57、アリサ
僕は牛肉の串焼きの入った袋を両手で持ち村に向かう。
少しでも温かいまま配ろうと思い「跳躍」を使って急いで向かっていた。
それでも数時間はかかってしまうが、、、
「ウフフ。楽しかったなぁ」
僕は楽しかったイサミンたちとの食事や師匠とのやりとり、村のみんなの喜ぶ顔を想像しながら旅路を急ぐ。
今回は道に迷わずに村に戻る事ができそうだ。
「もうそろそろだなー」
そろそろ村が見える。
「ん?」
村が見えてくると、村のあちらこちらから煙が上がっていた。
「えっ?何が起きてるの?」
と言って僕は村へ急いだ。
ジャンプを繰り返して村に急ぐ。
「何で僕がいない時に限って事件が起きるんだ」
と言いながら進み、村の入口に着地した。
「なっ」
僕は絶句して、持っていた村の人たちへのお土産を地面に落とした。
「グワァァァ」
「ギャー」
村では賊が村の人を襲っていて、村の人たちは悲鳴を上げて逃げ回っている。
辺りを見回すと至る所に人が倒れていた。
賊は全員黒い服装をしている。
「黒の組織、、、なんで?」
と僕は状況が理解できず呆然とした。
「はっ。みんなを助けないと」
と僕は我に返り行動に移す。
「雷針」
僕は電撃の針を村の人を追いかける賊に向けて放つ。
「グァァ」
雷神は賊に突き刺さり、賊は倒れた。
「ウィンか。助かったよ」
と村の人が言ってくる。
「状況を教えていただけますか?」
と僕は言った。
「1時間ほど前に急に軍隊が押し寄せてきたんだ。話をする間もなく問答無用で村の人たちを襲い始めた。戦えるものは応戦しているが、実力差がありすぎる」
と答えた。
「ありがとうございます。僕が全員倒しますので、どこかに隠れてください」
と言うと、
「いつもウィンにはこういう役割ばかりお願いしてしまってすまない」
と言ってその場を離れていった。
僕は村の中心に向かいながら、出会った敵を倒していく。
「雷針」電撃の針が敵に突き刺さる。
「雷針」次の敵にも雷針を放ち無力化する。
「雷針」家屋などの影響を考えて、僕は雷針で敵を倒していった。
敵を10人くらい倒した頃、僕は村の中心近くにたどり着いた。
そこで僕はアリサさんを見つける。
アリサさんは戦える人ではないはずだが、手には剣を持っていた。
必死だったのだろう。
「アリサさん!」
僕はアリサさんに声をかけると、アリサさんは驚いた表情をして言った。
「ウィンちゃん。どうしてここに、、、盗賊討伐に行っているんじゃないの?」
僕は何でアリサさんが盗賊討伐の事まで知っているのかな?と思ったが、ギルドから村へ話が行ったのかと思った。
「はい。討伐は完了して村に戻ってきたところで、こんな大変な事になっているとは、、、」
と僕は言った。
「そうなのね」
と言いながらアリサさんは僕に近づいてきた。
グザッ
「えっ?」
アリサさんは僕の目の前までくると、僕の腹に剣を突き刺した。
「ごめんね」
とアリサさんは言って、僕の腹に刺さった剣を引き抜いた。
ブシャァァァァア
僕の腹から血液が噴き出す。
「なっ。なんで、、、」
と言いながら僕は膝をついた。
「ウィンちゃん。ごめんね」
と言いながらアリサさんは剣を振り上げる。
僕は咄嗟に魔法を放った。
「火炎弾」
放った魔法はアリサさんに直撃して、アリサさんは燃えながら吹き飛んだ。
「ギャアア」
アリサさんが吹っ飛んだ先で悲鳴を上げながら転がり回っている。
僕は「ハイケア」を唱えて自分の傷を治した。
アリサさんは火は消えたものの、吹っ飛んだ先で倒れたままだ。
「咄嗟で手加減ができなかった。アリサさん生きてるかな」
僕はアリサさんに近づいていった。
「ううう」
アリサさんは地面に倒れて呻いている。
意識はあるようだ。
僕は回復魔法を使おうとアリサさんに手を向けると、
「止めてちょうだい。私はあんたを刺したんだよ。村を売ったんだよ」
と言ってきた。
僕は一瞬動きを止めたが、アリサさんの言う事に構わず魔法を唱えた。
「フルケア」
アリサさんを光が包み、傷が治り始めた。
「なんで?」
アリサさんは僕の行動に戸惑いをみせる。
「アリサさんにどういう事情があって、どんなことをしたのか僕にはわかりません。ただ、このままアリサさんが亡くなってしまうことがどれだけ悲しいかはわかるので」
と僕は言った。
「・・・」
アリサさんは驚いて言葉を失っていた。
「アリサさん。僕は村を救いたい。この村で何が起きているのか教えてください」
と僕が言うと、アリサさんは少し考えてから話し始めてくれた。
「私は黒の組織側の人間なのよ。この村には今日この日のために潜入していたの。まぁスパイのようなものよ」
とアリサさんは言った。
「黒の組織は何が目的でそんなことを?」
と僕は聞いた。
「緑柱の解放と聞いているけど、詳しい事はわからないわ」
とアリサは答える。
「やっぱり柱が関係しているんだね」
と僕は言った。
「アリサさんはどんな役割をしていたの?」
と僕は聞くと、
「私は黒の組織の村への誘導とあんたの排除が任務だったの。あんたを殺すのは無理だと思ったので、薬を取りに行かせたりギルドの依頼を受けてもらったりで村にいない時を狙うことにしたの」
とアリサさんは言う。
「じゃあこの前の魔獣の襲撃も?」
と僕が言うと
「そう。黒の組織の差金よ」
と答えた。
「最後にもう一つ教えてください。お子さんはどうしていますか?」
僕はお子さんの事が気にかかっていたので聞いた。
「あの子も組織の人間で本当の私の子じゃないの。本当は病気でもないし、もうこの村にはいないわ」
とアリサさんは答える。
「そうですか」
何もかもが嘘なのだと僕は少しショックを受けた。
「私が知っている事はこれくらいよ。さぁ殺して」
とアリサさんは言う。
僕は少し考えてから言った。
「んー。アリサさんには何かしら罪を償ってもらうと思いますけれど、殺してしまうのは違うと思うんだよなー。なのでアリサさんは隠れていてください。今後のことは後で考えましょう」
アリサさんは驚いた表情を浮かべていた。
「じゃあ僕は村の人たちを助けに行ってきますね」
と言ってその場を去ろうとした時、
「しねぇー」
と家の陰から敵が叫びながら飛び出してきた。
敵は剣の先を僕に向けて、突進してくる。
やばいっ。
僕は咄嗟のことに反応ができず目を瞑った。
グザッ
「ううう」
僕は恐る恐る目を開けると、アリサさんが身を挺して僕を守ってくれていた。
アリサさんの胸を敵の剣が突き刺さり、背中から突き抜けている。
「アリサさん!」
僕は叫ぶと、
「ウィンちゃん。いろいろありがとう、、、」
と言った。
敵はアリサさんから剣を引き抜いて僕に斬りかかる。
剣を引き抜かれたアリサさんはその場に崩れた。
「雷針」
と僕は魔法を唱えて電撃の針で敵を貫いた。
敵は剣を振う事なく倒れた。
「アリサさん!」
僕はすぐにアリサさんの元に駆け寄ったが、すでにアリサさんは生き絶えていた。
もう僕の魔法ではどうにもならない。
「アリサさん。どうして、、、」
僕の目から涙が溢れた。




