46、一人じゃない
「よくやったぞ!!足を立たせないように引っ張れ。もう少しだぞみんな頑張れ!」
ハビロの声が響く。
村の人たちはジャイアントアーケロンが起き上がらないように必死に足に縛りつけたロープを引っ張る。
他の村人たちは少しでも早く血をなくす為、必死に傷をつけていく。
僕はこんな状況にもかかわらず。嬉しかった。わくわくした。
今まではいつもひとりで戦ってきた。
それが当たり前だと思っていた。
僕が全てを背負わないといけないと思っていた。
でも今は違う。
今は村の人たちが一緒に戦ってくれている。
それはこんなにも心強いものなのか。
みんなと力を合わせるということは、こんなにも心が躍るものなのか。
「僕は一人じゃないんだ!」
僕は涙が溢れて止まらなかった。
村人たちの攻撃により、ジャイアントアーケロンは明らかに弱ってきていた。
もう少しだ。僕も休んでいたおかげで、少し力が戻ってきた。
「よし。もうひと踏ん張りだ」僕は立ち上がった。
ジャイアントアーケロンに近づいて魔法を放つ。
「鉛筆」地面から先端が尖った石が飛び出し、ジャイアントアーケロンの腹に突き刺さった。
「グォォォォォ」始めてジャイアントアーケロンが悲鳴をあげた。
鉛筆の傷口からは大量の血液を吸い込み始めている。
ジャイアントアーケロンは村人たちが引っ張っていない方の前足の膝も地面についた。
「もう少しだぞぉ。がんばれー」村人たちの間でも声をかけ合い指揮が上がる。
「いいなぁこういうの。体に力が漲ってくるようだよ」と僕は言った。
僕は魔法を発動するために力を溜める。
「跳躍」僕は魔法を放つために、ジャイアントアーケロンの頭上までジャンプした。
ジャイアントアーケロンの頭部を目掛けて魔法を放つ。
「アルマス」
僕が魔法を唱えると、巨大な氷の刃が出現する。僕の使用する氷系の魔法では1番の攻撃力を誇る魔法だ。
名付けはやはり師匠で、師匠の地元の有名な武器の名前が由来だそうだ。
僕はジャイアントアーケロンの頭に目掛けて氷の刃を放った。
ゴォォォォ
巨大な氷の刃が、ジャイアントアーケロンの頭部を目掛けて飛んでいく。
グザッッ!!
氷の刃はジャイアントアーケロンの頭に刺さり、顎をつき向けて大地に突き刺さった。
「グォォォォォ」
それでもジャイアントアーケロンは倒れず、剣を抜こうともがく。
吸血が氷の刃の傷口からは大量の血液を吸い込み出す。
ドォォォォン
そしてついにジャイアントアーケロンは倒れた。
「やったぞぉぉぉ」
村人たちの間で歓声が上がる。
村人たちは抱き合いながら勝利を喜んでいた。
「やった。村を守れた」
僕もグッと拳を握り勝利を噛み締めた。
「ハビロさーん。倒しましたよ!村を守れました。ハビロさん助けにきてくれてありがとうございました」と言いながら近づいて言った。
ハビロさんは座り込んでいた。
「ハビロさーん」ハビロから返事はなかった。
「ハビ・・・」僕は気づいた。ハビロさんはもう動かない事を。
涙が頬を伝った。でもシャンとしなくてはいけない。泣き崩れてはいけない。ハビロさんはそんなことを望んではいない。
「ハビロさん。ありがとうございました」
僕は涙を拭ってから、ハビロさんに向かって深く頭を下げた。
村の人たちも集まってきた。
村の人たちもハビロさんの死を悲しんだ。そして、みんなが助けにきてくれたのはハビロさんがみんなを説得してくれた事を知った。
「ハビロさん。改めてありがとうございました」僕はハビロさんにお礼を言った。そして村の人たちにも
「皆さんも助けに来てくれてありがとうございました。僕は少し魔法が得意だからと何でもひとりでやろうとしていました。でも皆さんが来てくれた時は本当に嬉しかったです。何だか力が湧いてくるようでした。これからは何ごとにも皆さんに相談させてください。本当にありがとうございました」と僕は頭を下げた。
「ウィン。俺たちもお前に頼りすぎていた。ハビロから言われたんだ。自分たちの村を自分たちで守れなくてどうするってな。これからは俺たちも村を守るために力を尽くすぜ」と言った。
僕たちはまずは教会に向かって神父様に報告した。
神父様は多くの犠牲があった事を悲しむと共に、村の危機を乗り越えた事を喜んでくれた。
「神父様。アリサさんはいましたか?」僕は聞いた。
「見ておらんのう」と神父様は言った。
僕がアリサさんを探しに教会を出ようとするとアリサさんが入ってきた。
「アリサさん。どこにいっていたのですか?探していたのですよ」と僕は言った。
「あぁ。魔獣が襲ってきたと聞いたから隠れていたのよ。探してくれていたのね。ごめんなさい」とアリサさんは言った。
「空清草をとってきましたよ。お子さんは大丈夫ですか?」と僕は言いながら空清草を差し出す。
「あっあぁ。大丈夫よ。薬草取ってきてくれてありがとうね」とアリサさんは言って、僕から空清草を受け取った。
その後僕たちは死者を弔った。
村人たちの亡骸を集めて火葬をした後に、ひとりひとりのお墓を建てる。
村人の死者は数十人に登った。
僕はお墓の前でハビロさんに語りかける。
「ハビロさんこれからも村を守るためにがんばります。僕はもっと強くなりますから、安らかに眠ってください」
しばらくの間は復興作業が続いた。
少しでも早く村の人たちが元通りの生活を送れるようにしていかなくてはならない。
壊れてしまった家も多くあり、村人総出で家を建て直している。
僕は家を建てる事はできないので、もっぱら木材の調達だ。
「かまいたち」の魔法で木を切り倒す。
切り倒した木を村の人が木材に加工して村へ持って帰るという流れで作業を行っていた。
そこで僕は「浮遊」という魔法を創造した。文字通り物を浮かせる。これで木材の運搬は非常に楽になったようだ。
村の復興作業がひと段落し、落ち着いた生活を取り戻すまでに数ヶ月を要した。




