25、訓練
俺たちはベルンの冒険者ギルドに来ている。
王威から貰ったウサギを受付嬢に渡して、少ない報酬を受け取った。
これだけで服買えるのかな?
と思いながらギルドを出ようとすると
「澤口翁さん」
と受付嬢から声をかけられた。
再度受付に行くと受付嬢は言った。
「先日お申し出をいただきましたオーガメイジ討伐ですが、教えていただいた場所を確認しましたところ、オーガメイジの亡骸を確認いたしました。したがって依頼達成の報酬をお渡ししたいのですが、正式に依頼を受けていないことと、本来受けることのできないランクの依頼ということで、正式な依頼報酬半額の金貨1枚でよろしいでしょうか」
俺たち3人は驚いて顔を見合わせた。
俺たちにとってはありがたい話だった。
即オーケーして金貨1枚を受け取った。
よかったこれで服が買える。
俺たちは街の食堂で食事をしたあと洋服屋に向かった。
食堂では四宮が
「王威さんにもお土産買って行こうよ」
と提案した。
ウサギは王威から貰ったものだし俺も野口も異論は無かった。
洋服屋で俺たちは丈夫そうで動きやすい服を購入した。
着替えの事も考えて、各自2セット買いその場で着て行くことにした。
野口はバンダナを買っていて、
「へへへ。かっこいいだろ」
と自画自讃していた。
街での予定を終えて俺たちは王威の元へ向かった。
「よう戻ってきたか」
王威はさっきと同じ場所に座っていた。
コートを頭から被ったスタイルは変わらない。
昔受けた大きな傷があり、あまり素顔を晒したくないのだそうだ。
「王威。早速始めようぜ」
俺は言った。
「今日はもう夕方だからな。本格的に始めるのは明日からだな。
今日は魔法適正とスキルの確認をしよう」
と王威は言った。
「まず魔法からだ魔法は頭でイメージした物を魔力回路を通じて放出する。魔力回路が繋がっていれば誰でも使える」
「最初は火からだ。各属性をやってみて適性を見る。」
俺たち3人は火 水 風 土 光 闇とそれぞれの魔法を使ってみた。
王威は俺たちのお土産の干し肉に齧り付きながら見ている。
俺たちは3人共に無事、魔法を使うことができた。
「翁の適正属性は火だな。嬢ちゃんは風だ。野口は水だな」
王威が言うには人それぞれに得意な属性があるそうだ。
「よし。明日からは自分の得意な属性の魔法練習を中心にやれ」
俺たちは頷いた。
「次はスキルだな。翁は身体強化、嬢ちゃんは重力操作があることはわかっている。その他にも持っているスキルがあるかどうかを確認するぞ」
スキルはイメージを行うことで適性を持っていれば、発動させることができるらしい。
俺たちは様々な事象をイメージして、どんなスキルがあるか確認した。
俺と四宮には他のスキルは見つからなかった。
ただし野口は違った。
少し離れた場所に丸太を置いて、移動させるイメージをした時に野口が消えた。
次の瞬間、野口と丸太が位置を交換したように変わっていた。
「野口。お前は何かと自分の位置を交替するスキルなのかもしれないな。今後確認しなくてはならないのは、対象は自分と物なのかそれとも物と物も可能なのか。人も可能なのか。後は発動できる距離ってとこかな。なかなかレアなスキルじゃねーか」
王威は言った。
「ただし強力なスキルを持っていても使い方が悪いと宝の持ち腐れだ。スキルは能力向上と共に使い方も訓練していけ」
「へへへ。良かった。僕だけ足手纏いにはなりたくなかったから」
と野口は言った。
「おし。じゃあ明日から特訓だぞ。もう今日は寝ろ」
「えっここでですか?」
四宮が聞いた。
「当たり前だろ。どこでも寝れるようになれ。寝てる時に何かあったらすぐに対応できるようにしろよ」
王威の言うとおりに俺たちは木を背にして眠った。
疲れていたこともあり3人ともすぐに寝てしまった。
翌朝、簡単な朝食後に俺たちの特訓が始まった。
午前中は基礎体力づくりだった。
ダッシュやランニング、筋トレなどを行なった。何をやるにしても基礎体力は大事だそうだ。
「俺の特訓期間が終わった後でも基礎体力づくりには手を抜くなよ」
と王威は言っていた。
午後になった。
「午後は武術、魔法、スキルの特訓を行なっていくぞ。だがそれぞれ得意なところは違うから、みんな別々でやるぞ」
と王威は言う。
「翁は接近戦重視の戦いが得意だから武術5、魔法2、スキル3の割合だな。武術は俺との組み手。魔法は火の魔法の発動スピードと威力アップ、スキルはイグニッションの効果アップと発動時間延長を意識しろ」
俺のスキルも王威と似ているので「イグニッション」と呼ぶことにしていた。
王威の考えた訓練内容には全く異論は無かった。
