97、コミト村
3日後になり僕たちは村を出発する。
お世話になった宿には少し多めの代金を受付に置いておいた。
まずはコミト村を目指す。
村を出るとコミト村の方角に街道のような道がある。
日頃から村同士の行き来があったのかもしれない。
しかし、街道は雪に埋もれていることもあり、注意しながら進まないとすぐに街道から外れてしまいそうだった。
僕たちは街道を見失わないように進んでいった。
「いい天気なのよ。少し寒いけど気持ちがいいのよ」
とリムが僕に肩車をされながら、上機嫌に言った。
一面銀世界になるくらいの寒さだ。
狩りをするにも獲物が見当たらない。
村の滞在時に保存食を用意するのも一苦労だった。
幸いにも街の近くに川があったので、魚を捕まえる事はできた。
今回の保存食は魚が中心だ。
幸いな事に雪は取り放題、使いたい放題なので、氷代わりに魚の保存に使用した。
旅は慣れてきたつもりだったが、雪国はまた勝手が違った。
歩く速さもかなり遅くなるし、肉や木の実もあまりとることができない。
それよりも1番は寒さだ。
日中は防寒具を着ているし、歩いているので何とか耐えることができるが、問題は夜だ。
寒さで熟睡ができないのだ。眠れても寒くて定期的に目が覚めてしまう。
それに雪の上に寝る訳にもいかないので、まずは雪をどけて焚き火と寝るスペースを確保しなくてはいけない。暗くなる前に準備を終わらせるために、どうしても早めに移動を切り上げないといけない。
焚き火も落ちている枝を使っても湿っているため、なかなか火がつかない。火の魔法を姫乃先輩が使って、強引に火を絶やさないでいた。
もともと1週間程度でコミト村に着けるかと思っていたが、1週間経っても、3分の1程度しか進むことができなかった。
僕たちは今日も雪道を進む。
日中ではあるが、慣れない雪道の疲れと睡眠不足で眠気と闘いながら進んだ。
「よし。少し早いけど今日はここまでにしよう」
と姫乃先輩が切り出した。
「えっ?でもまだ日は落ちていないですよ」
「うん。でも勇くんも私も疲れがピークにきているでしょ。それに試したいことがあるの」
と姫乃先輩は言った。姫乃先輩は僕が限界に近い事に気づいていたようだ。
「試したいことですか?」
「うん。かまくらを作ってみようよ」
そう言うと姫乃先輩は指から糸を出して、かまくらの形を作っていく。
「スキルだとそのうちに消えちゃうけど、これに雪を被せて固めれば簡単に作れそうじゃない?」
「なるほど!やってみましょう」
姫乃先輩のアイデアと心遣いに感謝して、糸で形取ったかまくらに雪をコーティングしていった。
思いの外作業は早く終わり、作った鎌倉の中で焚き火をする。
最初は煙が籠って死にそうになったが、煙の抜け道のために穴を開けるとなんとかなった。
「あったかぁぁいのよぉ」
とかまくらの中で寛ぐリムはご満悦だ。
「あったかいですね!姫乃先輩ありがとうございます!」
僕もかまくらの暖かさを感じてほっとした。
その日の夜はかまくらの中で熟睡することができた。
翌朝、再びコミト村に向けて出発する。
「勇くん。これ使ってみて」
と姫乃先輩が糸で作った草履のような物を渡してくれた。
普通の草履とは違い、足裏の面積が広い。
「昔にテレビで見たことがあるんだけど、靴底の広い草履だと雪にあまり沈まなくなるから、歩くのが楽になるみたい。試してみてくれるかな」
僕は姫乃先輩がくれた草履を履いている靴に付けた。
歩いてみると確かに沈む深さが減り、歩くのが以前より楽になった。
「姫乃先輩!これすごいです!」
僕が絶賛すると、
「そう。よかったぁ」
と姫乃先輩が笑顔で答えてくれた。
「天使だ。。。」
