50、盗賊の村
僕は森の中の少し高いところから村の様子を見ている。
ここからでは全体を見渡す事はできず、せいぜい村の入口付近の様子が伺える程度だ。
見える範囲では10人弱の盗賊が歩いている。
もたもと人が住んでいた村だったと聞いていたとおり、家屋が点々と建っている。その家屋は手入れがされていないためかボロボロの物が多かった。
「割と広い村だね」と僕は言った。
「もう使われていない村って言っていたから壊しちゃってもいいよね」
僕は村の近くまで進んでから、「よし」と言って頬を両手で軽く叩き気合いを入れた。
「やるぞぉ!」
「炎弾」
僕は20個くらいの小さい火球を作り、一気に村へ放った。火球は村の各所に命中し、火の手が上がる。
「敵襲だ」
盗賊たちが慌てだす。
「炎弾」
さらに20個くらいの火球を出して再び放った。
たちまち村は火の海となった。次々と上がる火の手に盗賊は最初は逃げ惑っていたが、落ち着きを取り戻したのか統率された動きで消化作業に当たり出した。消化作業を行なっていない盗賊は僕を探し出そうとしているようだ。
「なかなかに訓練されているようだね。簡単には行きそうにないな」
と僕は言った。そして、
「そろそろ行きますか」
と言って「跳躍」を唱える。
僕はジャンプして、盗賊たちの中に降りたった。
「なんだお前は!!」と盗賊が叫んでくる。僕は無視して魔法を唱えた。
「金平糖」複数のエネルギーの塊が発生する。
「発」と僕が言うと、エネルギーの塊から無数の針が伸びて、盗賊たちを次々と突き刺した。
「ぐわっ」
「ぎゃぁぁ」
「うぐっ」
針に刺された盗賊が次々に倒れて行く。
「相手は魔導士だ!増援を、対魔団を呼べ!」と盗賊が叫ぶ。
「魔導士じゃなくて魔法創造士だけどね」と言った後に
僕は「雷針」を唱えて、叫んでいる盗賊を含めた数人を雷撃の針で串刺しにした。一本でも刺されば体中に電撃が走り、普通の人間であれば命を奪うことができる程度の威力はある。
僕は残りの盗賊に向かって、立て続けに「雷針」を放った。
悲鳴をあげて倒れて行く盗賊たち。
しばらくすると、僕の周りに立っている盗賊はいなくなっていた。
僕は入口付近にいた盗賊を全滅させた後、歩いて村の奥に向かった。
「思ったとおり結構広い村だね」と言いながら進んでいくと、20人くらいの黒ずくめの部隊が現れた。上から下まで真っ黒の服で統一された部隊。
そうこの人たちは盗賊なんかじゃない。明らかに訓練された部隊だ。
「キミたちはなんなのかな?」僕は聞いた。
「盗賊だよ」とリーダーらしき奴がニヤけながら答えてきて、さらに
「お前ウィンで間違い無いか?」と聞いてきた。
「そうだけど、何で僕の名前を知っているのかな?」と聞き返すと
「さあな」と言ってはぐらかしてきた。
「まぁ何か理由があるにしても、盗賊なら僕の討伐対象だね」と言って僕は魔法を唱える準備をする。
「そう言う事だ」と言って相手も構えてきた。
「かまいたち」
僕は魔法で先制攻撃をした。真空の刃が発生して、敵に襲いかかる。
するとリーダーが首飾りを手に持って前に出した。
「イレイス」
とリーダーが発声すると首飾りが光だした。
途端に僕の放った魔法が消え失せた。
「えっ?」
僕は魔法が消失した事に驚いた。
「ふふふ」
とリーダーは余裕の笑みを浮かべている。
僕は状況を確認するために、もう一度魔法を放った。
「火炎弾」
大玉の火球がリーダーに向かって飛んでいく。
リーダーは先ほどと同じように、首飾りを手に持って前に出して、
「イレイス」
とリーダーが発声した。すると首飾りが光だし、僕は魔法が消失した。
