黒岩由衣
住宅地にある喫茶店と聞いて、華美な外観でないことは察していたが、ここまでとは思わなかった。
黒岩由衣は一昔前を連想させる「やまと喫茶」の店前で佇み、綺麗とは言い難い扉を開けた。
カフェでお茶をしに来たわけではなく、相談をしに来ただけであるため見た目や内装はどうでもよかったが、それにしても「ダサい」を目指したような店だと思った。
由衣自身、カフェで働いているため一層そう思うのかもしれない。
店内に入ると心地の良いBGMが出迎え、カウンターには男性が一人、皿を拭いていた。店内に客は見当たらず、店員の「いらっしゃいませ」という声を聞き、迷わずカウンターに座った。
相談にのってくれるということは、きっとカウンター越しに立っているこの店員がそうなのだろう。
妖艶な顔立ちをしていると思った。女々しさはなく、なんというか、男性の魅力を詰め込んだ感じの印象だった。
「ご注文をどうぞ」
「ホットコーヒーに砂糖二つとスプーンをください」
「かしこまりました」
知り合いに教えてもらった合言葉を言い、これで相談して良いんだよねと思いながらもここからどうしていいか分からず店員の言葉を待つ。
「何か、お話があるようですね」
「は、はい!」
「コーヒーが出来上がるまで時間がございますので、お話を聞かせて頂ければと思います」
「あ、ありがとうございます」
近距離に綺麗な顔があると緊張する。
三十代半ばだろうか、品のある男性だ。既婚者だろうか。左手の薬指に光るものはなかった気がする。座っている位置からはよく見えない。
こんな彼氏が欲しいな。
「お客様、いかがされましたか」
「あ、いえ、なんでも」
なかなか話を切り出さない由衣に首を傾げると、変に思われたことに気付き慌てて話を始めた。
「その、大した話ではないんです。どうしようかなー、と迷っているだけで。知り合いから、ここに来たらなんでも相談にのってくれると聞いたので、じゃあちょっと、散歩ついでに行ってみようかなーと」
「ありがとうございます」
「だから、そんな大した話ではないんですけど」
「ふふ、コーヒーが出来上がるまで私には仕事がありませんし、折角ですからお聞きしたいですね」
遠慮がちな由衣が小動物に見えて、思わず店内の隅にいる猫を確認する。
「あ、はい。それじゃあ、その、小さな悩みなのですが」
つい最近の出来事を話し始めた。




