節は冬。

───西の国。ザーパトウェスト。



 木々やブリキなどで建築されたツギハギでボロボロな家々が建ち並ぶ街。端から見れば廃墟にしか見えないこの街も、貧民の人々にとっては大事な大事な街である。

 ここは貧民街『ボウビン』。この街には有名な少年が暮らしていた。

 銀色のウルフカットされた髪に茶色の瞳をもつ少年。喧嘩っ早い性格で、相手が大人だろうと身分が上だろうとお構いなく牙を向けて楯突いた。そんな性格と特徴的な銀髪から、周囲からは『銀野良』という異名で呼ばれていた。

 少年の名は『スノウ・シルバー』。当時12歳。現在ボウビンの中央にあたる広間で、周囲から注目を浴びながらガラの悪い男と睨み合っていた。



 「おいクソガキ!てめぇのその腕っぷしを見込んで雇ってやるって言ってたんだ!黙って俺のために働きやがれ!」

ガラの悪い男が怒号と睨みでスノウを脅すが、スノウは一切動じることなく言い返す。

「はっ!何が悲しくてお前みたいな奴の用心棒をしなきゃなんねぇんだよ!勝手に襲われてくたばってろ!」

「てめぇ…!貧民の分際で平民の俺に口答えすんじゃねぇ!」

ガラの悪い男の怒りが爆発寸前である。

「平民の中でもどうせど底辺だろうが!」

このスノウの挑発が、ガラの悪い男の堪忍袋の尾を切らせた。

「ガキが…!調子に乗んじゃねぇ!」

ガラの悪い男が拳を握り締め、スノウの顔目掛けて殴りかかる。しかし、スノウの慣れた身のこなしによって回避され、綺麗な空振りとなった。

「へっぽこパンチだな。パンチっていうのは…こうやんだ!」

スノウは拳を構え、隙だらけの鳩尾に一撃を喰らわした。ガラの悪い男はヨタヨタと後退した後、その場でうずくまった。上の身分の者に勝利した場面ではあるが、周囲からは歓声は上がらず、ざわざわと心配する声が聴こえてくる。

「貴様!何をしている!」

その時、西洋風の鎧を着た男がスノウの元に駆け寄ってきた。

「殴りかかってきたら返り討ちにしただけだ。」

スノウが答えた次の瞬間、鎧の男の拳がスノウの顔を捉えた。

「いっっっ…!手甲付けたまま殴るか普通……」

仰向けに倒れるスノウが小声で文句を吐きながら上半身を起こす。

「貴様、貧民の分際で平民に攻撃するとは、覚悟は出来ているのだろうな。」

鎧の男が腰に携える剣の柄に手をかける。その場にいる全員が察する。このままではスノウが斬り伏せられると。だが、誰もスノウを助けようとしない。いや、助けられないというのが正しい。ここで下手に助けに入ると、反逆者として自分達も罰せられる可能性があるからだ。

鎧の男が鞘から剣を抜き、大きく振り上げた。だがその時、1人の男が間に割り込んできた。

「待たれよ騎士殿!見張りの途中ですか?こんなゴミ溜めの街までお疲れ様です!」

金髪のロングヘアーの男が軽い口振りで鎧の男に擦り寄り、自然とスノウから遠ざける。

「何者だ貴様?邪魔をするなら貴様も……」

「邪魔なんてそんなそんな!いつも頑張っている騎士殿に、私から労いを、と思いまして。」

金髪ロングヘアーの男がスッと鎧の男の手に何かを握らせた。鎧の男は握らされた手を開くと、そこにはそこそこの金額となるお金があった。

「……今度、騒ぎを起こしたら承知しないぞ。」

鎧の男は剣を鞘に戻し、倒れ込むガラの悪い男を担ぎ上げると、その場から去っていった。

「はーい!胸に刻んで起きまーす!」

金髪ロングヘアーの男はヘラヘラと媚を売る笑みを浮かべながら鎧の男を見送り、姿が見えなくなったと同時に大きなため息をついた。そして怒りの形相で立ち上がるスノウに近づくと、躊躇なく平手打ちを喰らわした。

