30、新たな旅立
俺たちはオークの討伐を終えて、冒険者ギルドに報告にきている。
依頼の完了を受付で受付嬢に報告した。
「依頼完了を確認いたしました。報酬の金貨30枚になります。引き続きよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます」
四宮は金貨を受取りお礼を言った。
「にいちゃん達すげぇじゃねぇか」
「Aランクの依頼達成おめでとう」
ギルドにいる他の冒険者からも温かく迎えてもらった。
「へへへ。ありがとうー」
野口は愛想良く返している。
俺たちは冒険者ギルドを出て、金貨の配分を確認する。
「お前たちだけで倒したんだ。お前たちで全部分けろ」
と王威は言った。
「いいのですか?」
四宮が聞く。
「当然だろ。それに俺は金に困っていないしな」
と王威は答える。
「じゃあお言葉に甘えて」
と四宮は言って俺たちで分配する事にした。
「いゃあ。しかしこんな短時間でAランクをこなせるようになるとはな。オークの増援が来た時は流石に焦ったぜ」
俺は言った。
「これも王威さんのおかげだね」
と野口は言う。
「あーそれでだ」
王威が言った。
「俺がお前たちに教えてやれることはもうない」
「「「はっ?」」」
「王威。なんだよ突然」
と俺が言うと
「卒業だっていってんだよ。まぁ俺にもやらなきゃならない事はあるしな」
と王威は言う。
「そんな私たちはまだまだ」
四宮が言う。
「四宮お前は十分強いよ。これからもスキルと魔法の向上に励め」
「王威さん。初めて名前で呼んでくれましたね」
「まぁ四宮はもう一人前だからな。嬢ちゃんなんて呼ぶのは失礼だろう」
王威は言う。
「ありがとうございます」
「野口はスキルの使い所だ。うまくスキルを使えれば格段に強くなる。まぁ剣と魔法の向上も必要だがな」
「はい。ありがとうございます」
「翁。お前は強くなる。俺なんかよりずっと強くなる。それを忘れんなよ」
「あたりめぇだ。どんどん強くなってやる」
「よし。じゃあお前にはこれをやる。俺が特注で作らせた剣だ。イグニッションにも耐えられるはずだ」
王威は自分の腰にある剣を差し出した。俺は剣を受け取る。
「ありがとうございました。王威さん」
「よっし。それじゃあまた会おうな」
「「「はい。ありがとうございました」」」
王威は背中を向けて歩いていくが、ふと立ち止まって言った。
「あっそうそう。元の世界に帰りたいのなら、アシリアに行ってみるといい。何でもそこにはAEとお前らのいた地球をつなぐ柱があるそうだ」
思いもかけず王威からもといた地球に帰る方法のヒントがもらえた。
「それとな黒陽。黒の組織とも呼ばれているが、その組織には手を出すな。幹部連中は今のお前たちでも歯が立たない」
「まぁお前たちのやりたいようにやれ。ただ簡単に死ぬなよ。じゃあ本当にさよならだ」
そう言うと王威は去っていった。
「本当にありがとうございました」
と言って、俺たちは王威の背中が見えなくなるまで見送った。
「アシリアか」
俺は言った。
「行ってみようよ」
と四宮は言った。
「そうだね。他に手掛かりも無いしね」
と野口も言う。
「行くか。アシリアに」
俺たちの次の目的地が決まった。
俺たちはベルンの街の冒険者ギルドに来ている。
アシリアの場所を聞くためだ。
「アシリアって場所を知っていますか?」
四宮は受付嬢に聞いてみた。
「アシリアですか。ここからかなり北の方の国ですね。」
受付嬢は答える。
「このナパン王国の隣国ですが、国境は大きな山脈になっていまして、洞窟を抜けないといけません。洞窟にはかなり強い魔物がいるそうですよ。私も詳しいことはわかりませんので、北東の方の街ラビルに言って聞いてみたらいかがでしょう。東の森から北に向かうとラビルの街があります。ラビルは鉱山があり活気のある街ですよ」
「ありがとうございます。まずはラビルに行ってみます」
俺たちは受付嬢にお礼を言ってギルドを出た。
俺たちは旅の準備をする。と言ってもそれほど準備するものはない。
ボロボロになってきていた服を新調したのと地図、鍋。
あとは調味料と食料が取れなかった時のための非常食くらいだ。
今日は宿に泊まり明日の朝出発とした。
翌朝、俺たちはラビルに向けて出発した。
ベルンを出てまずは東に向かう。
俺たちは王威に言われたとおり、訓練は怠らなかった。
午前中はラビルに向かい昼食後は訓練、訓練後にまたラビルに向かう。
夕方になったら食料を調達して夕食、そして寝る。
こうして俺たちは目的地に向かっていった。
東の森に着いた頃、遠くから怒声が聞こえた。
俺たちは声のする方に近づいて、岩の影に隠れる。
すると男女が2人ずつ。男1人に対して3人が対立している様子だ。
戦っているのか?
