99、沈黙の王都
3日後、僕たちは旅の準備を整えて、王都アシリアに向かう旅に出た。
また雪道を進まなくてはいけないが、前回の経験を活かす事で、少しは雪道の過酷さが軽減された気がした。
十数日雪道を進み、とうとうアシリアの街が見えてきた。
「王都だけあって大きそうな街ですね。中心にあるお城もカッコいいなぁ」
と僕はテンションが上がった。
しかし、姫乃先輩は、
「王都には人いるかな。。。」
と不安そうな声を漏らした。
確かにその不安はある。
僕たちはアシリア王国に来て2つの村に行ったが、いまだにこの国の人に1人も会えていないのだ。
ちなみにコミト村で会った酔っ払いは、よくわからないのでカウントしていない。
「今度こそいるといいですね」
と僕は答えた。
僕たちはそのまま王都アシリアに向かって進み、街の門の前まで来た。
門には門番のような人は立っていない。
ベルンの街でも門番が立っていたのに、王都で門番がいないなんて事があるのだろうか。
それに門の先からは物音ひとつ聞こえてこなかった。
この場にはただ、風の音だけが響いている。
僕は嫌な予感がした。
ギーーー
試しに門の扉を押してみると、鍵はかかっておらず扉は開いた。
一歩街に入るとそこはベルン以上の大きな街だった。
聳え立つお城を中心に街が広がっている。
この世界に来て、間違いなく一番大きな街だ。
そして屋根などに積もった雪が、趣きを出していた。
ただ、、、
想像したとおり、道を歩く人は1人もいない。
こんな大きな街では想像できないほど、静かだった。
「静かですね」
「そうね」
門の前まで来た時にある程度想定はしていた。
しかし、実際に目の当たりにすると愕然とした。
ここまで来たのに柱の情報を全く得る事ができない。
王都がこの状況だとすると、他の街や村も同じなのではないだろうか。
そうなると、歩いて柱を探すしかないのか。
この広い国を?歩いて?雪道の中を?3人で?魔獣もいるのに?
僕は途方に暮れた。
ポンッ
と肩を叩かれて僕は我に返った。
「勇くん。考えるのは後にして、街の様子を見てまわろう」
と姫乃先輩は言った。
姫乃先輩も辛いはずだが、おくびにもださす気丈に振る舞っている。
僕は姫乃先輩を守れるくらいに強くなりたい。
僕は前を向いて、
「姫乃先輩!行きましょう」
と言った。
僕たちは街の中で人がいないか確認して回っている。
この街は大きな街なので、多数のお店があった。
未だに誰一人として会うことはできていないが、人がいた時は大層賑わっていたのだろう。
途中で食堂を見つけたので、いつものように食材を使わせてもらって食事を取る。
もちろんお代は置いておいた。
「やっぱり誰もいませんね」
「そうね。ある程度確認して駄目だったら、お城に行ってみようか」
と行動の確認をする。
「おぉ。久しぶりのお肉おいしいのよぉ」
と相変わらずリムはマイペースだ。
お腹が満たされたので、再度街の状況確認を進める。
しかし、一向に街の人を見つけることはできなかった。
「このまま街を確認しても仕方がなさそうね。お城の方に行ってみない?」
「そうですね。お城も期待は薄そうですけど」
「何か手掛かりがあるかもしれないから行ってみましょう」
そう言って僕たちは街の中心にあるお城を目指した。
城の目の前まで到着すると、改めて城の大きさが確認できた。
門は開いており入っていく事ができそうだ。
「入ってみよう」
と姫乃先輩は臆せず歩きだしたので、僕とリムも続いて歩きだした。
僕たちは城の中に入り進んでいく。
予想通り城には人がいる様子はなく、ひっそりとしている。
「やはり誰もいませんね」
「そうね。そうなるとどこに向かった方がいいかな」
「城ですからね。やはり国王の間みたいなところですかね?」
「それも行ってみる価値はあるよね。それに書物庫みたいな
ところがあれば、もしかしたら何かわかるかもしれない」
「まずは国王のいる場所に行ってから、書物庫を探しましょうか」
「わかりました。そうしましょう」
