5、AE
パンが食べ終わり、しばらくすると恰幅の良い中年の男性が部屋に入ってきた。
その男性はこの施設の責任者でベネットと名乗った。
ベネットさんは僕たちの向かい側に座り、一息ついてから僕たちに聞いてきた。
「君たちは地球から来たのかね?」
ベネットさんの問いかけに僕たちは頷いた。
「そうか。それは大変な思いをしたね。衛兵達から少し話を聞いたようだが、ここは地球ではない。まぁ正しくは君たちの知っている地球ではないというところか。」
僕たちの、頭に?マークが浮かぶ。
「実はここも地球なのだよ。昔この地球と君たちのいた地球は一つだったが、大規模な異変により分離されたのだ。分離といっても、割れたりしたのではなく、存在が別れた。だいたい3000年ほど前のことだと言われているね。」
3000年前と言うと、同じ時間軸であれば僕たちがいた地球では紀元前10世紀くらいかな。
日本では縄文時代だったかな?
僕はそんなことを考えてながら話を聞いていた。
ベネットさんは続ける
「そして別れた地球は別の時空で存在しており、君たちのいた地球では科学が、この地球では魔法やスキルとそれぞれの進化を遂げていったのだよ。
君たちのいた地球ではみんな知らないようだが、こちらの地球では子供でも知っている歴史なのだよ。」
「ちなみにこの地球は君たちがいた地球から別れて生まれたため、この地球をAE(another earth)と呼んでいる。」
「だから言語や環境などは君たちのいた地球とそれほど変わらないみたいだ。まぁ私も君たちの世界に行ったことはないから聞いてる話しだがね。」
ベネットさんは地元の有力者だそうだ。
ここ数年地球からの転移者が多くなってきていて、多くの転移者が突然の環境に対応できず命を落としてしまった。
その状況を改善しようとして転移者保護施設を開設したそうだ。
この施設では転移してきてしまった人たちを一旦保護し、この世界で生きていく知識と力を身につけさせてくれるらしい。
現在はこの施設に60人くらいの転移者が生活をしており、各自それぞれ何かしらの特技を学んで、生活力がついたら独立していくそうだ。
「大変ありがたいことなのですが、資金繰りなどは大丈夫なのでしょうか?」
姫乃先輩が聞いた。
「もっともな質問だね。実は転移者は強力なスキルを持つ者も多く、転移者を育てることが王国の強化につながるんだ。この施設を出て王国の兵になる者も少なくない。だから、国から多くの援助金が出ているのだよ。また、独立できるようになる前でも、自分の作品を売ったり、作物を育てたり、冒険者ギルドで依頼をこなしたりして、稼いだお金の一部をこの施設に入れてくれる者もいるのだよ」
その後もベネットさんは様々なことを教えてくれた。
▪この国はナパン王国という大国で、この街はナパン王国では3番目に大きいベルンという街である。
AEは多くの王国が存在する模様。
もとの地球とは大陸の構成などは大きく違っている。
原因は地球の分裂時の影響であると伝えられているそうだ。
▪AEも人間の世界であるが、魔獣も存在している。(遭遇したオオカミはストロングウルフという魔獣らしい。)
魔獣は森などに住むものが多いそうだ。
基本的には知能はそれほど高くはないようだが、中には人間の言語を扱う魔獣もいるそうだ。
言語を扱う魔獣は通常の魔獣よりも大きな力を持っているものが多い。
▪AEにはスキルと魔法があるらしい。
スキルは必ず1人一つは持っており、二つ以上持つものもいると言われている。
ただし本能で最初から使える人もいれば、何かのきっかけで使えるようになる人もいる。
人によっては一生何のスキルを持っているのかわからない人もいるようだ。
ただし、戦闘向きなスキルを持つものは稀で、転移者は戦闘向きのスキルを所持している割合が多いそうだ。
ちなみにベネットさんのスキルは書物を読むスピードが速くなるスキルとのこと。
また、魔法を使うには適正があり、適正があるものにしか魔法は使えない。
この施設ではスキルや魔法の訓練を行ってくれるそうだ。
この施設にいるのであれば行ってみなさいと言ってくれた。
▪基本的に元いた地球と、AEは別の時空となり、行き交うことはできないが、時々時空の歪みが発生し、巻き込まれたものが転移をしてしまうらしい。
原因は不明であるが、最近は頻繁に発生しているそうで、何かの予兆ではないかと調査を行っているらしい。
▪元の地球への戻り方は不明。。。。
ベネットさんから聞いた話はどれも衝撃的なものばかりだった。
とりあえず簡単に元の地球に帰れそうにはない。
何とかこのAEで生き抜いて元の地球に帰る方法を探さなければならない。
ベネットさんは僕たちにしばらくこの施設に滞在して、AEでの生活力を身につけてはどうかと言ってくれた。
行く当てもない僕たちにとってはとてもありがたい話で、満場一致でしばらくはこの施設でお世話になることにした。