82、青鰐②
僕は襲いかかってくる鰐に対して、後退して距離を取った。
鰐だけに通常の動きはそれほど速くはない。
しかし、数が多い。
すでに目の前には3体の鰐が向かってきている。
「もう少し惹きつけて攻撃だ」
と自分に言い聞かせる。
焦る気持ちを抑えつけて、鰐が自分の間合いに入ってくるのを待つ。
ジリジリと3体の鰐が向かってくる。
もう少しで僕の攻撃範囲だ。
僕は刀を握り直した。
その時、僕の攻撃範囲に入る直前で鰐がジャンプして噛みつきにかかってきた。
しかし、僕はそうくる事も、ある程度予測はしていた。
近くまでのそのそと歩いてきてくれるほど甘くはないだろうと。
僕は間一髪で噛みつきをかわすと同時に、鰐の首目掛けて刀を振るった。
ブシャァァァァア
僕の刀が鰐の首を落とし、首の無くなった体から血が噴き出す。
「よし!」
と僕は次の鰐に備える。
1体は倒したものの、噛み付いてくる瞬間の速さはかなりのものであった。
複数で攻められるときついなと思い、先に攻撃を仕掛ける。
ズバッ!
ズバッ!
と向かってくる2体を両断した。
「こいつら数は多く、攻撃力は高そうだけど、その他は大したことがない。行ける!」
と言って、次の目標を定めて斬り上げた。
青白い光を纏う月刀は皮膚の強度をものともせず鰐を両断する。
とりあえず、近くにいた鰐は倒すことができた。
周りを見渡すとみんな善戦しているようだ。
姫乃先輩は炎の魔法を放ち、鰐を無力化している。
リムも月魔法なのか三日月型の斬撃を飛ばして、鰐を両断していた。
リクとマキは心配するまでもなく、次々と鰐を無力化している。
このくらいの大きさの鰐であれば、リクの剣に触れた時に発動する爆発で致命傷のようだ。
マキも得意の針で鰐を串刺しにしていた。
多数いた鰐も大分数が減ってきた。
「よし!このまま押し切る」
と言って次の目標を定めようとしている時、最初に首を切った鰐の頭と胴体の形が歪んだ。
その歪みはどんどん大きくなり、鰐の頭と胴体はそれぞれの大きさの球形に姿を変えた。
するとその球形はまた歪み出して、今度は鰐の形に変わる。
頭分の大きさの鰐と胴体分の大きさの鰐で2体の鰐が出来上がった。
「なっ!?」
僕が絶句していると、他の倒した鰐たちにも同様に球形に変わったのちに鰐の姿に変わり始める。
リクが爆発で倒した鰐は同じ大きさの鰐が1体だが、僕が両断した鰐は大きさは小さくなるものの2体に増える。
「こいつ何なのよ!」
とリムの声が聞こえる。
試しに元々頭だった小柄の鰐を両断してみた。
すると、再びそれぞれの大きさの鰐ができあがる。
「やっぱりだめか」
斬っても意味があるのかわからない。
それどころか分裂してさらに対応し難い状況に落ち入る可能性もある。
だが、鰐たちは次々と向かってくるため、攻撃をしないわけにも行かなかった。
僕は数が増えないように、両断しないように無力化する。
「これじゃあキリがない!一旦集まって作戦を練ろう」
とリクが叫んだ。
僕たちは一ヶ所にまとまり、円形に並んだ。
それぞれが正面の敵に応戦をする形だ。
向かってくる鰐を退けながら、対応策を練る。
「1体1体は大したことないが、このままじゃあジリ貧だ。何か対抗策はあるか?」
とリクが投げかける。
「アニメとかでこういう敵は大体2パターンだよね。ひとつは本体がどこかにいるパターン。もうひとつは全部が本体で一気に殲滅させないといけないパターン」
と僕が答えると、
「なるほどまずは敵の本質を見極めるか」
とリクが言うと、
「でもこれだけの敵を一気に殲滅できるの?それに斬ったりしても倒せないみたいだけど」
