沢田春奈
沢田春奈はいつもより早く足を動かしていた。
見知らぬ土地、頼りになるのは友人が描いた地図のみ。
何故スマートフォンで検索しても目当ての店が出てこないのか。疑問に思いながらも友人の地図を見ながら駆け足で喫茶店を目指していた。
何十年も前からあるような喫茶店を見て、本当にここで合っているのか不安になった。
喫茶店と書かれた店に今までは行ったことはない。カフェとはまた違う感じなのだろう。そう思い扉に手をかけ、中に入った。
外観より綺麗だった。
カウンターにいる店員がこちらを向いた。
思わず内心ガッツポーズをとった。何故なら、自分好みのイケメンだったからだ。
切れ長な目に綺麗な額。髭は見当たらず、妖艶な顔をしている。大人な男性だった。
大学にはこんな男性はいない。この喫茶店に通おうか。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
店員の前にある席を案内され、にやけてしまいそうになる顔をぐっと引き締める。
普通目の前の席を案内するだろうか。「お好きな席にどうぞ」と言って座らせるのが普通ではないのか。
もしかしてこの店員、自分に気があるのではないのか。
ありえる。何故なら、自分は学生で若い。若い女性と付き合いたいと思うのは、自然なことだ。
この喫茶店は古いし、周辺は住宅地だった。こんなところに店があっても、立ち寄るのは老人くらいだろう。
「ご注文をどうぞ」
鼻息を荒くして店員をちらちら見ていると、注文するよう言われた。
注文の内容は覚えていたが、貴方に会いに来たわけではないと少しでも強調したかったため、友人が書いてくれたメモを取り出して「ホットコーヒーを一つ。砂糖二つとスプーン不要で」と読み上げた。
「かしこまりました」
良い声をしている。
付き合うなら、こういう男性が良い。
三十代に見えるが、歳の差なんて関係ない。左手の薬指に指輪はなかった。
「コーヒーが出来上がるまで時間がございますので、お話でもいかがでしょう」
きた。
少し目を泳がせ、言いにくそうに口を開く。
これから話す内容を考えると、堂々と喋るのは印象がよくないと思った。
恥じらいのある女子大生。そんな印象を持ってもらいたかった。
「あの、大学での話なんですけど」
話始めると店員は、じっとこちらを見る。
整った顔の男性と目が合う。
胸の高鳴りが大きく、思わず目を何度も逸らしてしまう。
このままでは話に集中できない。
大学受験の際に教師に教えてもらった面接術である、「目を合わせたくない場合は口元を見ること」を思い出し、口元よりもう少し下にある首を見て話すことにした。




