35、階段の部屋
俺たちはケンタウロスとの戦闘の後、十分に仮眠をとってから、先に進み出した。
その後も度々魔獣と遭遇をしたが、ケンタウロス級の魔獣はいなかった。
俺たちはいつ強敵が現れても対応ができるよう定期的に休憩をとりながら進んだ。
するとまた開けた空間があった。しかし、今度はケンタウロスいた場所の倍以上もある広い空間だった。
何かありそうだと思い俺たちは通路から覗き込むが、何かがいる気配は今のところない。
「あっ」と声を
漏らした後に四宮が言った。
「階段が見える、、、」俺たちも中を改めて見た。
広がった空間の奥に確かに階段があった。それも幅もかなり広い階段だ。ここからではどこまで続いているのかまでは確認することはできない。
「本当だね。階段だ」と野口が言う。
「受付嬢は階段の部屋には強力な魔獣がいるって言っていたね」野口が続けた。
「その先の階段を登るとアリシアに行けるともな」俺は言った。
あれだけ大きな階段だ。受付嬢が言っていた階段に間違いないだろう。
「どうする?」四宮は問いかけてくる。
「この広場にいる魔獣はおそらくケンタウロスよりも強いよ」野口が言った。
「・・・」ここの魔獣は確実にケンタウロスより強いだろう。しかし、それはわかっていた事だ。引くならケンタウロスと戦った直後だろ。今ここで引いたら何のためにここまで来たんだ。
「俺は行こうと思う」と俺は言った。
「わかった。行こう」と野口は言ってくれた。
「うん。行こう」と四宮も言ってくれた。
「いいのか?」と俺は2人に聞いた。
「澤口くんが行くなら僕も行くよ。僕はもう逃げない」と野口は言った。
「私も翁くんについて行くよ。ほっとけないもの」と四宮が言う。
「ありがとう」と俺は言ってから続けた。
「いこう!」
俺たちは広場に入って行った。
入ってみると外から見た時以上に広い空間だと感じた。
空間の中央まで俺たちは進んでいく。今のところ敵の気配は全くなかった。
「今のところ何も感じないな」と俺が言った。このまま階段まで何も起きないのではないかと思っていた。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ
地面が揺れた。
そして、
「久しぶりの客人だ。歓迎しよう」と声が聞こえた。
おれたは辺りを見渡した。その時、
ドゴーン!
急に横の壁が崩壊し、土煙りが舞い上がる。
ドーン。ドーン。
と足音を立てて土煙りの中から体調3mほどの魔獣が出てきた。
頭が牛で体が人間の魔獣だ。元いた世界で神話に出てくる迷宮の怪物とそっくりだった。右手には斧を持っている。
「我が名はミノタウロス。この階段を守る者。ここを通りたければ我を倒す他に無い」ミノタウロスは言った。
「話ができるのか?」俺は言った。
「当然だ我を他の低俗な魔獣と一緒にするな」
「ここを通してくれないの?」四宮は聞いた。
「我はアシリア王国と契約を結んでいる。ここを通ろうとする者を殺す契約をな。アシリア王国はお前たちラパン王国の者を歓迎しない」ミノタウロスは答える。
「さぁかかってこい!」と言うとミノタウロスから圧力が発せられた。
俺たちはミノタウロスの圧力に押されながらも戦闘体勢に入った。
「やるしか無いな」と俺は言いながら2人と顔を見合わせる。
2人はコクンと頷いた。
俺は王威の剣を抜いて構える。まずは様子見だ。
「ファイアボール」俺は魔法を放った。バスケットボールくらいの大きさの火の玉がミノタウロスに向かって行く。
ミノタウロスは大きく息を吸い込み、
「フゥゥゥ」と吐いて、火の玉を打ち消した。
「この程度の魔法では我は倒せんぞ」とミノタウロスは言った。
「これで倒せるとは思っていないが、息を吹きかけるだけかよ」と俺は言う。
今度はミノタウロスが斧を振りかぶった。
ミノタウロスとの距離は離れており、斧が届く距離では無い。
