78、封印
僕たちは警戒しながら、中に入っていく。
しかし、僕たちが中に入って行っても、一向に魔獣が襲ってくる様子はない。
魔獣の気配は全くなく、今までの道中とは違い特別な雰囲気を感じる空間であった。
「ここの魔獣は明るいところがすきじゃないのかな?」
と僕が言うと、
「そういえば、前に来た時もこの部屋には魔獣はいなかったな」
とリクは言った。
「もしかしたらあの封印には魔獣を寄せ付けない何かがあるのかもね」
とマキは付け加えた。
マキの言葉を聞いて、僕は改めて封印を見る。
封印は洞窟の壁に描かれており、半径2mくらいの円になっている。
ここまでくると刀が壁に突き刺さっているのも確認ができた。
刀は封印の中央に刺さっていた。
近づいて描かれている模様を見ると、何やら文字のような物が並んでいるが、元の世界でもこの世界でも見た事がない文字のため、何が書かれているのか全くわからない。
刀を見てみると、柄から刀身にかけて真っ黒な刀だった。
長年にかけて色々な人が抜こうと試みたそうだ。
中には破壊しようとした者もいただろう。
しかし、目の前の刀は傷ひとつ無く、吸い込まれるほどに綺麗だった。
「綺麗な刀だな」
と僕は言った。
「よし。もういっちょ試してみるか」
とリクは言うと、刀の柄を握った。
「んー。んー」
「おりゃあ」
などの声を発しながらリクは刀を抜こうとするが、一向に抜ける気配はない。
それどころか、ピクリとも動いていない。
リクは模様の描かれている壁に足を掛けて、刀を抜こうとしている。
それでも刀は抜けず、壁に描かれている模様も消えない。
それだけやれば、壁が少しは崩れそうな物だがそれもない。
何となくではあるが、この壁自体が固定されているような印象だった。
「なるほど。確かに封印されているようだね」
と僕は言った。
「ぜーはー。ぜーはー」
と普段息を切らすことなどないリクが、わざとらしく息を切らしている。
「私も触ってみていい?」
と姫乃先輩は言って、刀の柄を握った。
「んー。んー」
とリクと同じような声を出しながら刀を抜こうとする姫乃先輩。
ただ、リクとは違いそんな姫乃先輩も可愛かった。
「やっぱりダメみたい」
と姫乃先輩も諦めたようだ。
「じゃあ次は僕がやってみようかな」
と言って刀の柄を握った。
その瞬間
ピカァァァ
と目の前が真っ白になった。
気がつくといつの間にか僕は真っ白な空間の中にいた。
見渡す限り真っ白な空間が広がり、上も下もわからない。
その中に意識だけがぷかぷかと浮いている感じがした。
「何だここは?」
と僕は言ったつもりだが、声にならない。
その時だった。
「汝は月の民か?」
と声が聞こえた。
聞こえたと言うよりも頭の中に直接響いているような感じだ。
声は男か女かもわからない。
僕が何も答えずにいると
「汝は月の民か?」
と声がまた頭の中に響いた。
「誰なんだ?月の民なんか知らないよ!」
と僕は叫んだつもりだが声にはならない。
すると僕の声が相手には届いたのか
「この声が聞こえると言うことは、月の民なのだろう。だいぶ血は薄いようなのよ。。。薄いようだがな」
「ん?何か言い直さなかったか?」
僕は頭の中でツッコミを入れた。
「うっうるさいのよ!」
と僕が頭の中で思った言葉が伝わってしまったようだ。
「こほん。汝はこの月刀を何故に欲するのか」
と一瞬のうちに威厳を失った声の持ち主は、取り繕うように咳払いをした後に言った。
これは刀を受け取るためのイベントだ!と直感した僕は、
「ちっ力が欲しいからです。僕はこの世界に来て自分の無力さを感じました。このままでは大好きな人も守れない。だから力が欲しいんです」
と力説した。
「・・・」
少しの間、無言の時間が流れる。
「それだけか?」
と声は聞いてきた。
「それだけですけど。。。」
と僕は答えた。
「本当にそれだけなのか?」
と声は念押しに聞いてくる。
「本当にそれだけですけど。。。」
と僕は答えた。
「ふんぬー!もっとあるのよ。ほら世界を救うとか、悪を倒すとか、そう言うのが欲しいのよ!」
と声は憤りながら言った。
「そう言うの僕には無理ですよ。ほら僕は弱いし」
と僕は返答した。
刀は欲しいけれど、無理なものは無理だ。
刀を与えたという事を理由に、世界を救うために危険な戦いを強いられたら、命がいくつあっても足りない。
ここはきっぱりと断らないといけないと思った。
「ふんぬー!お前の根性を叩き直してやるのよ!」
と声の持ち主は言うと、真っ白な世界が急速に収束をしていく。
ハッ
と気づいた時には元の洞窟で僕は刀の柄を握ったままだった。
「どうしたの勇くん。急にぼーっとしちゃって」
と姫乃先輩が声をかけてくれる。
リクもマキも心配そうに僕を見ていた。
あのやりとりは現実では一瞬のことだったようだ。
「いや。急に声が、、、」
と言い掛けた時に、
スルスルスル
と刀が壁から抜けた。
「はいっ?」
「はっ?」
「はぁ?」
「あら?」
と一同が唖然とした。
「勇、何をしたんだ?」
とリクが聞いてくる。
「いやっ。何も、、、」
していないと言おうとした時に、壁に描かれていた封印が光出した。
ピカァァァ
光はどんどん強くなり、あたり一面を飲み込んだ。
「うわぁぁぁ」
徐々に光は弱くなり、視界が戻ってくる。
「あっ」
すると今まで目の前にあった壁に描かれていた封印が綺麗さっぱりと消えていた。
そして、、、
いつの間にか僕の腰に届かないくらいの身長の幼女が目の前に立っていた。




