68、出発日和
真っ暗な闇の中を幼い3人は手を取って走っている。
真ん中と左側には男の子。右側には髪の長い女の子。
遥か先に小さな光が見える。3人は光に向かって必死に走っていく。
その光は少しずつ大きくなってくる。
そして光のもとにたどり着くと、3人は闇から抜け出し光に包まれていく・・・
「勇くん。起きて」
「起きて」
「んん〜」
僕は目を覚ました。
目の前には姫乃先輩の顔が見える。
「朝から天使が目の前にーー」
と僕は寝ぼけていると、
「勇くん。何を言っているの?」
と姫乃先輩は戸惑った表情をした。
「これから冒険者ギルドに行くんだから、しっかりしなさい」
と姫乃先輩は言った。
僕はハッと覚醒して、
「そうでした!」
と言って僕はベットから起き上がった。
ここ数日でいろいろなことがあった。
美沙がこの世界(AE)の人間で、姫乃先輩に致命傷を負わせていなくなったこと。
姫乃先輩と食事に出かけた時にウィンという少年と友達になったこと。
昨日、姫乃先輩と今後について話をした。
元の世界に戻るという事については、2人とも異論は無かった。
問題はその方法だ。
いろいろ情報収集はしていたものの、有益な情報は得ることができていなかった。
その中で僕たちが出した結論は、
「芽衣を探す」
僕は独り言を呟いた。
芽衣の言ったことが本当だとしたら、芽衣はAEから自らの意思で元の地球に移動している。
芽衣が元の地球に帰る方法を知っている可能性は高い。
だから僕たちはまず芽衣を探して、いろいろ聞き出す事にした。
ただ、芽衣がどこに行ったのかわからない。
わかっているのは黒の組織の人間であるということのみ。
だから僕たちは黒の組織のことから調べていくことにした。
今日は冒険者ギルドに行って、黒の組織のことを聞いてくる予定なのだ。
「姫乃先輩お待たせしました」
僕は準備を整えてから姫乃先輩に言った。
「行きましょうか」
と姫乃先輩は言って部屋を出て行った。
僕たちは冒険者ギルドに着いた。
僕たちは冒険者ギルドへは何度も通っている。
通い慣れた通学路のようなものだ。
ギルドのドアを開けて中に入り、受付まで進む。
各テーブルには冒険者が点々と座っていた。
受付の前まで行って受付嬢に話しかける。
「あのぁすみません」
「こんにちは勇様。本日はどのようなご用件でしょうか」
と受付嬢は答えた。
「今まで僕たちと一緒にいた女性と逸れてしまったのですが、何か情報はありませんか?」
と聞くと、
「あぁ。お姿が見えないと思ったら逸れてしまったのですね。残念ながらその方の情報は入ってきていません。今後何か情報がありましたら勇様にお伝えいたします。早く見つかるといいですね」
と受付嬢は答えた。
「そうですか。情報が入ったらお願いします」
とお願いをした。
「黒の組織について教えてもらえますか?」
と姫乃先輩は受付嬢に聞いた。
「黒の組織は強大な組織ということですが、全容は私にはわかりません」
と受付嬢は答えた。
「最近どこに現れたとか、そんな情報はありますか?」
と姫乃先輩は続けて聞く。
「そうですね。ベルン付近に盗賊が住み着いた村がありまして、そこの盗賊は黒の組織と関係があると言う噂がありました。でもその盗賊の村は先日壊滅いたしました」
「これもつい最近ですが、ベルンからかなり離れたところの話ですが、検問が黒の組織に破られたそうです。それも女性1人で何十人もの兵士を倒したのだとか。。。」
「女性!!」
僕は姫乃先輩と目を合わせた。
その女性は芽衣の可能性もある。
「その黒の組織の人はどこに向かったのかわかりますか?」
と姫乃先輩は聞く。
「そこまではわかりませんが、北の国アシリアに向かう橋の検問だったので、アシリアに向かった可能性はありそうです」
と受付嬢は答えた。
「アシリアへはどうすれば行けますか?」
と僕は聞いた。
「アシリアはここからかなり北の方の国です」
受付嬢は答える。
「アシリアはこのナパン王国の隣国ですが、国境は大きな山脈になっていまして、洞窟を抜けないといけません。洞窟にはかなり強い魔物がいるそうですが、最近その魔物が倒されたという噂があります。最近同じ事を聞かれたのですが、私も詳しいことはわかりません」
「北東の方の街ラビルに言って、アシリアのことを聞いてみるといいと思います。東の森から北に向かうとラビルの街がありますが、ラビルは鉱山があり活気のある街ですよ」
と受付嬢は教えてくれた。
僕たちの目的は決まった。まずはラビルに行こう。
僕達は施設にもどってきた。
ギルドから帰る途中で話をして、アシリアに向かう事を決めた。
まずは旅の準備と施設に話をしなければならない。
僕たちは施設の責任者であるベネットさんの部屋を訪ねた。
「ベネットさんいますか?」
とノックをしてから姫乃先輩が言うと。
「いますよ。どうぞ」
と言う返事があったので、僕たちは部屋に入った。
簡単に挨拶を済ませると、僕たちは早速本題の話に入った。
「ベネットさん。僕たちは元の世界に帰りたいと思っています。この街で元の世界に帰る方法を探していましたが、なかなか有効な方法が見つかりません。そんな中、仲間だった芽衣もいなくなってしまった。。。僕たちは旅に出て芽衣の行方を探すのと元の世界に帰る方法を探したいと思います」
「そうですか。ここを拠点に探す事もできるかもしれませんよ」
とベネットさんは言ってくれたが、
「そこまで甘える訳にはいきません。今まで沢山お世話になって、何のお返しもできないのは心苦しいのですが」
「何か僕たちで力になれることがあったら、必ずお手伝いさせていただきます」
「わかりました。ただ、戻りたくなったらいつでも戻ってきていいのですからね」
とベネットさんは言ってくれた。
僕はベネットさんの優しさが嬉しかった。
「「ありがとうございます」」
と2人でお礼を言った。
僕たちはベネットさんの部屋を出てから、マーサさんにも旅に出る事を伝えた。
マーサさんは寂しそうな表情を浮かべながら、快く受け入れてくれた。
その後、僕たちは街に出て旅の準備をする。
今度の旅は数日の旅ではない。
非常食は用意するが、基本的には現地調達しなくてはいけない。
僕たちは食べることができるかを判断するために、植物の本を購入した。
少し大きめのリュックも購入して、その中に入れる。
できるだけ荷物は少なくしたいので、2人で相談しながら省けるものは極力省く事にした。
ひととおりの準備を終えて、僕たちは食事をとった。
「この街もお別れかぁ」
と僕が言うと
「いろいろあったよね」
と姫乃先輩も今までの出来事を思い出していた。
今晩までは施設に泊めてもらい、明日の朝旅立つ事にした。
明日からはちゃんと眠れるかもわからないため、今日は早めに就寝して明日に備える。
翌朝、僕たちはベネットさんとマーサさんに挨拶をして施設を後にした。
施設を出る時に空とあった。
「勇お兄ちゃん行っちゃうの?」
と空は聞いてきた。
空にも沢山お世話になった。
「うん。今までありがとう。また会おうな」
と言って別れを告げた。
ベルンの街の門を出ると、青空が広がっていた。
「絶好の出発日和だね」
と姫乃先輩は言った。
「はい!」
と僕は気合を入れて答えた。
これからどんな冒険が僕たちを待ち受けているのだろうか。