「ド阿呆!こんな事続けていたらいずれ本当に死ぬぞ!」

「いって〜、本気で叩きやがって。」

「もう次は助けられないからな!いいか!」

「……へいへい。」

不服な顔をするスノウに対し、金髪ロングヘアーの男はもう一度平手打ちを喰らわした。彼の名前は『ニクス』。年齢20歳。スノウの兄貴分にあたる男であり、親がいないスノウにとって家族同然の存在である。


 スノウが騒ぎを起こした日の夜。スノウはニクスと二人で暮らしており、少々窮屈な家に滞在している。

「なぁスノウ。頼むから本当に上の身分の奴には喧嘩を売らないでくれよ。」

家の外で火を焚き、鍋で謎の魚と謎の山菜を煮込むニクスが、家の中で布団で寝転ぶスノウに忠告する。

「分かったって。何度も同じこと言わないでくれ。」

不満そうな顔で反論するスノウ。

「何度言っても聞かないから言ってんだ。同じ身分の奴ならいくら喧嘩したって構わない。その時は逆に盛り上げて賭け事にしてやるよ。でも、上の身分に喧嘩を売るだけは本気で止めてくれ。今回は相手が金にがめつい奴だったから良かったけど、毎度毎度そう上手くはいかねぇんだ。だからマジで取り返しがつかない状況になる前に止めてくれ。」

「……分かったよ。」

ニクスの真剣さが伝わり、スノウは渋々納得をする。

「よし、じゃあまずは腹ごしらえだ。煮込み終わったから器持ってこい。」

先程までの真剣な顔から打って変わり、陽気な笑みを浮かべるニクスがスノウに器を持ってくるように告げる。

「……おう。」

スノウもニッと口角を上げながら起き上がると、2人分の器を持って外に出る。そして焚き火を囲むように座り、2人で謎の魚と謎の山菜の煮込み汁を食べ始めた。

「はっはっは、やっぱ調味料がねぇと味がしねぇな。生臭さと青臭さのハーモニーだ。」

ニクスがケラケラと笑う。

「じゃあ明日でも俺が盗ってきてやろうか?」

スノウが冗談混じりで提案するが、ニクスに本気で睨まれた為、口を閉じた。

「でもそうだな。もうすぐクリスマスだし、そん時はもうちょい良い物を食いてぇな。」

ニクスが何気なく口にした冗談混じりの願望が、スノウの心の中に留まった




 時は少し流れ、冬の寒さが本格的となったとある日の朝。加えて今日は空から雪がチラチラと降っていた。

「お〜寒い寒い!スノウ!帰ったぞ!」

深夜労働から帰ってきたニクスが見た光景は、誰もいない家であった。

「スノウ?スノウ!どこにいる!」

ニクスが家の中や周囲でスノウを探していると、1人の老人がニクスの声に気付いて話しかけてきた。

「ニクス、銀野良なら朝からヨロパに行くと言って出て行ったぞい。」

「ヨロパに?何をしに行った?」

「さぁ。そこまでは知らぬ。じゃが、手にチラシのようなものを持っておったぞ。」

「チラシ?ますます分からん。」

ニクスが悩んでいると、ビュッと強い風が吹いた。すると、どこからともなく一枚のチラシが飛んできて、ニクスの顔に張り付いた。

「ぬがっ!?何だ!?」

「おーそのチラシじゃ。それを持っておった。」

顔からチラシを取り、内容を読むニクス。そこには『クリスマスパーティ』と記載されていた。

「そうか。もうそんな時期か。でも開催までまだ1週間はあるはず──」

その時、ニクスは思い出した。この数日でクリスマスという単語を使って会話をしたことを。

「あの馬鹿…まさか準備に紛れて何か盗ってくるつもりか…」

ニクスは怒りが湧いてきたが、何か良い物を食べたいと言ったのは自分のため、やり切れない怒りへと変わるのであった。




 ザーパトウェスト首都ヨロパ。中央に中世の城のような形をした城─『ダイヤモンド城』が(そび)え立ち、周囲は30メートル級の巨大な壁に守られている。

 壁の外側には『貴族エリア』と呼ばれる貴族達が住むエリアが広がっており、このエリアも20メートル級の壁でぐるりと囲まれている。そして更に壁の外に『平民エリア』と呼ばれる平民達が住むエリアが広がっている。

