6、転移者保護施設
ベネットさんはマーサさんを呼ぶと、僕たちがしばらくこの施設に滞在することを伝えて、部屋に案内するように指示をした。
そして
「困ったことがあったら私かマーサに言ってくれ」
と言ってベネットさんは部屋を出ていった。
「ではお部屋を案内いたしますので、ついてきてください」
とマーサさんは言って部屋を出ていく。
僕たちはマーサさんについていった。
施設は僕たち3人にそれぞれ個室を用意してくれた。
部屋は概ね5帖くらいの大きさだった。
ベットもあるし充分すぎる対応だなと思った。
また、マーサさんは僕たちに洋服を2着くれた。
いつまでも制服のままでは目立ってしまうので大変ありがたい。
洋服はチュニックのような上着とズボンだった。
街を歩いていた時に見た人たちと似たような感じだ。
着替えが終わったら、マーサさんがひと通り施設を案内してくれるそうだ。
僕は着替えを終えて廊下に出た。
すぐに姫乃先輩と芽衣も部屋から出てきた。
女性陣は地味な色のワンピースのようなものに腰にベルトのようなものを巻いていた。
姫乃先輩も芽衣もよく似合っていた。
やはり綺麗な人は何を着ても綺麗だなと思った。
「揃ったので行きましょうか」
マーサさんは言いながら歩き始めた。
まず向かったのはトイレだった。
もちろん水洗ではない。。。
次に井戸。
飲み水は井戸から汲むそうだ。
次に食堂。
食事はみんな同じ場所で取るようだ。
1日3回食事の時間が設けられてらいるが、食べるか食べないかは自由らしい。
次に水浴び場。
湯船やシャワーは無いので、井戸から水を汲んできて、タオルで体を拭くのが一般的だそうだ。
残念ながら男女別になっているため、水浴び場で姫乃先輩とばったりなどのラッキースケベは見込めそうも無い。
芽衣が
「残念だったね。」
などと言っているが、相手にしないことにした。
入口付近の受付があった場所。
テーブルがいくつか置かれていたが、そこはコミュニケーションの場のようだ。
来た時は誰もいなかったが、今は数人が談笑している。
そして修練場だ。
修練場は目的に応じて多数に分かれていた。
武器などを使い物理攻撃を修練する場所、魔法を修練する場所、スキルを修練する場所、模擬戦を行う場所などの戦闘系から料理、裁縫や農作物、皿などの器などを作ることを学ぶところもあった。
それぞれの場所に指導者のような人もいて、学校のようだと思った。
この施設は想像していた以上に規模が大きい。
それだけ、この国は転移者の能力に期待しているということだろうか。
だとすれば、僕にもスペシャルな能力があるのではなかろうか。
僕は厨二心をくすぐられ直ぐにでも訓練をしたいと言ったが、明日からにしようということになった。
ひと通り施設を案内してもらった後、僕たちは食堂に戻ってきた。
「夜の食事は18時からになりますので、それまでゆっくりしていてください」
とマーサさんは言って別の業務に向かった。
AEは時間の概念も元いた地球と同様のようだ。
食堂には振子時計があり、今は16時を差していた。
僕たちは各自の部屋で食事の時間までくつろぐことにした。
僕は自室に戻るとベットに横になった。
これからどうするか考えようとしたが、疲れからか直ぐに寝てしまった。
ドンドンドン。
ドアをノックする音に僕は目を覚ました。
「勇っちーご飯の時間だよー」
芽衣が呼びに来てくれたようだ。
部屋を出ると姫乃先輩も来ていた。
僕たち3人は食堂に向かうことにした。
食堂に着くと既に他の人達が集まって、食事をしていた。
夕食はビュフェ形式で食べたいものを皿に盛り付け、自由に食べ始めて良いスタイルのようだ。
僕はこういう時は全種類食べたくなるタイプだ。
少量ずつ全てのおかずをお皿に乗せて席に着く。
ちょうど4人がけの席が空いていたようで、姫乃先輩が席を取っていてくれた。
姫乃先輩は野菜中心、肉少なめの盛り付けだった。
「先輩席取ってくれてありがとうございます」
「うん。勇くんたちは盛り付けに時間がかかりそうだったからね」と姫乃先輩はクスッと笑った。
先輩を見て僕は笑った先輩は天使のように可愛いなと思い見惚れていると
「おまたせー!」
と言いながら芽衣が料理を持ってやってきた。
芽衣のお皿には肉ばかりが山盛り乗っていた。
3人そろったので食べ始める。
「いただきます!」
「うん。おいしい!」
AEの食べ物は元の世界とそれ程変わらない。
中には見たことがない食材もあるが、唐揚げやソーセージ、卵焼きなど慣れ親しんだものが多かった。
「このキノコも美味しいよー」
姫乃先輩もご満悦だ。
「何?このお肉めちゃくちゃやわらかーい」
芽衣はそう言いながらすごいスピードで食べていた。
食事も終わり、お茶を飲みながらひと息ついていた時だった。
「あっ勇お兄ちゃん!」
と声をかけられた。
声の方を振り向くと昼間道であった空が立っていた。
「へへっまた会ったね!ここでまた会えると思ったんだ」
「空くんか。空くんも施設にいたんだ。」
「空でいいよ。言うとおり僕も転移者なんだ。勇お兄ちゃんも昼間は制服みたいな服を着ていたから転移者じゃないかと思ったんだ。」
空は12歳の時に転移して今は14歳。
約2年前に転移してきたそうだ。
幼くしてこんな過酷な状況でも明るく元気な空はすごいと思った。
空は冒険者ギルドに登録していて、探し物などの依頼をこなしてお金を稼いでいるそうだ。
僕も落ち着いたら冒険者ギルドに行こうと思っていたことを話すと、その時は案内してくれると約束してくれた。
僕たち3人は明日は修練場に行くことにして、それぞれの部屋に戻り眠りについた。