36、ミノタウロス
「オォォォォォ」
ミノタウロスは低い声で唸りながら力を溜めて行く。
それと同時に空気が揺れる。するとミノタウロスの体が放電し出した。
バチバチ バチバチ
放電の強さが次第に大きくなって行く。
「ウォォォォ」
ミノタウロスは雄叫びを上げながら、斧を天井に向けた。するとミノタウロスの体から放たれている電気が斧に集まり出す。
そして、ミノタウロスは電気を纏った斧を大きく振りかぶった。
「いくぞ。ライジングインパクト!」と言う発声と同時にミノタウロスは斧を振りきった。
斧の斬撃に電撃が乗り、空間全域に電撃がほとばしる。
「ぐぁぁぁぁぁ」「きゃあああ」俺たちに逃げ場はなくミノタウロスのライジングインパクトをまともに受けて体中に電撃が駆け巡る。
バタン
俺は電撃を受けて倒れた。体が痺れて動くこともできない。
「ううう」俺は倒れたまま呻き声を上げる。
ドシン ドシン
ゆっくりとミノタウロスが近づいてくる。
やばいやばいやばい。動け動け動け。俺は体に力を入れようとする。しかし俺の体は痺れていて力が入らない。
「終わりだ。まぁ人間にしてはよくやったな」俺の近くまで歩いてくると、ミノタウロスはそう言いながら斧をふりあげた。
「クッ」俺は目を瞑る。
ミノタウロスは俺に向けて斧を振り下ろした。
「チェンジ」突如ミノタウロスと野口の位置が変わる。
ドカーン
ミノタウロスの振り下ろした斧は誰もいない地面に突き刺さった。
「なに?」ミノタウロスは何が起きたか理解できず辺りを見回す。
すると、野口が元々ミノタウロスがいた場所に立っていた。
「危なかったね」野口は俺に言う。
「野口どうして」俺は言った。
「ミノタウロスがが放電した時に雷系の攻撃が来ると思ったので、ウォーターウォールで自分を囲んだんだ。2人のところまで囲む余裕はなかったんだけどね」と野口は言う。
「僕が時間を稼ぐから体を回復させて」と野口は続ける。
「ほう。お主みたいな貧弱そうな奴がひとりで我と戦うと言うのか」ミノタウロスは言う。
「やってみなければわからないだろ」と野口は返した。
「ウォーターボール」野口は魔法を放つ。
ミノタウロスはウォーターボールを物ともせずに腕で弾き、野口に突進して行った。
野口の目の前でミノタウロスが斧を振り上げる。
ミノタウロスが斧を振り下ろすと同時に
「チェンジ」ミノタウロスと野口の位置が交換され、背中合わせの状態となる。
ドカーン
ミノタウロスの斧はまたしても地面に突き刺さる。
野口は即座に振り返り
「ウォーターカッター」
魔法がミノタウロスの硬い皮膚を切り、僅かだが傷をつける。
「グッ」ミノタウロスは表情を歪めるが、野口の方へ振り向きざまに斧を横に薙ぎ払う。
野口は剣で防御するが、勢いを止めることはできず飛ばされる。
飛ばされながらも野口は体制を整えて後方に着地し、再度ミノタウロスに向かって行く。
ミノタウロスは斧を振り上げて待ち構えるが、斧を振り下ろす前に野口はウォーターボールを斧に当てた。振り下ろすタイミングをずらされたミノタウロスはよろける。
「たぁぁぁ」その隙に野口は剣を突き立てて、ミノタウロスの太ももに突き刺した。
「グォォォォォ」ミノタウロスが苦痛の声を上げる。
すぐさま野口は剣を抜き、ミノタウロスが次の行動に移る前に距離を取った。
「なかなかやるではないか」ミノタウロスは野口に言った。
「そう簡単にはやられないよ」野口は返す。
「そうか。ではこれならどうだ?」とミノタウロスは言って、再び体から放電を始めた。ミノタウロスの斧に電気が集まって行く。