 このように首都ヨロパは、外側から平民エリア、20メートル壁、貴族エリア、30メートル壁、ダイヤモンド城という構成になっており、当然ながら身分が低い者達がそう簡単に内側のエリアに入れるわけがなかった。


 現在ヨロパ全体で1週間後に開催される『クリスマスパーティ』に向けて様々な装飾や催し物が準備されており、浮かれている雰囲気が街全体を包み込んでいた。

 だが人間浮かれている時は、注意を怠ってしまうもの。浮かれる雰囲気の裏では、窃盗などの犯罪行為が増えてしまうのも、また事実である。



 そして今、スノウは平民エリアの裏路地に身を忍ばさせていた。浮かれる雰囲気の隙を突くために。

(さーて、美味そうな物はあるかな?)

スノウは人気ない箇所を手慣れたように移動しつつ、高級且つ食いごたえのある食べ物に狙いを定めた。


 そして誰にも見つからないまま、繁華街へと到着した。繁華街ともあって活気に溢れ、様々な場所でクリスマスパーティの準備が進められている。

(うーん、美味そうな物は結構あるが人目が多いな。どーすっかなー…)

物陰から周囲の様子を伺うスノウ。すると、徐々に人々がざわめき始め、とある人物に視線を集めていることに気付く。

(なんだ?皆いきなり同じ方見やがって。まぁいいや、チャンス到来だぜ!)

スノウは用意していた袋を構えると、ここぞとばかりに様々な露店から果物や干し肉などをドバドバと詰めていく。

(へっへー!順調順調!)

上手く事が運んでいる為、調子に乗っていくスノウ。その結果、つやつやで見るからに美味しそうなリンゴを手に取った瞬間、

「おい!そこの銀髪のガキ!」

ばっちり店主の男に見られてしまった。

「やっべ!」

スノウは片手に袋、片手にリンゴの状態で逃走を開始した。後ろからはカンカンに怒った店主の男が追いかけてくる。

人混みの中をスルリスルリと通り抜け、なんとか店主の男を振り切ろうとするが、思いのほか店主の男がしつこく、なかなか逃げ切れない。

その時、不意に角から出てきた人とぶつかってしまい、持っていたリンゴがポーンと宙を舞った。

「あっ!俺のリンゴ!」

スノウは飛んでいったリンゴを追いかけて、人混みを掻き分けて進んでいく。放物線を描いて飛ぶリンゴは人混みを越え、何故か誰も歩いていない大通りに転がった。

スノウは人混みから勢いよく飛び出すと、大通りの真ん中でリンゴを拾った。

「たく、活きの良いリンゴだぜ。」

スノウはリンゴを袋に入れようとした時、自身がとてつもないほどの視線を集めていることに気が付いた。

(やば…なんかすっげぇ目立ってる!)

スノウが焦って袋で顔を隠す仕草をしていると、

「そこの銀髪の少年よ!早々にその場から立ち去れ!」

前方から強い口調で命令された。前を向くと、数十人の騎士達が()()を護衛をしながらこちら向かって歩いてきていた。

スノウはそんな護衛されている()()に目を惹かれた。






──白を基調とした最上級のロングドレス。

──まるでダイヤモンドかのような透き通った白色のロングヘアー。

──宝石のように輝く赤い瞳。






──名は、『エアル・フィン・ダイヤモンド』。






今、2人の瞳に互いが映る。

本日はお読み下さり誠にありがとうございます!

少しでも先が気になった方、面白かった方はブックマーク、☆の評価などをお願いします!



スノウとエアルの出会い。さながらロミオとジュリエットの如く。


それではまた明日、お会いしましょう!お楽しみに!

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