74、ご馳走
3日目の朝が来た。
今日も朝食は程々にして、トレーニングを開始した。
筋肉痛がかなりひどい状態ではあるが、なんとか午前中のメニューをこなす事ができた。
そしてお約束のリバースも忘れてはいない。
昼食はウサギの干し肉を食べて、少し休憩した後にスキルの修行に入った。
昨日と同様に、腹にエネルギーを溜める、足に移す、飛神の発動を何度も繰り返した。
昨日よりはスムーズにできるようになってきたが、まだまだ実践で使えるレベルではない。
何度も何度も繰り返して、体力が無くなり倒れた。
これがスキルの修行終了の合図となった。
「はぁー。マジでしんどい。もう無理だよー」
といいながら倒れた。
倒れながら姫乃先輩を見てみると、姫乃先輩もふらふらになりながら糸を放っていた。
華奢な体をよろけさせながら、それでもスキルを放とうとする姫乃先輩を見て、
「姫乃先輩も頑張っているんだ。僕も負けてはいられない」
と僕は改めて気合いを入れた。
少し体力が戻ってきたところで今度は剣の修行だ。
昨日と同様に何度も何度も基本の振り方を繰り返した。
今までと違うところは、剣術の後半は基本のコンビネーション。
縦から横、横から切り上げ、縦から縦など様々な組み合わせで基本の振り方を反復した。
「何度も言うが小さく鋭くだぞ」
「次の振りに入る時に無駄が多い」
などリクは僕の悪いところを的確に指導してくれた。
「よーし。今日はここまでだ」
とリクが言った。
「はぁーー。終わったぁ」
と僕は地面に倒れた。
姫乃先輩も力抜けたのか、ガクッと地面に座り込んだ。
「今日の飯は何にすっかな」
とリクが言うと、
「豚なんかいいんじゃない?」
とマキが言った。
「おっいいな。久々にあれやるか」
とリクが言った。
「リク。あれって?」
と聞くと、
「まぁ。楽しみにしておけよ」
とリクは言った。
「じゃあ、俺と勇は豚を獲りに行ってくるから、マキと姫乃は買い出しを頼むわ」
とリクが言うと、
「わかったわ。任せて」
とマキは言って、姫乃先輩と共に村に向かって行った。
「じゃあ俺たちも行こうぜ。久しぶりだから楽しみだな」
とリクは言った。
「あんまり食べないものなの?」
と聞くと、
「手間がかかるし、何よりも2人じゃ食い切れないからな」
とリクは言った。
しばらく歩いていくと、豚がいるというところに着いた。
この世界では、野生の豚や牛などもいるらしい。
「おっ?ちょうどいいのがいるな」
とリクは遠くを見ながら言った。
「勇。飛神であの豚を倒してくれ。切るなよ。峰打ちにしろ」
とリクから指示が来る。
「わかった」
僕は腹に溜めたエネルギーを足に移して、飛神を発動した。
「飛神」
一瞬にして豚を通り越したが、僕の刀は豚を捉えていて、豚は衝撃で吹っ飛んだ。
ドスン
と地面に落ちた豚はピクリともしない。
その隙に4本の足を縛り、木の棒に吊り下げた。
リクは豚の首にナイフを入れて豚を絞めた。
傷口からは血液がドクドクと出てきた。
「早めに血抜しておきたいからな」
とリクは言った。
豚がぶら下がっている棒の両端をそれぞれ持って拠点に戻る。
拠点に戻ると、すでに姫乃先輩たちは買い物から戻ってきていた。
「よし。準備を始めるぞ。お前らも手伝え」
とリクは言って、僕と姫乃先輩はついていく。
マキは相変わらず火の準備を始めた。
僕たちは、早速豚料理の下拵えを始めた。
皮を剥いだ後、腹を小さく切り内臓を取り出す。
取り出した内臓は食べるものと食べないものに分ける。
豚の口から水を入れて、体の中を洗浄した。
食べる内臓も洗って血を落とす。
「姫乃。頑丈な糸を数本出してくれ」
とリクが言うと、姫乃先輩は糸を準備した。
食べる内臓を一口サイズにカットしてから、豚の腹から体の中に入れた。
その後に村で買ってきたと言う米や野菜やハーブ、塩、胡椒、水を豚の腹から中に入れてよく混ぜてから、腹を糸で閉じた。
そして、マキが作った長くて太い串を豚の口から刺して、肛門から出した。
中のものが出ないように口と肛門を糸で縛り上げると、
「まぁこんなもんかな」
とリクは言った。
串の両端をリクと僕で持ち、マキのところに運ぶ。
マキは焚き火と串を乗せる土台を準備していて、そこに僕たちは串を乗せた。
大人気のゲームであるモン◯ターハンターの肉を焼くのと同じようなものだ。
串をぐるぐる回しながら、満遍なく火が通るようにしていく。
しばらくすると、ハーブと肉の焼ける良い香りがしてきた。
グゥゥゥ
と僕の腹の虫が鳴る。
「まぁ焦るな。もう少し待てよ」
とリクは言いながら串を回した。
グゥゥゥ
今度はリクのお腹も鳴る。
「ははは。俺の腹も待ち遠しいってさ」
とリクが照れながら言うと、みんなで笑った。
肉を焼いている間にマキが魔法で皿のような物を作り出した。
豚が丸々乗るような大きな皿だ。
またしばらく豚肉を眺めていると、
「よし。そろそろいいだろ」
とリクが言った。
僕とリクは串の両端を持って、火から豚肉を外して、皿の上に乗せた。
「これは師匠が考え出した料理で豚の丸焼きとサンゲタンを合わせたものだ。中の米も美味いぞぉ」
とリクは言った。
「はい。これ使って」
とマキが村で買ってきたフォークとスプーンを配ってくれた。
そして、リクがナイフで中身が溢れないように腹を切った。
腹の中に溜まっていた匂いが一斉に溢れ出して食欲をそそった。
「よし。みんな食え!」
とリクが言うと、
「「「いただきまーす」」」
と言って一斉に食べ始めた。
まずは肉をナイフで削ぎ落として、少し塩をかけて食べた。
「うんまぁーーい」
肉も柔らかく仕上がっていて、めちゃくちゃおいしい。
次にお腹の中の米を食べる。
細かく切った内臓も一緒にスプーンで掬って口に入れた。
「はふっ。はふっ」
と思った以上に熱かったが、
「おぉぉぉぉ。これは美味すぎる!!」
豚の旨みが染み込み、ハーブを使っているからか獣臭さはあまり感じない。
今まで食べたどんな食べ物よりも美味いと言っても過言ではなかった。
「あぁぁぁ。本当に美味しい」
と姫乃先輩も蕩けるような声を出している。
リクは満足そうに頷きながら、料理を口に運んでいた。
「美味しいでしょ。私達の中でも一番のご馳走よ」
とマキも嬉しそうに食べている。
「これもかけてみて。味変よ」
とマキは村から買ってきた液体を渡してくる。
肉に少し垂らして、口に運ぶ。
口の中に懐かしい味が広がる。
「おぉぉぉ。醤油だ!うまーい。落ち着く味だぁ」
「私にもちょうだい!」
と姫乃先輩が前に乗り出してくる。
わかるわぁ。醤油は日本人の心だもんなぁ。などと思いながら、醤油を渡した。
姫乃先輩は豚肉に醤油をちょびっと垂らして一口。
「おーいしぃぃぃ」
姫乃先輩のおいしぃの笑顔いただきました!
この夜は美味しい物を食べて4人とも楽しい時間を過ごした。
大きな豚も気づいた時には骨だけになっていた。




