84、青鰐④
「どうだ?」
とリクは何とか立ち上がりながら聞いてくるが、まだ煙で視界が悪く確認できない。
リクはビッグヴァンを放ったため、立っているのもやっとの状態だ。
青鰐がこれで倒せていないとなると、リクを守りながらの戦闘になるだろう。
僕たちは警戒しながら、煙がはれるのを待つ。
徐々に煙が晴れてきて、薄っすらだが様子が見えるようになってきた。
今のところ鰐の存在は確認していない。
このまま消滅していてくれ。と僕は祈りながら鰐を探した。
煙が晴れて全体が見渡せるようになった。
鰐はいない。
「勝った、、、、のか?」
と僕は言った。
「周りに鰐がいないか確認してくれ!」
リクが指示をして、僕たちは辺りを捜索した。
「こっちには鰐はいないわ」
とマキが言った。
「こっちも見当たらないのよ」
とリムが言う。
「大丈夫。こっちにもいないよ」
と姫乃先輩も言った。
僕も捜索したが、鰐を見ることは無かった。
「こっちもいないです」
僕はみんなに言う。
もう一度リクのところに集まって、みんなで顔を見合わせた。
「終わったかな」
とマキが言うと、
「ああ。そうみたいだな」
とリクは言った。
「よっしゃー!」
と僕はガッツポーズをした。
「勇。お前たちの協力のおかげだ。俺とマキだけではどうにもならなかった。ありがとよ」
とリクは言った。
「リムも活躍したのよ」
とリムは頬を膨らませながら言った。
「あぁ。リムもありがとうな」
とリクは言った。
「リクはこれからどうするの?」
と僕が聞くと、
「目的は達成できたからな。まずは依頼主に報告だな。その後は、、、その時考えるわ」
「じゃあここで、、、」
お別れだね。と言おうとした時だった。
「勇くん!危ない!」
と言いながら、姫乃先輩が僕に飛びついてきた。
その勢いで僕は後方に倒れ込む。
その瞬間、
バチン!
と鰐の口が地面から現れて、もともと僕がいた空間に噛みついた。
「えっ」
辺りを見回すと、続々と鰐が地面から出てくる。
「倒したんじゃないのか?」
と僕が戸惑っていると、
「みんな!逃げるよ」
と姫乃先輩は叫んで僕たちは走り出した。
鰐は僕たちを追ってくる。
僕は後ろを振り返る。
すると、リクはさっきの攻撃で力を使い果たしているからか、足がもつれて片膝を付いた。
あの攻撃で倒すことができていないとなると、攻略の糸口が見えない。しかも、リクは力を使い果たしている。
リクを守りながら、青鰐を倒すことができるのか?
かなり厳しいだろう。
考え事をしていると、リクの後ろから鰐が迫る。
「リク!!」
と僕が叫ぶと、
「勇!逃げろ!」
とリクは言った。
鰐がリクの真後ろに来て、大きな口を開ける。
「リク!避けて!」
とマキが叫ぶ。
しかし、リクには避ける力は残っていないようで、動くことができない。
「リクーーー!」
と叫ぶマキ。
「飛神」
と僕はスキルを発動させた。
一瞬のうちにリクを噛み砕こうとしている鰐を刀で切る。
鰐はそのまま真っ二つに両断された。
「勇、、、」
リクは驚いた顔で僕を見上げる。
「リク逃げるぞ」
と言うと、僕はリクを肩に担いだ。
後ろからは多数の鰐が迫ってきている。
僕はリクを担いだまま、
「飛神」
とスキルを発動させた。
一瞬にして他のみんなのところまで移動したが、人を担ぎながらの飛神は初めてで、バランスを崩して転がった。
鰐たちは僕たちとの距離を詰めてくる。
マキと姫乃先輩が魔法で対抗しているが、消耗が激しい。
「このままじゃジリ貧だ。何とかしないと」
と僕は言ってから、
「リム。何か手はないかな?」
とリムに聞いた。