と姫乃先輩が言うと、
「それについては、俺に策がある。ただ使用すると俺はスッカラカンで使い物にならなくなるけどな。それに今までの倒し方では復活してしまう可能性が高い。ただ、粉微塵にしても復活できるかな?」
とリクが答える。
「全部が本体で一気に殲滅パターンであることが確認できれば、あとは俺に任せてくれ」
とリクは続けて言った。
「わかったよ」
僕はリクに向かって頷く。
「だがどうやって確認するんだ?」
とリクが鰐を薙ぎ払いながら聞いてくる。
「本体がどこかにいるパターンだと、本体は安全な場所で見守りながら分身に攻撃してさせるかな。あとは、本体が攻撃されそうになると分身が守るとかかな。これもアニメを参考にしているけどね。。。」
と僕は返答する。
「なるほどね。敵の動きを見て判断するのね。やってみる価値はありそうね」
とマキは答える。
「じゃあ分散して、それぞれで確認していきましょう」
と姫乃先輩が言うと、
「よし。他にも気づいた事があったら教えてくれ」
とリクが言って、僕たちは一度散会した。
僕は鰐たちを掻き分けて、奥の方にいる鰐を目指す。
僕が奥の方にいる鰐に近づいて行っても、一向に他の鰐が守ろうとする気配はない。
僕はそのまま奥の鰐を斬り倒した。
その後に周りの様子を伺うも変化はなく、他の鰐たちは僕たち目掛けて攻撃を仕掛けてくる。
鰐の攻撃を捌きながら、次のターゲットを定める。
そして、ターゲット目掛けて突進するが、やはり周りの鰐たちがターゲットを庇う素振りは見られなかった。
他の人たちも同じような方法を試しているようだ。
数度同じことを繰り返した後に、リクから集合の合図があった。
僕たちは再び集まって、立て続けに向かってくる鰐の攻撃を凌ぎながら、状況の確認を行った。
「本体の可能性がありそうな鰐を攻撃してみたんだけど、その鰐を守ろうとする動きは特に無かったよ。その鰐を倒しても特に変化は無かったかな」
と僕が言うと、他のみんなも同意見だった。
「だとすると全部が本体パターンの可能性が高いな」
とリクが言った。
「ひとつ気づいた事があるの」
と姫乃先輩が言った。
「分裂して小さくなった鰐が、大きくなった気がしない?」
と姫乃先輩が続けて言うと、
みんなで辺りを見回した。
「確かに!」
姫乃先輩が言うとおり、分裂して小柄になった鰐がさっきまではかなりいたのに、今はほとんどいなくなっている。
「あれを見て」
と姫乃先輩は指を差した。
姫乃先輩が指差す方向を見ると、1体の鰐が地面を齧り取っていた。地面を齧り取ってから咀嚼をしたかと思うと、ゴクリと飲み込んだように見えた。
すると鰐の体がムクムクと大きくなった。
辺りを見渡すと、何かを齧って食べている鰐が所々に見られる。
「これは、、、」
「おそらくこの鰐は、食べた物を何でもエネルギーに変える能力を持っていると思うの」
と姫乃先輩は言った。
「それじゃあほぼ無限のエネルギーじゃないですか!?」
と僕が言うと、
「うん。耐久戦はかなり不利だよね」
と姫乃先輩は言った。
「でもね」
と姫乃先輩は続けて言う。
「本体がいるパターンだったら、本体がエネルギーを補給すれば良いと思うの。でも鰐たちは各個体がそれぞれ補給を行っている。それって、全部が本体っていうパターンが濃厚じゃないかな?」
「確かにな」
とリクも同意のようだ。
「このままうだうだしていても、こっちの体力が削られるだけだしな。それに相手は無尽蔵に補給ができるときたもんだ。よし、勝負に出よう」
とリクは言った。