僕は確信した。あの首飾りによって魔法がかき消されている。
周りを見ると、部隊の隊員各自が同じ首飾りを身につけていた。
「準備万端ってわけだね」
と僕は言った。どんな裏があるのかはわからないけれど、この盗賊たちは僕が来ることを知っていて、僕を倒すための準備をしていたことは確実だ。
「キミたちは黒の組織かな?」僕はカマをかけてみた。
「なんだ。そこまで察しがついているのか。だったら隠す必要もないな」とリーダーは言ってから続けた。
「お前の言うとおり俺たちは黒陽(黒の組織)の者だ。俺たちの組織ではお前の存在が少しばかり邪魔みたいでね。お前を殺すように指示を受けている」
「何で僕が邪魔なのかな?」と僕は聞いた。
「知らねえよ。俺たちはお前を殺すように指示されているだけだからな」とリーダーは答えた。
「そっか。じゃあ他に聞くこともないか」
これ以上は聞き出す事もないかなと思って僕は答えた。
「つー訳だから死んでくれよ」
とリーダーは言いながら手を上げた。
すると部下たちが広がり、一斉に魔法を放ってきた。
火球や氷の塊などが僕に向かって飛んで来る。
「結界」僕は結界を張って魔法を防いだ。魔法自体は大した事はなく、僕の結界で十分に防ぐことはできた。しかし、
「イレイス」
とリーダーが発声し、僕の結界がかき消された。
「うわっと」
僕は慌てて後ろに飛び何とか魔法を回避することができたが、バランスを崩してよろける。立て続けに次の魔法が飛んで来るのを横に飛んでかわした。それでも魔法の雨は止まず、次の魔法が飛んで来る。
「氷壁」
僕は氷の壁を作って魔法を防いだ。一時凌ぎなのはわかっている。
「イレイス」
たちまち氷の壁が消失するが、その間に態勢を立て直して魔法をかわす。
さらに追い討ちをかけてくる黒の組織。僕はたまらず「跳躍」で距離をとった。
「ふぅ。あっぶなかった」
と僕は言った。
「このままじゃまずいな。僕は身体能力は普通の人と変わらないんだから無理させないでよ」と独り言を言う。実際にかなり危なかった。このままだと攻撃を受けてしまうのは時間の問題だ。
さてどうするか。魔法は発動できないわけではない。イレイスの効果に触れると消えてしまうのだ。
「だったら、消される前に当てるだね」
僕は魔法を唱える。
「鉛筆」
グザァ!地面から先端が尖った石が飛び出し、ひとりの心臓を貫く。
「鉛筆」グザッ!
「鉛筆」グザッ!
立て続けに魔法を唱えて、計3人を倒す事に成功した。
4人目。
「鉛筆」と僕が魔法を唱える。
すると狙われたのを察知したのか地面に向けて、イレイスを唱えて「鉛筆」をかき消した。
うん。対応の軌道修正も速い。やるなぁ。
「じゃあこれはどうかな」と言うと僕は魔法を唱えた。
「かまいたち」風の刃が広範囲に敵を襲う。
「イレイス」敵は複数人で魔法をかき消そうとするが、僕はそれと同時に
「鉛筆」と魔法を唱えて敵を貫いた。
「鉛筆」と2発目も敵を貫く事に成功したが、その時点で「かまいたち」は消失していた。しかし、僕は続け様に魔法を唱える。
「火炎龍」地面から炎の竜巻が巻き起こる。竜巻に巻き込まれた5人は、体を燃やされながら、上空に押し上げられた。
上空から放り投げられて、地面に叩きつけられる頃には真っ黒の消し炭と化していた。
半数くらいに減らされた黒の組織のリーダーは部下たちに指示をすると、部隊の体制を変えた。
半数の部下たちが剣を抜く。剣と魔法の両方で攻撃をしてくるようだ。
切り替えの判断も早いし、戦術の変更にも対応できる練度かぁ。
「やりにくいなぁ」と僕は言った。




