64、勝敗
「もうあまり時間がないみたいだね」
と僕が星に言うと、
「かもなぁ。よくわからねぇがな」
と星は返してきた。
水系の魔法で星を削って行こうと思ったが、そんな悠長なことを言っていられそうもない。
僕は「アルマス」のような大魔法を放ち勝負をかける事にした。
しかし、大魔法を放つには魔力を溜める必要がある。
その間、星が待ってくれるはずもない。
そして、星に当たらなければ意味がない。
半分の力で魔力を溜めて、もう半分の力で戦って隙を作るしかない。
しかもあの星からだ。。。
「んー。全くもってできる気がしないなぁ。」
と僕は愚痴った後に、
「でもやるしかない。この柱を守れるのは僕だけだから」
と気合いを入れた。
「覚悟は決まったか」
と星は聞いてきた。
「うん。キミを倒す覚悟がね」
と僕が返すと、
「上等だぜ」
と言って、星は笑った。
星は右手を前に出すと、手のひらから火の玉を放った。
「くらえ」
バスケットボールくらいの大きさではあるが、あの青い炎の玉だ。当たるとやばい事になる。
僕は頭の中で水の壁を思い描き、魔法を創造した。
「水壁×6」
水の壁を2枚1組として、3方向に配置した。
火の玉はみずのかべに当たって燃え尽きる。
しかし、水の壁も1発の火の玉でほぼ蒸発してしまい、使える状態ではなくなっていた。
「水の壁って使う事ないと思って、創っていなかったけど使えるね」
と言いながら、星から距離を取る。
星は今度は僕に向かって右手を振るいながら、
「ヘルファイア ブルー」
と言うと倒木を焼き尽くした広範囲の炎が発せられた。
しかも、今度は青い炎だ。
さっきのものとは威力が違うだろう。
僕はヘルファイアを防ぐために魔法を創造する。
「ウォータードーム×3」
と僕は魔法を唱えた。
水の壁がドーム状に僕を囲んだ。
それを三層で配置。
「そんなものじゃ守りきれねぇぜ」
と星は言った。
ヘルファイアがウォータードームの1層に届くと、
ジュー
と言う音と水蒸気を出しながら炎と水が相殺されていく。
しかし、ヘルファイアの方が勝り一層目を破った。
すぐさまヘルファイアは二層にたどり着いて、一層の時のように
ジュー
と言う音と水蒸気を発した。
二層目もヘルファイアを止めることができず破られた。残すところ三層目のみとなった。
「あとがねぇぜ」
と言っている星の声が聞こえる。
しかし、ヘルファイアは三層目にたどり着くことはなかった。
一層目の壁が復活し、続いて二層目の壁も復活したのだ。
ヘルファイアは何度か一層目と二層目の壁を破ってきたが、三層目を破る事なく、文字通り燃え尽きた。
僕は魔力を供給して、修復するような魔法にしていた。
魔法創造士の腕の見せ所ってわけだ。
ヘルファイア本体は消滅しているが、広範囲に炎が放たれたため、辺りで青い炎が燃えている箇所がある。
「この炎も触るとやばいかな」
と僕は新たに魔法を創造した。
「波動水」
僕が魔法を唱えると、僕を中心として水の輪が発生し、広がっていった。
水の輪は燃えている箇所を消化しながら、星の元まで届く。
星は軽く右手を振るって水の輪を殴り、水の輪を消滅させた。
「俺っちの攻撃をことごとく防ぎやがる。本当に大した奴だぜ」
と星は言いながら再び構えをとった。
「はっ」
と星は言うと僕に向かって走り出す。
「やっぱり俺っちは近距離型だぜ。小手先の技なんかクソくらえだ!正面からぶっ潰してやる」
と叫びながら走っている。
まだ大魔法を放てるほど魔力は溜まっていない。
もう少し時間をかける必要があった。
「水弾」
僕は水の玉を星目掛けて放つ。
それほど威力は無いが、20発ほどの水の玉だ。
星は避けながら進んでくる。
僕は早めに距離を取るため、「跳躍」を唱えてジャンプした。
星は走って僕を追いかけてくる。
僕は上空から「水弾」を連射するが、星は見事にかわす。
「水龍」
僕は水龍を唱えた。
龍を形取った水が勢いよく星に向かっていく。
星は水龍を小さくジャンプしてかわすが、水龍の向きを変えて追撃する。
「うぜぇ」
と言って星は手のひらから火の玉を数発発射した。
火の玉は水龍の頭に命中して、水龍が弾け飛ぶ。
地面に着地をした僕はまた「水弾」を連射する。
星は全てをかわすことはできず、かわせないものは手で払った。
若干ではあるが、星の炎が削られる。
しかし、星はそれに構わず向かってくる。
僕は「水弾」で牽制するが、星は止まらない。
かなり距離を詰められた。まずい。
星は右手を振りかぶる。
「跳躍」
右ストレートがくると思い僕はジャンプで逃げようとした。
しかし、その瞬間に星はもう1段階スピードを上げた。
「ウォォォォ」
と叫びながら右ストレートを放つ星。
僕はジャンプで逃げるが間に合わず、星の拳が右足に命中した。
ドカーン!
