61、炎
「おっし。次は俺っちの番だな」
と星は一歩踏み出した。
バキッ
足元には切り倒された木の枝があり、星が踏みつけて折れた。
「足元が邪魔だな」
と星は言いながら右手に力を溜めた。
僕からみても相当のエネルギーが集まってきているのがわかる。
星は右手にエネルギーを溜め終えると、
「ヘルファイア」
と発声しながら右手を振るった。
すると右手から炎が放出され、広範囲に広がった。
広がった炎は一瞬にして周りの倒木を燃やし尽くす。
「なっ」
僕は星の放った炎の威力に驚いた。
倒木を燃やすのでは無い。
一瞬にして燃やし尽くしていた。
「俺っちの炎は普通の炎よりもちょっと熱いぜ」
と星は言う。
ちょっと?どこがちょっとなの?この炎相当やばいよ。
僕の魔法でもこの火力は出せないよ。
星の炎によって周りにあった倒木の大半が墨と化した。
グシャ
星は一歩前に出て、墨となった倒木を踏み潰すと、
「これで戦いやすくなったな」
と言った。
星は指をポキポキと鳴らしながら、
「今まで俺っちはスキルを使ってねぇ。これからはスキルを使わせてもらうぜ」
と言った。
あの身体能力はスキルではなく地の力だったらしい。。。
「ハッ」
と星は発声して、両拳に力を集める。
するとは星の両拳が炎を纏ったように炎が包み込んだ。
「俺っちのスキルは炎の能力だ。さっき放った炎と同等の炎を拳が纏っている。当たっただけでも消炭になるぜ」
と星は言う。
これは厄介だね。
ツーと僕の横顔に汗が流れる。
星のスピードからすると、攻撃を全てかわすのは僕には不可能だ。
それにただのストレートでもあの威力なのに、今は炎を纏っている。
おそらくスキルの燃費もいいだろう。
「燃費が良さそうだね。よく考えたスキルの使い方だよ」
と僕は言った。
「燃費だけじゃなく、威力もすげぇとこ見せてやるよ」
と星は言うと、僕に向かってジャンプした。
そして、僕の頭上から拳を振り下ろす。
僕は「跳躍」を唱えて大きく後ろに飛んだ。
ドガァァァン
星の拳はそのまま地面を殴り、地面が大きく弾け飛ぶ。
星が拳を振り下ろした地面には大きなクレーターができていた。
「まともに受けたら体が爆散するんじゃないかな?」
とあまりの威力に僕は戸惑う。
僕はどの程度の効果があるかはわからないが、体の周りに結界を張った。
「さぁ覚悟しろよ」
と言って星は拳を握る。
タッ
星は僕に向かって直進してくる。
「氷弾」
僕は多数の氷の塊を放つが、星は易々と払い除けて直進は止まらない。
「これならどうだ。氷弾」
今度はひとつの大きな氷の塊を星に向かって飛ばす。
「うりゃあ」
と言う掛け声を発しながら、星は大きな氷の塊に右ストレートを放った。
ドガーン
星の拳を受けた氷の塊は瞬時に爆散した。
僕はその隙に「跳躍」でジャンプし、星との距離をとる。
そしてジャンプしながら再度大きな氷弾を放った。
「氷弾」
氷の塊が星目掛けて飛んでいく。
星は今度は左手でストレートを放ち氷の塊を爆散させた。
その間に地面に着地した僕は魔法を唱える。
「沼」
星の足元が泥沼と化し、星の足が沈み始める。
「うぉぉ」
と言う掛け声と共に星は沼に向かって、拳を振り下ろす。
ドゴーン
星の拳で沼は弾け飛んだ。
僕は休むことなく魔法を唱える。
「鉛筆×3」
3本の石の針が地面から突き出す。
星はこれをバク宙で交わした。
「氷山」
星の着地場所を読み、今度はツララのような氷の針を地面から突き出させた。
しかし、これも星は軽い身のこなしでかわす。
そして、星はまた僕に向かって直進してきた。
「氷山」
僕は次々と氷の針を出すが、星はかわしながら向かってくる。
僕との距離が縮まり、星は燃え盛る拳を振りかぶる。
「氷壁×5」
僕は避けきれないと思い、氷の壁を5枚重ねで防御した。
星はこれにも構うことなく氷の壁に向けて右ストレートを放つ。
ドッガーン
5枚の氷の壁も一瞬で破壊した星は、そのまま僕に向かってくる。
しかし、星は何かに足を取られて前のめりに体勢を崩した。
僕はその隙に「跳躍」で距離を取る。
星の足元には僕が発生させた泥沼があった。
星は僕が「沼」の魔法を発動させていたことに気づかず、泥沼に足を取られたのだ。
星は即座に泥沼から抜け出す。
「ふぅ。危なかった」
と僕は言った。
さっきから一方的に押されまくっている。
「足元にも魔法を発動させていたとは気づかなかったぜ。なかなか楽しませてくれるじゃねぇか」
と星は言った。
「こっちは全然楽しくないよ」
と僕は軽く返しながらも考えていた。
星は泥沼に気づいていなかった。
魔力やスキルなどに使われるエネルギーは、ある程度感覚で感じることができる。
僕が星の右手にエネルギーが集まっているのを感じたように。
ただ、感じ方や感度は人それぞれに差がある。
僕なんかは比較的感度が高い方らしく、視界に入っていなくても、なんとなく感じたりできる。
あの沼はおそらく僕だったら気づいていただろう。
もしかして、星はそんなに感度が高くないのかな?というのが僕の仮説だ。
今のところ押されっぱなしだけど、もしかしたらそれが突破口になるかもしれない。
「試してみるかな」
と呟いて僕は行動に出る。
通常は魔法を発動する時に魔法名を唱える。
それは脳内の魔法のイメージを固めやすいからだ。
魔法名を唱えないと発動まで時間がかかってしまうのだ。
僕も例外ではない。
また、魔法を発動したい場所に手を向ける。
これも発動させる場所のイメージが固めやすいからだ。
星は魔法名を聞いたり、手の動きを見て、ある程度予測をしながら対応しているのではないか?僕は魔法名を唱えずに魔法を発動して星の様子を見てみることにした。
僕は頭の中で「雷針」を唱えた。
星の周りに電撃の針が発生して星に向かって飛んでいく。
「おっ」
と言いながら星は電撃の針をかわしたが、ひとつだけ擦り星の服が切れた。
明らかに今までよりも反応が遅い。
いけるかな?と僕は思った時に星は言った。
「あの泥沼だけで気づいたか。やるじゃねぇか。でもな言葉にしないと発動は遅くなり、諸々の精度も落ちるだろ。それじゃあ俺っちには通用しないぜ」
星は僕がエネルギーの感度に気づいた事を悟っていた。
さすがに戦闘経験が豊富なだけはある。
「さぁね?なんの事かわからないね」
と僕はとりあえずとぼけてみた。
「まぁおいおいわかるだろ」
と星が言った時だった。
ゴォォォォ
離れたところにある緑柱が突如青白い光を放ち始めた。
「なっ」
僕は何が起きたのかわからず驚いた。
「さぁ始まるぜ。たらたらしていると俺っちを倒しても間に合わないぜ」