1人の男が言う
「僕も先輩を渡したくない!!」
その男が海賊刀を持っている男から女を助けようとしているように見える。
どちらが悪役なのかは一目瞭然だ。
「助けに行くか」
と四宮と野口に確認する。
2人とも頷いた。
「よし。行くぞっ」
と俺が言った時に四宮が制止した。
「待って。様子がおかしい」
俺は男の方を向いた。
すると1人の男の足元から光が放出されていた。次の瞬間男は数十m先で女を抱き抱えていた。
「何があった?」
俺には見えなかった。
「僕にもわからない」
と野口が言う。
「電光石火、、、」
四宮がボソッと言った。
確かに王威がウサギ狩りの時に見せた電光石火に似ている気がした。
ふと、後ろの女が俺たちに気づいたようだ。
俺たちは警戒して構える。
すると女は、
「アイスランス」
と海賊刀を持っている男に魔法を放つ。
その後海賊刀の男を氷の壁に閉じ込めて3人は逃げていった。
しかし、氷の壁の強度はそれほど高いものではないらしく、海賊刀の男が氷の壁を破壊ながら抜け出してきて、3人を追いかけようとしている。
「いくぞっ」
と俺は言って飛び出した。
2人も後に続く。
俺たちは海賊刀の男の前に立ち塞がった。
「てめぇ邪魔すんじゃねえ」
と海賊刀の男は怒鳴ってくる。
「今日のところは帰りな」
と俺が言うと
「あぁ?何を舐めた事言ってんだ」
と海賊刀の男は言う。
「3人相手に勝てると思うの?」
と野口が追い討ちをかける。
海賊刀の男は
「てめぇらいつか必ずぶっ殺すからな!」
と逃げた3人に聞こえるように言い放ち、逃げた3人とは反対の方向に去っていった。
去り際に「お前らもいずれぶっ殺す」と定番の言葉を残して。
「なんだったんだろうね?」
四宮が言う。
「さあね。でもあの女の子可愛かったね」
と野口が言った。
「確かに。そうだな」
と俺は顔を赤めながら言うと、四宮が
「ふーん。どうせ私はっ」
と頬を膨らませていた。
その後も俺たちはラビルに向かって旅を続けた。
俺たちは食べ物には困ることはなかった。
ウサギや猪、魚、蛇など王威と一緒に訓練した時のサバイバルが非常に役に立った。
最初はウサギを捕ることができなかった俺も今では捕まえることができるようになった。
まぁ四宮や野口の方が上手いんだが。。。
きっと王威はこういうことも想定して訓練をしてくれたのだろう。
それに街で買った鍋と調味料が大活躍をしていた。
今までは焼く事しかできなかったが、煮たり、蒸したりとできるようになった。
スープは特にありがたかった。
「四宮は今度料理を勉強しようかな」
と言っていた。
是非勉強して美味しい料理を作ってほしいと思った。
今日は雨が降っている。
四宮が俺たちの上にアイスウォールを張って雨に濡れないようにしてくれていた。
長時間魔法を発動し続けることは大変だが、四宮は最小限の魔力消費にすることで、発動し続けることができている。
四宮は魔力の使い方が非常にうまい。
「魔法コントロールの練習になるから丁度いいよ」
と四宮は言ってくれているが、今度街についたら雨具を買おうと心に誓った。
魔獣にもちょこちょこ襲われた。
ゴリラっぽい魔獣。
ドラミングしてから突進してきたので、
「うぉりゃあ」
と叫びながら俺は剣で両断した。
王威からもらった剣はとてもよく切れる。
俺はこの剣に「王威の剣」と名付けている。
鷹のような魔獣はいきなり空から襲ってきた。
「アイスウォール」
すかさず四宮が魔法を唱え、初撃を防ぐ。
その後
「グラビティ」
四宮は続け様に鷹に重力をかけた。
鷹は地面に這いつくばってもがいている。
鳥系の魔獣が空の優位がとれない。
怖いスキルだな。
地面に這いつくばった鷹を俺は哀れみを感じながらとどめをさす。
オーガも襲ってきた。
俺たちが転移直後に襲われた魔獣で、本当にギリギリの勝利だった。
「ウォーターカッター」
と俺が感慨に浸っている間に、野口が瞬殺していた。
「俺はあんなに苦戦したのに。。。」
転移直後と今では比べるまでもないが、俺は少し複雑だった。
襲ってくる魔獣の大半は元いた地球の生き物が大きくなりパワーアップした魔獣だった。
ほとんどその生き物の特性は変わらなかったので、対策は立てやすかったし、王威の元で訓練をした俺たちには障害にはならなかった。
そうして1か月ほど移動をした。
ようやくラビルの街が見えてきた。
ベルンのように大きな街ではない。
どちらかと言うとモンド村の方が雰囲気は近い。
俺たちはラビルの街に入り、アシリアに向かうための情報収集をすることにした。




