中島裕子その二
数か月前、母親が再婚した。
幼い頃両親が離婚し、母親と二人で過ごしていた。それを嫌だと思ったことはないけれど、父親のいる家族を見ると、少しだけ羨ましかった。だからといって、どうしても父親が欲しいと強く思ったことはなかった。母は朝早くから夜遅くまで働いて、休日はくたくたになっている姿を見ると、幸せになってほしかった。
だから、再婚すると聞いたときは嬉しかった。
母は、「裕子が嫌ならこの話はなかったことにするから」と言っていたが、母が幸せになれるならそれでよかったし、何より父親ができることも嬉しかった。
反対する理由はなかった。
初めて顔合わせをしたとき、父親になる人はとても優しそうで、思い描いていたお父さんだった。母も嬉しそうで、幸せってこういうことなのかなと思った。
ただ、私が母の子供であるように、父親になる人にも子供がいた。
同い年の女の子だった。
その子はとても明るく、はきはきしていてクラスにいたらリーダー格のような子だった。
私はどちらかというと目立つ方ではないので、なんというか、その、苦手だなと思った。
誕生日はその子、真美ちゃんが二か月早いので私は妹になった。
母が再婚し、四人家族になった。
父は良い人で毎日優しいし、母もゆとりができたようで、以前のように疲れ切っている様子はなかった。
真美ちゃんは、やっぱり苦手だった。
出かけるときは「ほら早く」と、まるで先生のように、ため息を吐いて玄関で待っているところ。
ケーキを食べるときは「あたしこっちね。あんたはそれでいい?」とまず最初に自分のものを取っているところ。
宿題をするときは「あ、やるの忘れたから見せて」と毎回のように写しているところ。
同じ学校になったとき、クラスメイトから「姉妹ってどんな感じ?」と聞かれたことに対して「やっぱり妹の方がどうしてもとろいよね」と言っていたところ。
家事を任されたときは「あたし宿題まだやってないから。あんたもうやったよね?じゃあ家事お願い」と、言い訳して押し付けてくるところ。
でも姉妹だから、いつまでもちょっと苦手じゃ駄目だから。
なんとか仲良くなろうと努力した。好きになるよう努力した。だって、母も父も仲良くなることを望んでいるだろうし、死ぬまで家族をしていくなら苦手意識はなくした方が良い。
笑顔を貼り付けて、毎日頑張った。宿題を奪って写していても笑って済ませたし、家事を押し付けられた時も笑って引き受けた。クラスメイトに姉面をして私の悪口を言っている時も、気づかない振りをして笑って誤魔化した。
それでも、変わらなかった。未だに私は真美ちゃんが苦手だし、むしろ苦手から嫌いに変わった。
母は微笑ましく私たちを見ているから、私のこの気持ちは誰にも言えない。母にも父にも、友達にさえ言えない。ずっとこのまま抱えて生きていくのかと思っていたところに、ここの喫茶店の存在を知った。
今日も家を出る時真美ちゃんに行先を聞かれた。答えたくなかったから、遠出してくると濁したら一緒に行くと言い始めて大変だった。
「ごめんね真美ちゃん、今日は一人で行くんだ」
「えぇー、なんでよ。もしかして彼氏?裕子のくせに彼氏できたの?」
「違うって、そんなんじゃないよ」
「怪しいなー、絶対一緒に行くから」
そう言ってずっと駄々をこねていた。見兼ねた父が真美ちゃんを引き留めてくれたけど、母は「一緒に行くくらい、いいじゃない」と言いたそうな顔をしていた。
違うの。違うんだよ。真美ちゃんは私と一緒にお出掛けを楽しみたいと思っているわけじゃない。私がどこに行って誰と会うのか、把握したいだけ。自分の手のひらの上に置いておかなければ気が済まないのだと、私は知っている。自分が姉だから、妹のことはすべて把握しておきたい。そしてきっと、彼氏ができたら邪魔をするだろうし、新しく友達ができたら奪おうとする。数か月一緒に暮らして性格が分かった。
妹は姉より下でないといけない。真美ちゃんはそう思っている。
両親に迷惑はかけたくない。私と真美ちゃんの問題だから、自分で解決しなければならない。できれば仲良くなりたいし、家族四人で幸せになりたい。
真美ちゃんにそれとなく伝えたことがあったが無駄だった。
妹から言われると、プライドが傷つくようで逆に怒られてしまった。
どうすればいいのだろう。どうすれば仲良くなれるのだろう。もう分からなくなった。




