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佐藤安理沙

 静かな場所だと、佐藤安理沙は思った。

 住宅地に見えたが意外と小さな店が所々あり、空気も良い。


「ここ、か」


 雲一つない晴天。静かな場所でとても心落ち着く所に「やまと喫茶」という看板を掲げてポツンと茶色い店が立っていた。


 制服のポケットから、友人にもらった手書きの地図を取り出す。そこに書かれた文字と目の前にある看板の文字を交互に見る。

 どうやらここで間違いなさそうだ。


 カランと音を鳴らして喫茶店に入る。

 中はごく普通の喫茶店で特にこれといって特徴もない。どこにでもありそうだ。

 「やまと喫茶」なんていうダサい名前の割に、普通じゃん。と、上から目線で思った。


「いらっしゃいませ」


 店内に客は一人もいない。カウンターで店員と思われる男性が作業をしていた。

 安理沙は「こんにちは」と挨拶をし、どこに座ろうかと迷っていると、店員が一つの椅子を指して「どうぞ」と促した。

 男性の目の前に座ることになった安理沙は、椅子に座り驚いた。

 こんな場所にある喫茶店の店員にしては、整った顔立ちの男性だったからだ。オールバックの髪が見えたときは「ダサい」と一瞬思ってしまったが、意外と似合っていた。


「ご注文は?」

「ホットコーヒーで」

「ミルクと砂糖は?」

「….砂糖二つでスプーンは、要りません」

「かしこまりました」


 声もイイな。

 店に入ったときは「ない」と思っていた店員に今は「あり」だと思っている。

 自分の悪い所だと自覚しているが、しかし直ることはなかった。


「出来上がるまで少々時間がございます。私と雑談など、如何ですか?」


 目を細めて笑う店員に安理沙は唾をのんだ。


 あの話、本当だったんだ。


 「やまと喫茶に行くと色んな相談にのってくれて、自分の進む道が分かるんだよ」と友人が教えてくれたことがあった。その際「相談に乗ってくれる合図みたいなのがあってね、注文のときにホットコーヒーに砂糖二個とスプーンは不要ってことを伝えること。そうしたら相談に乗ってくれるよ」と。今回安理沙は相談したいこと、悩み事があったためその言葉を思い出し、地図まで書いてもらい、ここへやってきた。


 緊張で震える喉から声を出そうとする前に、音楽がかかった。

 クラシックだと思われる音楽が店内に響く。

 音のする方を見ると、灰色の猫がオーディオの傍に佇んでいた。置き物かと見間違う程で、しかし瞬きをしているため生き物だと分かる。

 店員はずっと安理沙の前にいたため音楽は猫が操作したに違いないと推測をたてた。


 聞き覚えのない曲だがどこか落ち着く。クラシックなどに興味はなかったがBGMとしては最高だと思った。

 ふと、緊張が緩んでいると自分でもわかった。

 

 いつも遊ぶ場所はゲームセンターか流行りのカフェ。大きなデパートで買い物をしたりSNSに投稿するための写真を撮りに友人と少し遠出をするだけ。

 今日、初めて一人でやってきた見知らぬ土地。こんな喫茶店なんて入ったことはなく、しかも客は自分のみ。目の前には綺麗な顔をした店員がこちらをじっと見つめている。緊張しないわけがなかった。

 

 もしかしてあの猫は、緊張をほぐしてくれたのかな。


 そんなわけないのに、笑いが出てくる。

 

「おや、どうなさいました?」


 亜利砂の様子が変わったのを見て、声をかけた。


「いえ、何でもないです。あの、実は悩み事があって」

「ほう、青春の悩みですか。失礼ですが、高校生でいらっしゃいますか?」

「あ、はい。高校一年です」

「それはそれは、学校生活はこれからであるというのに。私でよければ伺いますよ」

「ありがとうございます。悩んでいたのは中学のときからだったんですけど、高校になって一層深く悩むことになったというか…..」


 真新しい制服に身を包み、まだ幼さが残る顔。ブレザーよりもセーラー服が似合うだろうにと店員は思った。


「話すと長くなってしますんですけど.....」

「時間はたっぷりございます。お客様の時間が許す限り、お話くださいませ。閉店時間は午後五時でございます」

「は、はい」


 いつまででも話していいが五時になったら帰れよ、と暗に言われた気がして身を固くした。


「あぁ、いえ、そんなつもりでは。学生の方は門限があるのではと。話に夢中になり、閉店間際まで居てしまっては申し訳ありませんから」

「だ、大丈夫です。門限は七時なので」

「そうでしたか、失礼致しました」

「い、いえ....!!」


 取り敢えず安堵し、気を取り直して安理沙は話し始めた。


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