54、友達
僕はハロルドを見逃した後に一晩ぼんやりと空を眺めていた。
いろいろ考えたが答えは何も出ない。
そうしているうちに夜が明けてしまった。
「ベルンの冒険者ギルドに戻って依頼の報告をしないと」
いつまでも考えていても仕方がないと思い僕は立ち上がった。
念の為に残党がいないか村の中を確認する。
黒の組織の亡骸と寂れた家屋ばかりで、辺りはしんと静まりかえっている。
寂れた家屋も大半のものが、半壊または全壊という状況で、自分がやったこととはいえ申し訳なく感じた。
「よし。残党もいないようだし、ベルンに戻ろう」と言ってから
「跳躍」と魔法を唱えてジャンプした。
僕はほとんど時間をかけずにベルンの街に到着した。
僕は早速依頼の報告のため、冒険者ギルドに向かう。
・・・・・・・
1時間以上かかって僕は冒険者ギルドに到着した。
また道に迷って、通りすがりの人に道を聞きながらようやく辿り着いた事は内緒の話。
冒険者ギルドに入ると僕は真っ直ぐに受付に向かった。
ギルド内では、相変わらず僕をチラチラと見ながら、コソコソ話している様子だが、僕は無視して受付に向かう。
受付の前まで行くと、受付嬢が言った。
「ウィン様お待ちいたしておりました。本日は依頼のご報告でよろしいでしょうか」
「うん」
と僕は答えた。
「ありがとうございます。ではギルド長を呼びますので、奥の部屋でお待ちいただけますでしょうか」
と受付嬢は言った。
「はーい」
と言って僕は奥の部屋に案内してもらった。
僕は奥の部屋に入り、依頼を受けた時と同じ席に座った。
すぐに紅茶が運ばれてきた。
好きな紅茶だが今はあまり美味しく感じなかった。
少しの間待っているとギルド長のハルマンさんが入ってきた。
「ウィン様。この度は依頼をお受けいただきありがとうございました。して今回は依頼完了のご報告ということでよろしいでしょうか?」
席について早々にハルマンさんは聞いてきた。
「うん。そうなりますね」
と僕は答えた。
「ではご報告をお願いいたします」
とハルマンさんは言った。
僕は紅茶を一口飲んでから話をした。
「指定の村に行くと、依頼のとおり盗賊がいました。ひとり取り逃しましたが、他の盗賊は全員倒しました。もうあの村を拠点として悪さをする事はできないでしょう」
と僕は報告した。
「そうでしたか。ありがとうございました」
とハルマンさんは言った。
「とここまでは依頼の報告ですが」
と僕は言った。
「やはり何かありましたか?」
とハルマンは答えた。
「盗賊は実は黒の組織の者たちでした」
と僕が言うと
「やはりそうでしたか。そのような噂もちらほらありましたからな」
と言うハルマンさんは、黒の組織の関与が確実となり驚いていた。
「それで黒の組織の目的なのですが、僕を殺すための依頼だったようです。恐らくですが、依頼主のブルマンという方もグルだと思います」
と僕が言うと
「なんと!そのような裏がありましたか。それは大変申し訳ございませんでした。真意を見抜けなかったのは、このギルドの不手際でございます。ブンマン様への対応はギルドが責任を持って行います」
とハルマンさんは言った。
「お願いします。あと黒の組織は柱の解放を目指していると言っていましたが、何が知っている事はありますか?」
と僕は聞いた。
「んー」
とハルマンさんは少し考えた後に言った。
「申し訳ございませんが、私には詳しい事はわかりませんな」
「そうですか。なら大丈夫です」
と言うと
「では報酬の金貨100枚です。また、今回のギルドの不手際のお詫びとして、金貨10枚を上乗せさせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします」
とハルマンは言って、金貨の入った袋を渡してくれた。
僕は枚数を数えてから言った。
「確認しました。ありがとうございます。ブルマンさんの対応もお願いしますね」
「責任を持って対応をいたします」
と回答をもらい僕はギルドをでた。
僕はギルドを出てから街をぶらついていた。
依頼の報酬が多く貰えたので、美味しいものを食べようと思ったのと村の人にお土産を買うことにした。もう夕方なので今日はこの街に泊まって、明日村に帰ろうと思っている。
「何食べようかなー」
と歩いていると、砦の跡地で助けた2人組が歩いていた。昨日あんなことがあったので仕方がないと思うが暗い雰囲気で歩いていた。
僕は神様が与えてくれたチャンスだと思った。
声をかけて一緒に食事をしよう。
そして友達になりたい!と思ったが、
「でもいきなり声をかけて、食事を誘ったら変かな?」
などと考えてしまい、誘う勇気が出ない。
どうしよう。どうしよう。ともじもじしていると、2人は角を曲がってしまった。
「あぁぁ。せっかくのチャンスがぁ」
と思い、僕は何も考えずに走って後を追った。
僕は走りながら2人の後を追い、角を曲がろうとした時、
ドンッ
「わぁっ」
「きゃあ」
と僕は角から出てきた人とぶつかってしまった。
「いてててて」
僕は尻餅をついて、ぶつかった箇所をさする。
「すっすみません」
とぶつかった男の人は慌てて手を差し伸べてくれた。
僕は出された手を取り、起き上がらせてもらいながら言った。
「いえいえ。僕が不注意でした。ごめんなさい」
と手を差し伸べてくれた人を見ると、あの2人組の男の人だった。
僕の顔は途端に赤くなり、予期せぬ事に頭の中がぐるぐる回った。
「あっあの!ごめんなさい。慌て前をよく見ていなくて」
と僕はとりあえず謝罪をした。
「いえいえ。こちらもすみません」
と男の人も何故か慌てている。
「こちらも不注意に出てしまってすみませんでした」
と女の人は落ちついて話をしてくれた。
「・・・あのぉ」
と僕は勇気を振り絞って言った。
「もし。もしですよ。もしよければ、これから一緒に食事にいきませんか?ぶつかってしまったお詫びもしたいし、以前道を教えてもらったお礼もしたいし・・・」
「・・・」
2人組は沈黙している。この沈黙の時間が僕には永遠のように長く感じた。
「あのぁ」
男の人が申し訳なさそうに話し始めた。
あぁこの雰囲気はお断りだ。
せっかく勇気を出したのにと僕は思った。
「僕たち実はいろいろあって、とても落ち込んでいるんです。今も2人で景気付けに食事に行こうとしていて、そこのお店に入ったのですが、満席で断られてしまって・・・」
さらに男の人は続けた。
「見たところ同じくらいの歳ですよね。僕たち同じ歳くらいの友達はまだいなくって。だから。その。うまく言えないんですけど、お詫びとかお礼とかじゃなくて、友達として食事に行きませんか?」
僕は想像していたのと違った答えに目を見開いた。
「姫乃先輩もいいですよね?」
と男の人は女の人に聞いた。
「もちろんだわ。ねぇお名前教えてくれるかな?」