「嬢ちゃんは武術2、魔法とスキルを4だ。武術は野口と組み手をして最低限敵の攻撃を防げるようになれ。嬢ちゃんは魔法の適正が高いし、スキルは汎用性がある。魔法は風を中心に火と水も底上げしろ。スキルは威力と持続時間アップに加え、上からだけではなく横からもできるか、重力を強くするだけではなく弱くすることもできるかを試していけ」
「はいっ」
四宮は返事をした。
「野口は武術3、魔法3、スキル5だな。武術は四宮との組み手で残りは俺との組み手だ。魔法は水に特化して威力と発動スピードを上げろ。お前のスキルは戦闘でも非常に強力だ。戦闘を意識した使い方を学んでいけ」
「はいっ」
と野口も納得しているみたいだ。
俺はまず王威との組み手を行った。
基本的には俺が攻撃して、悪いところに指摘が入る。
たまに王威が攻撃してきてそれを受ける。
この繰り返しだった。
何度やっても俺の攻撃は一発も王威を捉える事はできなかった。
反対に王威が攻撃してきた時には、一度もかわすことができなかった。王威と自分との力の差を俺は痛感した。
次は魔法。
俺は四宮ほどではないが魔法の適正もあるそうだ。
火の魔法のみのスキルアップを図る。
ファイアボール・・・炎をバスケットボールくらいの大きさに収縮して放つ威力重視の魔法だ。
ファイア・・・広範囲に炎を放つ
この2つの魔法を強化していく。
魔法やスキルはイメージが大切なため、名前を付けて発動時に発声することにより、イメージを付けやすくして発動スピードをあげることができるそうだ。
名前は安易だが、王威は「馴染みやすい名前の方がよい」と言っていたのでこれにした。
最後にスキル
「イグニッション」の強化を行う。
持続時間と効果アップが目的だ。
これはただ「イグニッション」を発動して、限界まで動き回るという訓練だった。
今のところ俺はイグニッションを3分しか維持できない。ウルト○マンかっ!!
四宮の訓練を見てみる。
武術は野口との組み手。
俺が王威とやっているのと同じように、互いに攻撃して防御するの繰り返し。
悪いところがあると王威から檄が飛ぶ。
野口は最初は四宮が女性ということで遠慮して、力を抜いていたが、王威にぶっ飛ばされた。
「敵は女性だなんて思ってはくれん。お前が手を抜くことは四宮の死に繋がるぞ」
と言われてからは全力で取り組んでいる。
四宮は魔法の適正が高い。
得意属性の風については以下を使いこなせるようにしている。
ウィンド・・・風の刃を飛ばす。
ハリケーン・・・竜巻を起こし巻き上げる
ファイアボール・・・炎をバスケットボールくらいの大きさに収縮して放つ威力重視の魔法。俺よりも高火力。
ウォーターボール・・・水をバスケットボールくらいの大きさに収縮して放つ魔法。
アイスウォール・・・氷の壁を作る。防御系魔法。
得意な属性の風系の威力がやはり突出しているが、他の属性も俺よりも上で、十分実戦に使えるものだった。
四宮のスキルは重力の操作だ。
「グラビティ」と名前を付けたようだ。
そのまんまだが。。。
重力の圧力を上げる特訓を中心に行っている。
今でも柔らかい木の実程度なら潰すことができる。
今はりんごを潰す訓練をしている。
他にも発動スピード、範囲調整、持続時間などスキルアップしなくてはいけない項目は多い。
横に圧力をかけることや、圧力を弱くすることも練習して行くが、今日の時点ではうまくいっていないようだ。
最後に野口の訓練だ。
武術は四宮と王威との組み手。俺と内容はさほど変わらない。
魔法は水魔法に特化させている。
ウォーターボール・・・水をバスケットボールくらいの大きさに収縮して放つ魔法。
ウォーターカッター・・・水圧で斬撃をだす。貫通力は高い。
ウォーターウォール・・・水の壁を作る。
野口は四宮ほどではないが、俺よりは魔法適正が高いようだ。
そしてスキル
野口のスキルは戦闘に非常に便利だ。
名前は「チェンジ」と名付けたようだ。
これまたそのまんまだ。
自分と物の場所を交換できるスキル。
人間も対象となるようだ。
ただ、固定されている物や、重量が非常に重い物はできない。
魔法も対象になることがわかった。
俺の放ったファイアボールと交換することができた。
自分以外のもの同士はまだ成功していない。
「無理かもしれないが練習してみろ」
と王威は言っている。
こんな感じでこれから特訓を続けていく。
そして1日目の特訓が終わった。
「今日はここまで!」
と王威が言う。
「はぁーーー」
と力が抜け俺たちは尻餅をついた。
もう夕方になっていた。俺たちはみんなへとへとだ。
「よし。これからウサギを狩にいくぞ」
と王威が言った。
「よしウサギ狩り、、、」
「「「はぁぁぁ?」」」
 