「さすがのリムにもアイツらを根絶やしにする方法は持ち合わせていないのよ」
とリムは言った。
「根絶やしって、、、」
と僕は苦笑いをしながら言うと、
「でも、この場から全員で逃れる方法はあるのよ」
とリムは言った。
「!?」
僕とリクはその言葉を聞いてリムの顔を見る。
「本当なのよ。リムの魔法で離れた所と空間を繋げる事ができるのよ」
とリムが言った。
「相手の本質もわからないまま、こっちの消耗は激しい。リク、一度撤退しよう」
と僕はリクに言った。
リクは少し考えてから、
「そうだな。このまま戦っても確実に負ける。悔しいがそれしかないか」
と言った。
「リム。どれくらいで準備できる?」
と聞くと、
「この程度の魔法はすぐにできるのよ」
と言った。
「わかった。じゃあ準備を頼むよ」
とリムにお願いする。
「仕方がないのよ。やってやるのよ」
とリムが言うと、
「月魔法コネクト」
と魔法を唱えた。
すると縦長の長方形の形で空間の切れ目ができる。
「ここを潜れば全く違う場所に出れるのよ」
とリムは言った。
「リク!先に行ってくれ」
と僕はリクに指示をする。
「ああ。悪いな」
と言いながらリクは空間の切れ目に入って行った。
「リムも先に行ってくれ。全員が通ったらすぐにこれを閉じることはできるか?」
とリムに言うと。
「すぐに閉じるくらい簡単なのよ。早くくるのよ」
と言って切れ目に入って行った。
僕はマキと姫乃先輩のところに行って、切れ目に入るように指示をする。
2人ともすぐに理解をして、走り出した。
僕は一人残りしんがりを務める。
鰐の数は多くても攻撃は割と単調だ。
短時間であれは一人でも防ぐことはできる。
チラッと後ろを見ると2人が切れ目に入って行ったのが見えた。
「よし。あとは僕だけだな」
と僕は鰐の攻撃の隙を見て、飛神を発動する。
「飛神」
一瞬にして切れ目を通過し、気づくと周りは別の場所になっていた。
「リム閉じてくれ」
と僕がいうと、
「わかったのよ」
と言って、リムが何かを念じると直ぐに切れ目は閉じていった。
「ふぅなのよ」
と言いながら、かいてもない汗を拭う素振りをするリム。
「とりあえず助かったよ。リムありがとう」
と僕は力が抜けて、トンッと地面に尻餅をつきながら、お礼を言った。
「何とか逃げ出せたね」
と姫乃先輩が言うと、
「完敗だな。まさかあれでも倒せないとはな」
とリクは言った。
「全部本体のパターンじゃないってことかしら?」
とマキが言うと、
「それなのだけれど」
と言った後に、姫乃先輩は説明した。
「たぶん状況から行くと、全部本体で間違いはないと思うの」
「リクさんの攻撃で一度見える鰐を倒したあとは、地面の下からでてきたよね」
「あっ」
僕もようやく姫乃先輩の言いたい事がわかった。
「全部本体だけど、一部が地中にいたということ?地上にいた鰐はリクの攻撃で全滅したけど、地中にも鰐がいて土をエネルギーに変えて数を増やし襲ってきたって事かな」
と僕は言った。
「うん。その可能性が高いと思うの」
と姫乃先輩は言った。
「なるほどな。その仮説を元にリベンジを図るしかないか」
とリクは言った。
しかし、地中も含めた全部の鰐を一掃することなんてできるのだろうか。今の僕には良い案は思い浮かばなかった。
「まぁ何にせよ、お前たちとはここでお別れだな。最後にはとんでもないことになっちまったが、本当にありがとよ」
と続けた。
「ルーと勇くんもまた会おうね。それとリムちゃんもね」
とマキは言った。
「「はい。本当にお世話になりました」」
僕たちは本来の目的である北の柱に向けて歩き出した。
リクとマキが後ろで手を振ってくれていた。




