90、月の大精霊
「何だこの威圧感は。。。」
ウラヌスから発せられる威圧感にすぐにでも逃げ出したくなる。
でもアイネたちや毒のこともあるし逃げ出すわけにはいかない。
それに今のウラヌスからは逃げ出すことも難しそうだ。
「スモークランス」
ウラヌスが発声すると、ウラヌスの体から煙が発生して、空中で槍の形に変形した。
どんどん槍は増えていき、100本以上の槍が宙に浮いている。
「なっ。こんな数防ぎきれないよ」
と僕が言うと同時にウラヌスが右手を振り下ろした。
100本以上の槍が一斉に放たれる。
一斉に放たれた槍に僕たちには逃げ場がない。
「全て叩き落とすしかない」
と僕は覚悟を決めた時だった。
「月魔法ムーンウォール」
リムが月魔法を唱えて、黄色い壁を作り出す。
ガンッ
ガンッ
ガンッ
と黄色い壁がスモークランスを防ぐ。
「ほぅ。さすがは月の精霊ですね」
「フン。この程度当然なのよ」
次にウラヌスは右手を横に動かした。
すると直線上に飛んできていた槍の軌道が曲線を描き、ムーンウォールを回り込んでこちらに向かってくる。
「ふふふ。私は槍を飛ばすだけではなく、操れるのですよ」
とウラヌスは余裕の表情で言った。
キンッ
キンッ
キンッ
と回り込んできた槍を僕は刀で叩き落とす。
「このくらいの数なら何とかなる」
と飛んでくる槍を全て叩き落としてから僕は言った。
「勇くん!」
と姫乃先輩は叫ぶと、僕とリムを糸で縛り放り投げた。
「うわぁぁあ」
「きゃぁぁぁなのよー」
と僕たちは訳もわからずに投げられて、悲鳴を上げながら飛ばされる。
その直後、先程僕が叩き落とした槍が動き出して、もともと僕たちがいたところを貫いていく。
そのままそこにいたら僕たちは串刺しになっていた。
僕とリムは地面に着地してから、姫乃先輩にお礼を言った。
「ありがとうございます」
「うん。油断は禁物よ」
と言う姫乃先輩は、青い顔をして悲壮感が漂っている。
「姫乃さんはなかなかいい勘をしていますねぇ」
とウラヌスは言いながら、右手を上に上げる。
すると地面に落ちた槍が再び起動して、宙に浮かび上がった。
「次行きますよ」
と言うとウラヌスは右手を振り下ろした。
再び槍が僕たちに向かって放たれる。
「月魔法 ライトニング」
とリムは魔法を唱える。
リムの掌から黄色い光が放たれた。
黄色い光が槍を飲み込む。
光に飲み込まれた槍は消滅していった。
「そうか。叩き落とすんじゃなくて、切り落とせばいいのか」
と僕は言って、飛んでくる槍を切り落とした。
真っ二つに切られた槍は、
ボンッ
と音を立てて消滅する。
「これならいける」
と言って、僕は槍を避けながら、切り落として少しずつ槍の本数を減らしていく。
「火球」
と姫乃先輩は火の魔法で槍を消滅させている。
糸のスキルとこの槍の攻撃は相性が悪いようだ。
しかし、姫乃先輩は魔法もかなり練度が上がっている。
槍をかわしながら、火球を放ち確実に数を減らしていった。
「うんうん。あなたたちは本当に素晴らしいですね。私たちの組織に迎え入れたいくらいですね」
とウラヌスは感心しながら僕たちの動きを見ている。
「しかし、まだまだ私には及びません」
と言うとウラヌスは右手を横に振った。
一本の槍が僕に向かってくる。
一本なら問題ないと思い刀で切り落とそうとする。
刀が槍に触れる直前、槍が2本に分かれた。
僕の刀は空を斬り、2本の槍は僕に突き刺さる。
「ぐはっ」
僕の右肩と左腕に槍が突き刺さり、その衝撃で後ろに飛ばされた。
「勇くん!」
「勇ぅ」
と2人は僕を心配して声をかける
僕に突き刺さった槍はロープのような物に形状を変えて、僕を縛り上げた。
「これで刀は振れないでしょう」
とウラヌスは言うと、さらに右手を横に振った。
すると、姫乃先輩に向かっていた2本がロープのように形状を変える。
僕に気を取られていた姫乃先輩は反応が少し遅れた。
「きゃああ」
2本のロープは姫乃先輩を縛りつけて、姫乃先輩は身動きが取れない。
「あなたも少し大人しくしていてください」
とウラヌスは言うと、リムの方を向いて、
「さて、あなたには消えてもらいますよ」
と言った。
「リムは月の大精霊なのよ。そう簡単にはやらせてあげないのよ」
とリムが言うと、
「ええ。楽しみにしていますので、あまり簡単にやられないでくださいね」
とウラヌスは言った。
リムとウラヌスが向かい合う。
最初に仕掛けたのはリムだった。
「月魔法 ライトニング」
とリムは黄色の光線を放つ。
リムの放ったライトニングは一直線にウラヌスに向かって伸びていく。
そして、ウラヌスに命中した瞬間、またしてもウラヌスは煙となって消えた。
「すでに移動済みですよ」
とリムの背後からウラヌスの声が聞こえた。
ハッとリムは気付いて振り返った時には、すでにウラヌスはいつの間にか手に持っていた煙で作った剣を振り下ろしていた。
「甘いのよ」
とリムは言うと、
「月魔法 月食」
と魔法を唱えた。
途端にリムの体が真っ黒く変色する。
キン!
とウラヌスの振り下ろした剣をリムは生身で弾き返した。
ウラヌスは後ろに飛んで距離を取る。
「硬化の魔法ですか。厄介ですね」
「月魔法 ライトニング」
と間髪入れずにリムは魔法を放つ。
しかし、ウラヌスはジャンプして魔法をかわした。
リムはそのままライトニングの起動を上に向ける。
「スモークウォール」
ウラヌスは自分の前に煙を発生させて、壁を作りライトニングを防ぐが、衝撃を空中で殺すことはできず、後方に吹き飛ばされた。
スタッ
しかし、ウラヌスは軽い身のこなしで空中で体勢を立て直し地面に着地する。
「月魔法 クレセントムーン」
とリムはウラヌスの着地を読んでいたかのように次の魔法を放つ。
三日月の形をした多数の斬撃が、ウラヌスを目掛けて飛んでいく。
「スモークウォーリア」
ウラヌスが発声すると、ウラヌスの前に2体の煙でできた戦士が現れた。
2体の戦士は飛んでくる斬撃を切り落とす。
今まで出していたウラヌスの偽物とは段違いに高性能な戦士だ。
2体の煙戦士はクレセントムーンを全て切り落とすと、リムに向かって突進した。
「月魔法 インビシブル」
リムは魔法を唱えると、透明になり目では見えなくなった。
煙戦士はリムを見失い立ちすくむ。
戸惑う煙戦士の横からリムは姿を現して、直線上の2体に向けて魔法を放った。
「月魔法 ライトニング」
ゴォォォォ
黄色の光線がリムの手元から発せられ、直線上の煙戦士2体を捉える。
煙戦士はライトニングの威力に耐えきれず、煙となって雲散した。
「なっ」
今まで余裕の表情を崩すことが無かったウラヌスだが、リムの圧倒的な力に一歩後退りをする。
「すごい!」
リムが強いことはわかっていたが、ここまで強いとは思っていなかった。
「お遊びはここまでなのよ」
とリムはウラヌスの方を見て言った。