「その後は厨房を探すのよ」
とリムが締めた。
国王のいる場所はわかりやすかった。
大きな廊下を進んでいった先にそれらしき部屋があった。
目の前には今までとは比べ物にならないくらい豪華な装飾の付いた扉がある。
おそらくこの先が普段は王がいる場所なのだろう。
ギギギギギ
と僕は扉を開けた。
入り口から赤い絨毯が引かれており、その先には台座に繋がっている。おそらくはそこに国王が座っていたのだろう。
しかし、残念ながらこの部屋にも人の気配は無かった。
僕たちは部屋の中央まで進み、辺りを見回す。
壁には立派な鎧などの置物があり、灯りについている装飾品も高級そうな感じがした。
部屋の中は荒らされた痕跡はなく、ただひっそりとしていた。
「やはり誰もいませんね」
「そうね。残念だけれど、書物庫を探しましょうか」
と言ってこの部屋を後にしようとした時だった。
「ンフフフフ。もうこの国の人間は喰らい尽くしたかと思っていましたが、まだ残っていたのですね」
とどこからか声が聞こえた。
「勇くん!危ない!」
と言って姫乃先輩が僕に飛びついてきた。
その勢いで、僕は後方に飛ばされる。
その途端にもともと僕のいた場所に黒い大きな穴が出たかと思ったらいきなり閉じた。
「なっ」
「おやおや。よく今の攻撃が避けられましたね。気配は消していたはずなのですが」
と謎の声は言った。
「誰だ!出てこい!」
と僕が言うと、
「ンフフフ。仕方がないですね」
と謎の声は言うと、玉座の後ろから誰かが出てきた。
それは青白い顔をした男だった。
服装は平安時代などで貴族が着る束帯と言われているような服装をしている。
「お前は誰だ!?」
と僕が相手に聞くと、隣で姫乃先輩とリムが青い顔をしている。
特にリムの様子がおかしい。
「あわわわわわ。何でお前がここにいるのよ」
「ン?お嬢ちゃんどこかでお会いしましたか?」
と男はリムのことは記憶に無いようだ。
「勇。逃げるのよ」
とリムは震えた声で言う。
「リム。本当にどうした?あいつは誰なんだ?」
「あいつは封印されし古の魔神。三大妖魔のひとり安倍晴明なのよ」
三大妖魔。昔コクケツという魔獣と共に封印された魔神。
それに安倍晴明と言えば、日本で1番有名な陰陽師と言っても過言では無い。
それにコミト村で会った酔っ払いの言っていた「セーメイ」って言うのはもしかして「晴明」なのでは?
おいおい。ちゃんと正式な名前を伝えろよー。
「おやおや。本当にそこのお嬢ちゃんは某のことを知っているみたいですね」
「何でお前がここにいるのよ。封印されていたのよ」
「そうなのです。私は長い間、封印されていました。しかし、先日私たちを封印していた柱のひとつが消滅したのです。その際に封印から出てこられたのですよ」
安倍晴明はそう言った後に続けた。
「久方ぶりに外に出られたのですから。お腹が空いていましてね。手当たり次第に食事を取っていたというところです」
「じゃあこの国に人がいないのは。。。」
「えぇ。某が食べました」
「ンフフフ。先程のあなたへの攻撃ですが、あれに飲まれた先は私の胃袋に繋がっていましてねぇ。普通であれば気がついた時には私の胃袋の中という訳です。先程はそこの女性の力で回避したようですがね。何かの能力ですかね?」
「さぁ。言っている事がよくわからないわ」
と姫乃先輩は答えた。
「さすがにこれだけの食事を取ればある程度はお腹も膨れるものです。某は食後の休憩をしていたところで、あなた方が来たというわけです」
「これだけって。。。お前はいくつの街や村の人を食べたんだ!?」
「ンフフフ。そおですねぇ。五つ、、、いや六つでしたかねぇ」
「そんな。。。」
「こいつは人喰いと言われているのよ。三大妖魔は国喰い玉藻前、人喰い安倍晴明、酒飲み酒呑童子の三魔神なのよ。でもリムも実際に見た事があるのは安倍晴明だけなのよ。こいつに攻撃を仕掛けた国は尽く無人と化したのよ。だからこいつと戦っては駄目なのよ。絶対に逃げるのよ」
リムは鬼気迫る表情で、逃げる事の念を押した。




