34、ケンタウロス
俺たちは洞窟を進んで行く。
するとまた少し開けた部屋があった。
敵がいる可能性があると思い、俺たちは入る前に中を覗いてみた。
すると人間の上半身に馬の下半身の魔獣がいた。
元の世界ではケンタウロスと呼ばれている種族である。
「あいつやばくないか?」
俺は言った。
「相当強いね」
と野口も言う。
「戦わずに通してくれないかな?」
四宮は言うが、
「まず無理だろうな」
俺は答えた。
「作戦を立てよう。と言ってもいつも通り澤口くんと僕が前衛で四宮さんが後衛かな」
野口は言う。
「まずはそれで行こう。それと奇襲だ。四宮が魔法を唱えて怯んだ隙に俺と野口で一発入れよう」
と俺が言った。
「それもいつも通りだね」
と四宮は笑った。
経験の少ない俺たちの立てる作戦にバリエーションがなんかないのだ。
「よし。行くぞ」
と言って俺たちは奇襲に向けて準備をした。
開始の合図もいつもどおり四宮の魔法だ。
「ハリケーン」
四宮の魔法が発動する。
虚を疲れたケンタウロスは竜巻に飲み込まれた。
俺と野口は飛び出してケンタウロスを狙う。
「イグニッション」
俺は最初から全力でいく事にした。
「ウォーターカッター」
野口も魔法を発動した。
2人同時に竜巻に飲まれているケンタウロスに攻撃をする。
ガキィーン
硬いものにぶつかった感触。
竜巻が消滅してケンタウロスが姿を現すと、俺の剣も野口の魔法もケンタウロスの持っている槍で防御をされていた。
また、四宮のハリケーンでも無傷のようだ。
ケンタウロスは俺の剣を弾いてから、槍で突いてくる。
キンキンキン
俺は剣で攻撃を防ぐ。
「速いっ」
たまらず数歩下がってケンタウロスと距離をとった。
俺はイグニッションを解除した。
このままでは持たなくなってしまうので、イグニッションの使い所を見極めなければならない。
ケンタウロスは馬の足で地面を蹴った。
あっという間に距離を潰され目の前で俺を踏み潰そうとしている。
「やばい」
と俺は思った時、
「グラビティ」
四宮が魔法で動きを止める。
「翁くん。逃げて。長くは止められない」
俺はバックステップで下がると、ケンタウロスは元々俺のいた場所を踏み潰した。
ドーン
ケンタウロスが踏み潰した地面にはクレーターができている。
「スピードもパワーもありやがるな」
俺は冷や汗を拭いながら言う。
「グラビティも力で跳ね返されるので、あまり長い時間は止められないわ」
四宮が言う。
そうこう言っている間にケンタウロスはこちらに向かってきた。
「避けろ!」
と俺は叫ぶ。
俺たちは一斉に散らばりケンタウロスから距離を取った。
するとケンタウロスは左手のひらを前に出して、火の玉を放ってきた。
一度に10発くらいは放っただろうか。
俺はなんとか回避に成功した。
四宮と野口は?と思い振り返ると
「アイスウォール」
「ウォーターウォール」
それぞれ魔法で防いでいた。
ほっとするのは束の間、俺がかわした火の玉が後ろで燃え上がっている。
「くっそ。魔法も使うのか」
ケンタウロスはさらに俺に対して魔法を放ってくる。
俺は複数の火の玉を辛うじて避ける。
するといつの間にかケンタウロスが目の前に移動してきており、馬の足で蹴り付けてきた。
ズドン
俺は咄嗟に腕で防御するものの、吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。
「グハッ」
ケンタウロスは俺が起き上がる前に追撃をしようとするが、
「ウィンド」
四宮が魔法を放ち牽制する。
ケンタウロスは難なく魔法をかわすが、その隙に俺は起き上がった。
「ウォーターボール」
野口も魔法を唱えるが当たらない。
俺はケンタウロスに突っ込み、剣で斬り掛かる。
しかし、ケンタウロスは持っている槍で俺の攻撃をいなしてくる。
その隙に四宮と野口が再び魔法を放つ
「ウィンド」
「ウォーターボール」
二つの魔法がケンタウロスに向かって飛んで行く。
するとケンタウロスはゆうゆうとバックステップを取り魔法を回避した。
「させるか」
と俺はケンタウロスを追撃し、距離を詰める。
ケンタウロスは左手のひらを前に出す。
魔法がくる。かわして攻撃だと俺は思った。
ゴォォォォ
ケンタウロスは火の玉ではなく、広範囲の火の魔法を放った。
「なっ」
俺は避けようもなく火に飲み込まれる。
「ぐぁぁぁ」
俺は地面に転がった。
広範囲のため、威力はさほどでも無いが、複数箇所に火傷を負い激痛が走る。