「ウォォォォ」ミノタウロスの低いうねりと共に斧に力を込める。
くるっ!と俺は思った。
「ライジングインパクト」ミノタウロスが技を放つその時だった。
「ウォーターウォール」野口はミノタウロスを囲んで水の壁を作った。するとミノタウロスの放った電撃は水の壁の中で走り回る。
「グォォォォォ」ミノタウロスは自身で放った電撃を全身で受けている。
電撃がおさまると同時に水の壁も解けた。
ミノタウロスは体の至る所に焦げ跡がつき、そこから煙が上がっていた。
すげぇ。野口は本当にすごい奴だと俺は思った。
「澤口くん。そろそろ動けるようになってきたかい」と野口は聞いてきた。
「あぁ。助かったよ」と言って俺は起き上がる。同時に四宮も起き上がってきた。
「一気に押し切ろう」と野口が言った。
「おう」「うん」俺と四宮は答えた。
「許さん。許さんぞ」とミノタウロスは呟いている。
「お前たちを塵も残らぬよう消し飛ばしてくれる」とミノタウロスが叫ぶ、ミノタウロスの圧力に押しつぶされそうになるが、俺たちは何とか堪える。
「四宮。あれをやるぞ」俺は四宮に言った。
「うん」と四宮は答えた。少し前から四宮と練習をしてきたコンビネーション。
「タイミングが重要だ。四宮に任せる」
「任せて」と四宮は答えた。
ミノタウロスは怒りに身を任せて斧を振ってくる。
しかし、野口から受けたダメージは軽いものではなく、動きが鈍くなってきている。
「ウィンド」四宮の魔法で牽制しながら、俺と野口で交互に斬りつける。大きなダメージこそは無いが少しずつミノタウロスを削っている。
「グォォォォォ」ミノタウロスも雄叫びをあげて、止まることなく攻撃をしてくる。鈍くなってきているとはいえ、破壊力は十分だ。
一発でもまともに喰らえば耐えられないだろう。
「イグニッション」俺は能力の底上げをして、ミノタウロスを攻める。攻撃力はかなり上がっているものの、ミノタウロスを両断できるほどの力はない。それでも、徐々にミノタウロスにダメージを蓄積して行った。
しかし、イグニッションもそう長いこと使い続けることはできない。
俺は四宮に目で合図を送ると、ミノタウロスから少し距離を取った。
俺たちは勝負に出る。
「イグニッション全力」
今まで以上に体から金色の光が溢れ出す。
「行くぜ」と俺は言ってミノタウロスに向かって行く。
野口は魔法でミノタウロスを攻撃して、動きを止めている。
四宮は動かず力を溜める。
俺はミノタウロスの目の前でジャンプし、両手で持った剣を振り上げた。振り下ろす直前に
「グラビティ」四宮が俺の剣にグラビティをかける。
俺の「イグニッション」と四宮の「グラビティ」の力がひとつになる。
「うぉぉぉぉ。グラビティソード!」
俺は全力で剣を振り下ろした。ミノタウロスは反応して斧を横にし、俺の剣を防ごうとする。しかし、俺の剣は斧を真っ二つに切り、ミノタウロスの頭から股下まで切り裂いた。
ブシャァァァァア
切り口から大量の血が吹き出す。
「みっ見事だ、、、、」とミノタウロスは言い残して、真っ二つに別れ倒れた。
「やったぁ」四宮は叫んだ。
「やったね!」野口は喜びながら俺のところに駆け寄ってきた。
「あぁ。野口のおかげだ」と俺は言ってから、野口と勝利を喜び拳を合わせた。
「四宮。うまくグラビティを合わせてくれたな」と近くに来た四宮に言った。
「うん。練習したもんね」と四宮はVサインをする。
「とりあえずなんとかなったなぁ」と言って俺は尻餅をついた。