僕の右足は弾け飛び、体はは衝撃で吹き飛んだ。
ドン
ドン
ドン
数度地面に叩きつけられた僕は、なんとか上半身を起こす。
無くなった右足から激痛が走るが、回復している余裕はない。
星が追撃してきているのだ。
まともに食らったら終わりだ。
絶望的な状況であるが、魔力が溜まった。
大魔法を打てる。
あとは当てるだけだ。
星は僕に向かってきている。
僕は右手に大魔法のために溜めた魔力を集中させた。
そして、左手を星の上空の方にかざして頭の中で魔法を唱えた。
「水柱」
星は僕の左手を見て、上空を確認した。
僕は星が魔力の感度が低いと分かってからも、魔法名は唱えないようにしたが、手だけは発動箇所を向けて魔法を放っていた。
この瞬間のために。。。
僕が唱えた「水柱」は下から発動する。
星の真下から大量の水が真上に吹き上がった。
ゴォォォォ
上に気を取られた星は「水柱」をかわすことはできずに吹き上がる水に飲み込まれる。
ジュー
と星の炎と水が消し合う音が聞こえる。
よし。
これで星の動きを抑えた。
僕は右手に溜めた魔力を使い大魔法を発動させる。
僕が右手を星の方に向けると、右手から直径3mにもなる高密度の電撃が発生する。
これが今の僕にできる電撃系の最強魔法だ。※名付け親はもちろん師匠。
「ミョルニル」
僕の手から高密度の電撃が放たれた。
電撃は真っ直ぐ星に向かって飛んでいく。
「うぉぉ」
その時、水の柱が勢いよく弾け飛んだ。
星が自身のエネルギーを放出して、弾けさせたのだ。
星の体からは青い炎が消えていたが、星自身は無事だ。
星はすぐに回避行動を取り始める。
やばい。
避けられる。
と僕は思い無心で魔法を放った。
「氷山」
星の周りから何本ものツララが飛び出して、星の逃げ道を塞いだ。
「てめぇ」星は叫ぶ。
それでも星は諦めずに右手に炎を纏って、ツララを数本破壊して逃げ道を作った。
切り開いた隙間から星は脱出しようと体をだすが、間に合わない。
「いっけぇぇぇぇ!」
僕は片足を失い、地面に座ったまま叫んだ。
「ミョルニル」は星の左半身を飲み込んだ。
バリリリリィィィ
星の全身に電撃が走る。
「ミョルニル」は星の左腕を吹き飛ばして、そのまま突き抜けた。
ドッゴーーーーン!!
遠くで「ミョルニル」が着弾し大爆発を起こす。
音と共に大地が揺れた。
星は左腕を失い、全身黒焦げになった姿でうつ伏せに倒れている。
「ハァハァハァ。やったかな?」
と僕は自分の失った足を簡単な止血だけ魔法で行った。
直したいのは山々だがかなりの魔力を使う。
大魔法を使ったあとだし、回復も使ってしまうと星が立ち上がった場合、戦うことができなくなってしまいそうだからだ。
僕は星を注視していると、
ジャリ
星の右手が僅かに動いて、地面をひっかく音がした。
僕は呆然とした。
これでも、ここまでやっても倒すことはできないのか。
星の動きはだんだん大きくなり、膝をつきながら立ち上がった。
「カハッ」
星は口から血を吐いた。
失った左腕からも血が流れている。星は右手に炎を纏わせて、左腕の傷口を焼いた。
ジュー
と嫌な音が聞こえる。
「クッ」
と星は表情を歪めた。
「はぁはぁ。危なかったぜ。もう少し避けるのが遅れたらひとたまりも無かったぜ」
と星は言った。
僕は言葉を返さなかった。
もう僕にはほとんど魔力が残っていない。
残された魔力ではもう星を倒しきれないかもしれない。
でも少しでも力を溜めて、星を倒せる可能性を上げようと考えていた。
星は僕に返答する気がないのを見て話を続けた。
「とは言っても俺っちももう限界だ。残された力はもうほとんど無い」
僕はその言葉を聞いて、一瞬僕にもまだ勝てる可能性があるのかと思った。
「だから奥の手を使う」
星はそう言うと体から禍々しい力を発した。
その力は青い炎の時よりも強大だ。
僕の勝てる可能性は潰えた。
「あぁ。僕は負けるのか、、、」
そう僕は呟いた。