その姫乃先輩の笑顔を見て、ポッと僕の顔の温度が急激に上昇した。
僕たちはミント村を目覚まして歩みを進めて行った。
数日後、ようやく村が見えてきた。
距離としては、そう長い訳でないだろうが、今回の旅は本当に疲れた。
「早く美味しい物を食べて、宿でやすみたいですねー」
「そうね。お肉が食べたいわ」
と僕も姫乃先輩もテンションが上がる。
進む速度が自然に上がり、すぐに村の入口の前に着いた。
そのまま足を止めずに村に入る。
「これって。。。」
「そうね。。。」
村に入っても歩いている人は全くおらず、村はひっそりとしている。
「この村も誰もいない?」
「断定はできないけど、そんな雰囲気よね。。。」
「むむむ。この国はなんなのよ。早く美味しいご飯が食べたいのよ」
みんなそれぞれに不安を吐き出す。
「ここにいても仕方がないから、とりあえず人がいるか確認しましょう」
と姫乃先輩が言って、僕たちは前の村と同様に手当たり次第ノックをした。
しかし、ノックの返答は全くなかった。
「誰もいないね」
「そうですね。。。」
「前の村だけではないとなると、国全体で何かしらの問題が発生しているのかもしれないわね」
と僕と姫乃先輩は考察を始めようとすると、
「そんな事はどうでもいいのよ。リムはお腹が空いたのよ」
とリムが我慢できずにぐずり始めた。
「そうね。リムちゃんの言うとおり、まずは食堂をさがして食事にしましょう」
「そうですね。そろそろ魚にも飽きました」
と言って僕たちは食堂を探した。
食堂はすぐに見つかり、食堂のドアを開ける。
食堂の中はいくつものテーブルが並んでいるが、やはり誰もいない。
ん?誰もいないと思っていたが、隅のテーブルに人影が見えた。
隅のテーブルには酒瓶が積み上がっていて、はっきりとは見えなかったが、確かに影が動くのを見た気がした。
「誰かいるの?」
と咄嗟に声に出すと、
「なんや?騒々しいのう」
と酒瓶の後ろから声がした。
僕たちは慌てて酒瓶の後ろを確認した。
すると、20代くらいの女性が顔を真っ赤にして酒を飲んでいた。
その女性は青色の髪に綺麗な顔立ちをしていた。
服装は至る所で肌を露出させた薄着だ。
こんな雪国で寒くないのか?酒を飲んでいるから麻痺しているのか?と疑問を持つくらいだ。
「あのぉー」
いろいろと聞きたいことがあるので声をかけた時、その女性は器に酒をつごうとしたが、すでに酒瓶は空になっていて、2、3滴の酒が出てきただけだった。
「なぁーんやらぁ。もうないんかぁ。でも酒はまだまだあるんらぁー」
と言いながら女性は立ちあがろうとしたが、酔いからかバランスを崩した。
ガッシャーーーン!
バランスを崩した女性は目の前に積み上がった酒瓶に突っ込んで、酒瓶が豪快に薙ぎ倒されて割れた。
「だっ大丈夫ですか?」
「アハハ。騒々しいのは我の方やなぁ」
と床に尻餅を着きながら女性は笑っている。
「よいしょ」
と言いながら女性は立ち上がり、フラフラした足取りでキッチンに入っていった。
少し経つと酒瓶を持ってキッチンから出てくる女性。
「ここは天国やなぁ。酒が山ほどある」
とフラフラした足取りだが、とても上機嫌だ。
そのまま元のテーブルに戻ると、僕たちのことは気にもかけずまた器に酒を注いで飲み始めた。
「あのお。。。」
僕はもう一度声をかけた。
「何やまだいたんか。我は酒を飲んどるんや。お前らに用はない。いけいけ」
と言って、手で追い払う仕草をする。
「仕方がないわ。私たちは食事にしましょう」
と姫乃先輩が言ってキッチンに入っていった。
僕たちはまずは腹ごしらえを優先することにして、姫乃先輩に続いてキッチンに向かった。




