4、異世界
目が覚めると周りには姫乃先輩と芽衣が眠っていた。
泣き疲れて寝てしまったのか姫乃先輩の目の周りは真っ赤に腫れていた。
僕はオオカミのことを思い出す。
確かに僕が助けに行っても何もできなかったかもしれない。
最悪全員あそこで殺されてしまった可能性もある。
姫乃先輩はそれがわかって僕を止めてくれたのだ。
姫乃先輩はオオカミが出てくる直前から涙を溜めていた。
逃げている時もずっと泣いていたのであろう。
怖かったのだろう。
学校からいきなり森に飛ばされて、怖くないはずがない。
いくら日頃から気丈な姫乃先輩でも不安なのだ。
姫乃先輩も芽衣も女性だ。
唯一の男の子である僕が泣いていていいはずがない。
しっかりしなきゃいけない。
姫乃先輩が、起きたらお礼を言おう。
そして、先に進もう。
僕はそう心に誓った。
しばらくして姫乃先輩と芽衣が目を覚ました。
姫乃先輩は俯きながらまた
「ごめんなさい。」
と謝ってきたが、
「いえ。僕が行っても何もできませんでした。止めてくださってありがとうございます。」
と返答した。
姫乃先輩は驚いた顔をして、黒い綺麗な瞳で僕を見つめ
「ごめんなさい。ありがとう。」
と言った。
僕たちはここがどこなのかもわからないので、どこに向かえば良いのかもわからない。
ただ、ここにずっといても仕方がないということで、とりあえず進むことにした。
芽衣がこっちの方向に進もうと指を指して提案してきた。
根拠を聞くと「勘」だそうだ。
僕も姫乃先輩も特に意見は無いため、芽衣の勘を頼りに進むことにした。
僕たち3人は行く当てもなく進んでいる。
芽衣を先頭に僕と姫乃先輩が一歩後を歩いていた。
全く見覚えのない景色に僕たちは不安を覚えたが、立ち止まっても仕方がないので、ひたすらまっすぐ進んでいた。
両手に花の状況に僕はこれがピクニックならめちゃくちゃ楽しいのに。
なんてくだらないことを考えていた。
途中トラブルなどもなく、僕たちはまっすぐ進んでいた。
途中で人道のようなものを発見したので、その道沿いに歩いていくことにした。
何度か休憩を挟み、僕たちは歩いていた。
水も食料もないため、この道がどこまで続くのかとても不安だった。
「このまま進んで大丈夫なのか?」
など不安を口にする僕に姫乃先輩は
「きっと大丈夫だから頑張ろう」
と励ましの言葉をかけてくれた。
姫乃先輩は僕よりも体力が無さそうなのに、文句一つ言わずに歩いている。
やっぱり姫乃先輩はすごいなぁと僕は思った。
ついさっき男だからしっかりしなきゃと誓ったばかりなのに。。。芽衣は鼻歌を歌いながらお気楽モードで歩いていた。
6時間ほど歩きそろそろ休憩がしたいと思った時に芽衣が指を差して言った。
「何かが見えるよ!」
僕は顔をあげ芽衣の指差す方向を見ると、薄らと城壁のようなものが見えた。
「助かったのか。。。」
僕は呟いた。
姫乃先輩も目に光が戻ったように見えた。
近づくにつれ、それははっきりと城壁だとわかった。
真ん中には門もある。
ようやく見つけた助かる可能性。
僕たちは疲れているにもかかわらず、歩くスピードを上げ門を目指して歩いた。
門には両脇に衛兵が立っていた。
「すみません。」
と衛兵に声をかけた。
衛兵は僕たちを見回すと怪訝そうに言った。
「なんだお前たちは?ぼろぼろじゃないか。何があった?」
僕は学校にいたのに、気づくと森の中にいたこと。
大きなオオカミに襲われて命かながら逃げてきたことを話した。
水も食料も持っていない状況なので、助けてほしいということも付け加えた。
「そうか。お前たちは転移者か。最近多いな。」
と衛兵は言った。
「転移者?」
僕たちは顔を見合わせた。
「ああ。君たちは地球から来たのだろう?」
「ここは君たちがいた地球ではない。詳しいことは転移者保護施設で聞きなさい。」
「この門を通ってまっすぐ進むと右側に大きな十字架がある建物がある。まずはそこへ行って事情を説明しなさい。」
君たちがいた地球ではない。
その言葉は僕の心に重くのしかかった。
ここまで歩いてきた周りの景色があまりにも現代の街並みとかけ離れてはいたし、よく読むラノベ小説ではお決まりのパターンではあるが、まさか自分がその状況に陥るとは思ってもみなかった。
衛兵に開門してもらい僕たちは門を抜ける。
「うわぁ」
そこには街が広がっていた。
想像以上に広い街でここからではどこまで続いているのか確認できない。
ただ、現代の日本の街並みには程遠く、異世界ファンタジーのお約束のような中世ヨーロッパ風の街並みだ。
門からはまっすぐな長い道が通っておりその先にはお城のような建物が見える。
行き交う人々は人間ばかりで、異世界お約束の亜人などは見当たらない。
僕は異世界お約束のケモミミを期待していたのだが。。。
移動手段の中心は馬車のようだ。
中には犬に車を轢かせる犬車?のようなものも走っている。
「あまり機械は発達していないみたいだね」
と姫乃先輩が言った。
僕たちは衛兵に言われた通り、転移者保護施設に向かった。
街を歩いていると、珍しい服装だからか、はたまたボロボロだからかはわからないが、すれ違う人が異物を見る目で見てきた。
僕はいたたまれない気持ちになったが、姫乃先輩や芽衣は堂々と歩いていた。
途中で中学生くらいの男の子が話しかけてきた。
「ねぇ。お兄ちゃんたち変な格好だね。どこの人?」
「遠いところから来たみたいなんだよ。」
僕が言うと
「ふうん。じゃあ僕が友達になってあげるよ。僕の名前は「空」だよ?お兄ちゃんの名前は?」
「僕は勇だよ」
「じゃあ勇お兄ちゃん今度遊ぼうね!」
と言って走っていってしまった。
どこの世界も子供は無邪気だなと僕は思った。
衛兵の言うとおり、転移者保護施設はすぐに見つかった。
施設の扉を開けると中は広い空間が広がり、いくつかテーブルが設置してある。
その奥に受付のようなものがあった。
受付の机にはベルがあり僕は手に取ってチリンと鳴らした。
「はーい」
という声がしてしばらくすると、女性が出てきた。
女性は受付のマーサさんと言うらしい。
事情を説明するとマーサさんは僕たちを応接室に通してくれた。
そして、
「お腹空いたでしょう?」
とパンとミルクを出してくれた。
僕たちは出されたミルクを一気に半分以上飲んで、パンに齧り付いた。
味気ないパンではあったが、久しぶりの食事でホッとしたのか僕は涙を流しながら食べた。
姫乃先輩と芽衣も無心にパンを食べていた。