しかし、それにも関わらずそのままミノタウロスは斧を振りきった。すると物凄い風圧が発生した。俺は腕を顔の前でクロスして、何とか風圧に耐えた。
「きゃああ」四宮は風圧に耐えきれず吹き飛ばされた。そのまま後ろの壁に激突する。
「四宮。大丈夫か?」俺が言うと
「うん。何とか大丈夫」と返してきた。
「パワーが今までの敵と段違いだな。まともに食らったらひとたまりもなさそうだ」俺は言った。
「久しぶりの客なんだ。もっと楽しませてくれ」とミノタウロスは不敵に笑った。
「楽しませてやろうじゃねーか」と言って俺は剣を引きながらミノタウロスに向かって行く。
「ウィンド」「ウォーターボール」2人は魔法を放ち俺のフォローを行う。
ミノタウロスは鬱陶しそうに腕を振るい魔法を打ち消す。その隙に俺は距離を詰めて、ミノタウロスに斬りかかった。
キンキンキン
何度か剣で斬りかかるも、ミノタウロスは斧で俺の剣を受け止める。そして、
「軽い剣だな」と言って剣を弾いた後、すぐさま斧で薙ぎ払ってきた。
俺は剣で受けるが、勢いを止めることができず弾き飛ばされた。
地面に何とか着地した俺は、バランスをとりつつ弾き返された勢いを殺す。しかし、ミノタウロスは俺を追撃してきており、俺に向けて斧を振り下ろす。
ドガーン
俺はバックステップで斧をかわした。斧は地面に突き刺さり、地面を大破させた。
俺は地面に突き刺さった斧を駆け上りミノタウロスの顔面に蹴りを入れた。
バシィ
蹴りはもろに顔面にヒットするが、顔をのけぞらせただけで大きなダメージを与えることはできなかった。ミノタウロスが俺を捕まえようと手を伸ばしてくる。
やばいと思った時に四宮のファイアボールがミノタウロスの顔面に直撃した。ミノタウロスは一瞬怯んで俺を捕まえ損ねた。俺は一旦ミノタウロスから距離をとる。
「あっぶねぇ。助かったぜ四宮」
ミノタウロスは大したダメージは受けておらず、すぐに次の攻撃体制に入っている。
「ファイアボール」「ウォーターボール」「ウィンド」俺たちは距離を取って魔法を打ち込む。
魔法は当たっているものの決定的なダメージを与えることはできていない。
「そんな魔法いくら撃ってきても無駄だ」とミノタウロスは言った。ミノタウロスの言うとおり、これでは魔力を無駄に消費するだけだ。
「確かにその通りだな。四宮、野口、フォローを頼む。イグニッションを使う」と俺は言った。
「「わかった」」と2人は返してくる。
「ハリケーン」四宮は竜巻を発生させて、ミノタウロスを飲み込む。その隙に俺は
「イグニッション」俺の体から金色の光が放出され、全身に力が漲ってくる。
竜巻の魔法が解けて、ミノタウロスが姿を現した。
「ウォーターボール」
野口が数発の水の玉を放ち、同時に俺はミノタウロスとの距離を詰めた。
ミノタウロスはパワーはあっても、スピードはそれほど早くは無い。スピードで圧倒するんだ。
俺は剣を振り上げミノタウロスの頭を両断すべく振り下ろした。
キィン。
ミノタウロスは斧で俺の剣を防ぐ。
すかさず、胴、腕と連続で斬りかかるが、これも斧で防がれる。
そして、足を狙った一撃、ミノタウロスはこれも防御せんと反応するが、一瞬動きが止まった。四宮がグラビティを発動したのだ。
四宮さすがだぜ!と思いながら俺はそのまま剣を振り抜いた。
ザシュ
足を両断しようと思って放った斬撃は、ミノタウロスの肉を少し切ったところで硬い筋肉に阻まれ停止する。
「クッ」
ミノタウロスは動きの止まった俺に斧を振り付けるが、俺は反応して間一髪回避することができた。
俺は再び距離を取り、体力温存のため一度イグニッションを解除した。
「硬いな。イグニッションで斬りかかってもこの程度のダメージしか与えられない」四宮のところに戻った俺は言った。
「なかなかやるでは無いか。客人も数十年ぶりであるが、我に傷を負わすことができたのは数百年ぶりか、、、」ミノタウロスは言った。
「どれ。我も少し本気を出すこととしよう」




