8、冒険者ギルド
2ヶ月間僕たちは毎日修練場に通い、力をつけることに専念した。
僕は相変わらず、魔法とスキルは使えないものの、刀を使った戦闘については、少しずつだが上達していた。少しずつだが。。。
姫乃先輩は火の玉を飛ばす「火球」を使いこなせるようになっていた。
今はソフトボール程度の大きさであるが、相手を怯ませるには十分だ。
スキルの糸については、ある程度自由に動かすことができるようになっていた。
指先から糸を出して、目的の物に巻きつけることもできる。
強度についても、僕が思いっきり引っ張っても切れない。
姫乃先輩が言うには、人を持ち上げても切れないくらいの強度はあるそうだ。
武器は小刀を選んだようだ。
片手で糸を扱えるように、武器は片手で持てる物にしたと姫乃先輩は言っている。
もともと容姿端麗・頭脳明晰・運動神経抜群の先輩は、この世界でもそのオールマイティな能力を遺憾なく発揮し、施設の中では中堅クラスと渡り合うくらいになっていた。
芽衣については、氷の魔法の発動速度や威力がかなり上達していた。
特に「アイスランス」の威力は高く、僕の体を貫くくらいは容易だろう。
今日は空の案内で冒険者ギルドに来ていた。
冒険者ギルドは施設から歩いて15分ほどの場所にあった。
僕は冒険者ギルドの入口の扉を開ける。
ギルドの中は思っていた以上に広い。
入口から入るといくつものテーブルがあり、各テーブルで冒険者と思われる人たちが話をしたり、食事をしたりしていた。
入口から向かって左側の奥には食事など注文を受けるカウンターがあり、中央には依頼の受注手続きや冒険者登録を行うカウンター、右側には依頼達成の手続きを行うカウンターがあるようだ。
そして、中央と右側のカウンターの間に依頼内容が貼られた掲示板がある。
僕たちは空を先頭に中央のカウンターに向かう。すると
「空!また依頼受けるのか頑張るなぁ」
「空。この前はありがとな!」
「空ちゃん。また遊ぼうね。チュ」
などと周りの冒険者が空に声をかけ、空は軽く応対をしている。
空はこのギルドでは人気者らしい。
カウンターの前に着くと受付嬢が言った。
「ようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「あのね。この人達初めてだから登録と冒険者ギルドの説明をお願い」
空が僕たちの代わりに言ってくれた。
「かしこまりました。それではこの用紙にお名前を書いていただけますでしょうか」
受付嬢はそう言うと僕たちに用紙を出した。
用紙には本当に名前を書くだけだった。
冒険者登録は誰でもできるようだ。
複数の登録も可能だが、メリットがないので、あまりやる人はいないのだそうだ。
僕たちは書いた紙を提出する。受付嬢は紙を受け取ってから言った。
「ありがとうございます。では登録を行なっている間に冒険者ギルドについて説明させていただきます。
まず冒険者にはランクがございまして、S A B Cの4ランクとなります。実績を積むとランクが上がる仕組みになっております。ランクの確認は登録後にお渡しする冒険者カードにて確認できますが、皆様Cランクからのスタートとなります。」
「次に依頼ですが、こちらにもランクがありA B Cの3ランクとなります。依頼の受注は冒険者ランクと同ランク以下の依頼しか受けることができません。また、依頼は一度に一つしか受けることはできません。」
「依頼の受け方ですが、掲示板にある依頼の紙を持ってこの受付にお越しください。そこで依頼受注の手続きをいたします。依頼達成後は証拠品を持参であちらの受付にお越しいただければ、証拠品と交換で報酬をお支払いいたします」
「受注した依頼を断念される場合には、再度この受付にお越しいただければ、取り消しの手続きをいたします」
「何か質問はございますか?」
「冒険者ランクSとAの違いはなんですか?」
僕は聞いた
「冒険者ランクがSになりますと、特命の依頼があることがあります。それ以外はSとAに違いはございません」
なるほど難易度が高すぎると達成できそうな人に直接依頼が行くということか。
「他に質問はありますか?」
「特にありません」
「では登録が終わりましたので、冒険者カードをお渡しします。Cランクはただの紙ですが、Bランク以上になりますと、偽造ができないカードになります。このカードは全国共通なので、他の町のギルドでも使用できます」
「わかりました。ありがとうございます」
僕たちはお礼を言った。
「では皆様のご活躍を期待しております」
早速僕たちは依頼を見てみた。
A・Bランクは討伐系の依頼が多い。
Cランクにも討伐系はあるが、薬草の採取や探し物などがメインとなっている。
掲示板の依頼を眺めている時、僕はハッとして一つの依頼の紙に目が止まった。
僕の視線に気づいた姫乃先輩がつぶやいた。
「ストロングウルフ討伐 Bランク・・・」
ストロングウルフは転移直後に僕たちを襲い、花巻先輩の命を奪った魔獣だ。
「先輩。。。」
姫乃先輩は花巻先輩の友達だった。
日頃からあまり表には出さないが友達が殺されて悲しくないはずがない。
僕は姫乃先輩に言った。
「姫乃先輩。倒しに行きましょう。ストロングウルフを僕たちで」
「えっ」
姫乃先輩は驚いた表情で僕を見つめる。
「ストロングウルフを倒して花巻先輩に報告しましょう。その為にも早くBランクに上がらないとですね」
僕は言った。
姫乃先輩は目に涙を溜めながら「うんっ」と頷いた。
改めて依頼を確認する僕たち。
「とりあえず何かの依頼を受けてみましょうか?」
僕は言った
「そうだね。どれにしようか?薬草の採取、飼っている鳥探し、兎狩、いろいろあるね。」
姫乃先輩が掲示板を見ながら言う。
しばらく掲示板を見た後に
「これなんかどうかな?」
と姫乃先輩は指を差しながら言う。僕は姫乃先輩の差している依頼を見る。
おおみみず討伐
ランク C
村の畑をおおみみずが荒らしていて困っているので倒して欲しい。
報酬 銀貨1枚
「ストロングウルフを倒す為にも戦い慣れした方がいいと思うの。空くんこの依頼どうかな?」
姫乃先輩は言った。
「いいんじゃないかな。おおみみずはキバで噛みついてくるけどよっぽどのことがない限り死ぬことはないと思うよ」
空が返答する。
「じゃあこれにしてみましょうか」
こうして僕たちのおおみみず討伐が決まった。