「翁くん。大丈夫?」
四宮は心配して聞いてくる。
「大丈夫だ。大したことない」
と俺は返した。
ケンタウロスは好機と見たのか、俺を突き飛ばそうと突進してくる。
俺はあえて紙一重でケンタウロスの突進をかわした。
するとケンタウロスは勢いを止めることができず、俺の後ろで燃え盛っている炎に突っ込んだ。
グォォォォォ
ケンタウロスは苦しみの声を上げる。
「ざまぁみやがれ」
一矢報いることはできたものの、攻略の道筋は見えてこない。
ケンタウロスは炎の中から飛び出してくる。
多少ダメージはあるようだが、致命的なものではない事は見てわかった。
すると野口が俺のところに寄ってきた。
「澤口くん。試したいことがあるんだ」
と野口が言って耳元で内容を話す。
ヒソヒソヒソ
「面白いな。やってみよう。ただタイミングが重要だ。大丈夫か?」
と俺が言った。
「任せてくれ」
と野口は力強く言った。
俺は野口と離れてケンタウロスに攻撃を仕掛ける。
ケンタウロスは余裕を持って、俺の攻撃を受け流す。
ケンタウロスは俺の攻撃の隙間をついて、槍で突きを放ってくるが、俺はなんとか剣で防ぐ。
四宮も魔法で牽制をしているが、ケンタウロスはものともしていない。
そうしているうちに野口はケンタウロスの後ろに回り込む。
俺と対角にケンタウロスを挟む形だ。
俺がケンタウロスと距離を取るとケンタウロスは火の玉の魔法を放ってきた。
俺は何とか魔法を回避する。
魔法のうち終わりを見て、俺はスキルを発動する。
「イグニッション」
俺の全身から金色の光が溢れ出す。
「うおぉぉぉぉ」
俺は気合いを入れてケンタウロスに突進する。
ケンタウロスは再度火の玉の魔法を放ち牽制してくるが、魔法をかわしながら進み俺の突進は止まらない。
俺は剣を突き立てて、ケンタウロスを突き刺さそうと突っ込む。
剣先がケンタウロスに届く瞬間、ケンタウロスはサイドステップをして俺の突きをかわした。
俺の勢いは止まらず、ケンタウロスの後ろにいる野口に突っ込む。
「きゃああああ」
四宮が叫ぶ。
俺の勢いは止まらない。
「チェンジ」
野口はスキルを発動し、野口とケンタウロスの位置を交換した。
グザッ
俺の剣がケンタウロスの腹に深々と突き刺さった。
咄嗟の出来事にさすがのケンタウロスは対応ができなかったようだ。
俺はケンタウロスに刺さったままの剣を斬り上げた。
ブシャァァァァア
ケンタウロスの上半身は大量の血を吹き出しながら、真っ二つに割れた。
「危なかった」
俺は尻餅をつきながら言った。
俺の肩にポンと手が置かれた。
俺は振り向くと野口が、
「うまくいったな!」
と親指を立てながら言った。
俺と野口の元に四宮もやってくる。
「ちょっとそんな作戦があるなら先に言ってよ!私、心臓が止まるかと思ったよ」
「わりぃ。四宮には伝える余裕が無かったからな。でも野口のおかげだ」
「さすが野口くんだね」
と四宮も続く。
「うまく行くかどうかちょっと不安だったけどね」
と照れながら言った。
「しかし、こんな敵がこれからも出てきたらやばいな」
と俺は言う。
「そうだね。ケンタウロス級が複数出てくるようだと撤退も考えないとね」
野口が言った。
「まぁもう少し進んで様子をみるか」
俺が言うと
「まずは休憩。翁くんの手当しなきゃ」
と四宮が言った。
俺は気休めの傷薬を火傷の部分に塗りつけた。
今日はここで仮眠をとることにしたが、ケンタウロスの死骸の近くでは落ち着かないので、死骸は魔法で燃やして灰にした。
あれだけケンタウロスが火の魔法を使っていたのだから酸素も大丈夫だろう。
その後俺たちは干し肉で腹を満たした。
食事の時に俺は野口に聞いた。
「野口。バンダナは前から好きなのか?」
野口はこの世界に来てすぐにバンダナを購入してからずっとつけ続けている。
それが何となく気になった。
「これはね。僕の勇気の証なんだ。このバンダナにもう逃げないと誓ったんだ」
と野口は言った。
野口にとってバンダナは重要なものなのだろう。
何となく俺もわかる気がした。
俺たちは仮眠についた。もちろん交互に見張りを立ててだが。
俺が見張り番をしている時に入ってきた通路のあたりで、カサッと物音がした気がした。
俺は警戒しながら音がした方に行ってみたが、特に何も無かった。
俺は魔獣が襲ってくるかもしれないと思い、一層警戒を強めたが魔獣が襲ってくることは無かった。




