95、鉱山の洞窟
僕たちはアリシアに続いていると言われる洞窟に入った。
洞窟の中は月刀が封印されていた洞窟とはまた違った雰囲気があった。
洞窟にも色々あるようだ。
鉱山なので、職人用の街灯みたいなものがついていて洞窟内も明るい。
明るさがあるだけで洞窟を進むのも、非常に楽だし、魔獣も出てこないこともありがたかった。
ある程度まで進むと鉱山の職人が使う道と外れて、急に真っ暗になった。
姫乃先輩が魔法で灯りを灯してくれたので、その灯りを頼りに進んだ。
途中で熊のような魔獣にも襲われたが、僕たちの敵ではなかった。
「魔獣はどうやって産まれてくるのかな?」
とリムに聞いてみると、
「魔獣は魔力が溜まって産み出されるのよ。だから魔力が溜まりやすいところに産まれやすいのよ。洞窟の中は魔力が溜まりやすいから、頻繁に魔獣が産まれやすいのよ」
と答えてくれてから、
「場所によって発生する魔力の質が異なるから、産まれる魔獣も変わってくるのよ」
と付け加えてくれた。
なるほど。
だから魔獣の生息地が異なってくるのか。
「だとすると、少し前に倒されたという強い魔獣も新しく産まれている可能性があるの?」
「その可能性は低いと思うのよ。さっき場所によって魔力の質が異なるといったけど、同じ洞窟内ではそんなに変わらないと思うのよ。だからその強い魔獣とやらは人為的に配置された可能性が高いのよ。新しく配置される可能性はあるけど、産まれる可能性は低いのよ。まぁそこに特別な魔力を発生させる何かがあれば別かもしれないけれど。。。」
「特別な魔力を発生させる何かか」
そうこうしているうちに開けた場所にでた。
リクたちに教えてもらったように、いきなり入らずに中の様子を確認する。
姫乃先輩が糸を這わせて中を調べると、多数の四足歩行の魔獣がいるようだ。大きさはそれほどでもないみたいだが数は多い。
「私が攻撃を仕掛けるから、撃ち漏らした敵を勇くんにお願いできるかな?」
と姫乃先輩は言った。
「わかりました。任せてください」
姫乃先輩は右手を斜め上に向けて伸ばして魔法を唱える。
「ライトボール」
姫乃先輩の手のひらからバスケットボールくらいの光の玉が生まれて、放たれる。
放たれた光の玉は、ある程度の高さで停止して、中を照らした。
急に辺りが明るくなったため、敵たちはササッと岩陰に隠れた。
「ネズミ?」
隠れるまでの一瞬だったが、敵を確認することができた。
膝丈くらいまである巨大なネズミだった。
ネズミはたくさんの菌を持っていると聞いたことがある。
傷ひとつで致命的になる可能性もある。
「うへぇ」
何よりも外見が受付難い。
元の地球でもGに並ぶくらいの苦手さだ。
「勇くん行くよ」
と姫乃先輩はネズミに苦手意識を持っていない素振りを見せる。
でも、姫乃先輩は無理をして気丈に振る舞おうとする人だ。
「ネズミ。大丈夫ですか?」
と聞くと、
「うん。なんとか」
と顔を引き攣らせながら言った。
やはり苦手なようだ。それでも気丈に振る舞う姫乃先輩はすごい。
「隠れちゃいましたけど敵の位置わかるんですか」
「うん。さっき中の様子を確認するために出した糸をそのままにしているから、ある程度は把握できてるわ。ただ、全てではないと思うから撃ち漏らした敵はお願いね」
「わかりました。僕は中に入って攻撃を仕掛けますので、姫乃先輩はここから攻撃をお願いします」
ここからであればネズミと接近することも少ないだろう。
少しでも姫乃先輩の負担が減ればと思い僕は提案した。
「わかった。ありがとう」
と姫乃先輩も僕の意図を察したようだった。
「じゃあいくよ!マルチ!」
と発声すると、姫乃先輩はの両手から多数の糸が放たれた。
グザッ
グザッ
グザッ
姫乃先輩が放った糸は、次々とネズミを貫いていく。
しかし、ネズミは素早く姫乃先輩の攻撃をかわす者も多い。
「月刀」
攻撃をかわしたネズミに対して、僕は月刀を振う。
青白い光を纏った月刀は、ネズミを両断する。
ネズミは数こそ多いが、姫乃先輩の先制攻撃で怯んでおり、敵ではなかった。
ネズミを一掃し終えた僕たちにリムは
「まぁ。なかなかの連携だったのよ」
と偉そうにコメントした。
戦闘中ずっと姫乃先輩の横でお座りを決め込んでいた奴が偉そうにとは思うものの、ツンツンしたリムもかわいいから許してあげよう。
ネズミとの戦闘が終了して、この空間にはネズミの死骸でいっぱいになっている。
さすがに長居はしたくないので、僕たちは早々に先に進むことにした。
それほど激しい戦闘ではなかったものの、洞窟の中を進むのはいつも以上に体力を使う。
僕たちは休憩できる場所を探しながら進んだ。
しばらく進むと、また開けた場所がある。
今回も姫乃先輩に中の様子を確認してもらうと、
「中には何もいなそうよ。飛んでいたりたらわからないけど」
と言った。
「じゃあ注意しながら入りましょうか」
と言うと、姫乃先輩は頷いた中にライトボールを放った。
辺りを光が照らし、中の様子が見えるようになったが、姫乃先輩の言うとおり魔獣はいなかった。
ただ、床などには焦げた後や崩れた壁の残骸があり、以前に激しい
戦いがあった事を物語っていた。
「前に通った人はここで戦いがあったのですかね」
「そうみたいだね。私たちは運がいいってことかな」
と言ったあと、ここで休憩を取ることにした。
腰を下ろして、持ってきていた干し肉を食べた。
「洞窟はやっぱり神経を使いますね」
「そうよね。移動中は気は抜けないけど、今はリラックスしようよ。ずっと気を張っていると疲れちゃうよ」
「そうなのよ。男ならもっとどんと構えているのよ」
と僕の投げかけに2人が答える。
洞窟はあとどれくらいの距離を進む必要があるのだろうか。
強い魔獣と遭遇しないですむのだろうか。
不安は沢山あったが、一息ついて姫乃先輩やリムと話をしていると、その不安も和らいでいく。
休憩を終えて僕たちは、再び洞窟を進んだ。
途中で何度か魔獣と遭遇したが、脅威となるような魔獣との遭遇は無かった。
しばらく進むと、また開けた場所がある。
そこは中を見渡せるくらいの明るさがある場所だった。
今までとは段違いに広い空間で、奥の方に大きな階段がある。
壁や床には至る所に破壊の跡があり、相当激しい戦いがあったのだろう。
敵の気配がない事を確認しながら僕たちは中に入った。
壁に穴が空いていて、今にも魔獣が出てきそうな雰囲気であるが、実際はは何も起きず、僕たちは階段に向かった。
長く大きな階段が目の前にある。
かなりの長さがあるようで、登った先は見ることができなかった。
僕たち3人は注意を払いながらしっかりと登っていく。。。
違った。1名は僕に肩車をせがみ、僕の方の上でご満悦だ。
長い階段を登り終えて目の前には大きな扉がある。
「これを開けると外に出られるのですかね?」
「どうかしら?でも出てみるしかないんじゃないかな」
姫乃先輩の言うとおりなので、僕は扉を開ける事にした。
念の為に、姫乃先輩が構えてくれている。
ガガガガガガ
と扉を開けると、そこは一面の銀世界が広がっていた。




